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赤毛のアン
もう一度少女に帰ろう。人生の深みを知ったいま、アンに再会してみませんか? ーーふとした手違いで、老兄妹に引き取られることになった、やせっぽちの孤児・アン。想像力豊かで明るい性格は、いつしか周囲をあたたかく変えていく。グリーン・ゲーブルズの美しい自然の中で繰り広げられるさまざまな事件と、成長していくアンを綴った永遠の名作。講談社だけの完訳版『赤毛のアン』シリーズ全10巻の第1巻。
アンをめぐる人々
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アンの娘リラ
2011/04/21 00:59
アンがマリラから受け取ったもの、渡したものが、ふたりめのマリラへ受け継がれる。
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
アン・ブックスの最終巻とされる「アンの娘リラ」。
(このシリーズには「アンの友達」、「アンをめぐる人々」が
用意されているが、いずれも番外編とされている)
アンももはや6人の子を持つ母親で、結婚生活も20年だが
あいかわらずギルバートは優しくて
アンのことをとても大切にしてくれる。
5人の子供たち(3人の息子と2人の娘)は大学へ進学し、
アンとギルバートの暮らす炉辺荘には
末娘のリラと家政婦のスーザン、犬のマンデーと猫の博士が残る。
4人プラス2匹のちょっと寂しい、穏やかな生活だ。
物語はリラがもうすぐ15歳を迎えるところから始まる。
愛情を存分に受け、のびのびと育った少し甘えん坊の少女リラ。
彼女の夢は、はやくボーイフレンドを持つこと。
こんなふわふわしたリラが、約4年間で
頼もしい女性へ成長していく様子が描かれる。
ちなみにリラという名前は、
アンをグリーンゲイブルスで育ててくれた
マリラ・カスバートに由来する。
リラがはじめてのパーティーへ出かけるときに
マンデーがやけに悲しそうに吠えていた。
着飾ったリラに、憧れだった男の子ケンが声をかけてくる。
リラはとても幸せだった。
パーティーは若さと熱気にあふれていた。
リラのように幸せな子が何人もいたはずだ。
しかし、誰かが悪魔の知らせを持ってくる。
「イギリスがドイツに宣戦を布告した!」
1914年、第一次世界対戦の始まりである。
しかし、このときはまだリラにはわからなかった。
いま暮らしているカナダのプリンスエドワード島に
このニュースがどれだけの影響を与えるかということを。
アンの息子たちは次々と兵士へ志願していき、
ジェム、ウォールター、シャーリーの3人とも行ってしまった。
村には、男の子がたくさんいても1人も志願しない家もあるのに。
マンデーはジェムを見送りに行った駅のそばから離れようとしない。
家に帰らず、駅のそばの小さな小屋で毎日汽車から降りる人を見つめている。ジェムが大好きだったからだ。
兄たちを待ちながら家事を支える日々を暮らすリラ。
祈りながら耐えて、日常をなんとかやり過ごしていくうちに
リラは強さと聡明さを身につけていくのだった。
いつの間にか戦争孤児を引き取るくらいに。
まるでマリラだ。アンを育てたマリラの逞しさだった。
そしてこのふたりめのマリラに、
傷心しているアンはどれだけ助けられたことだろう。
特にリラと仲のよかったウォールターが戦地から送る手紙に涙がこぼれた。
深い、強い、かけがえのないものに対する愛情。
怒りや諦念のような個人的な感情を超えた、大きな思い。
ウォールターの、崇高なまでの志の高さと優しさに胸を打たれる。
モンゴメリーは、最初、アンの話を一冊で完了する予定だった。
だから「赤毛のアン」は完璧でありあの本にすべてが詰まっている、
ともいわれるが、この最後の「アンの娘リラ」も外せないと思う。
ウォールターの手紙には、アンを通してモンゴメリーが伝えたかったことが
凝縮されているように思えるのだ。
戦争のつらさは、平和の尊さを書くためのモチーフなのだろう。
実際に戦争のあった世代の生命に対する切実さは、戦争を知らない世代のわたしには感じることはできないし、軽く語るものでもないだろう。
モンゴメリーが、
この手紙から現代に生きるわたしたちへ伝えてくれるもの。
そのひとつが、
究極の試練の場面での身の来し方というようなことではないだろうか。
そしてそのようなものを発揮する力をつくるのは、
日々の地味な小さな選択の積み重ねなのだろう。
アンを通して読んでみて、彼女が植えてきたいくつもの小さな種が、
みずみずしく育っていることに、改めて感動する。
そうだ、彼女はいつでも、自身の日々の選択に誠実だった。
戦争観とか宗教観とか、現代ではなじまない部分もあるけれど、
普遍の輝きをもつアンの生き方は、
これからも多くの女性のバイブルとなっていくのだろう。
アンの夢の家
2011/04/08 21:24
「幸せすぎる」アンの試練と魂の王国。
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
「エミリー」でモンゴメリーにノックアウトされた後
アン・ブックスにしずかに手を伸ばし、7巻まで読み進んだ。
できれば、村岡花子訳の新潮文庫が読みたいところなのだが
うちにあるのは講談社の完訳版なのだった。
アン・ブックスの5巻にあたる「アンの夢の家」では
シンデレラ街道をまっしぐらに進むアンに訪れた、
大きな試練が描かれる。
4巻の「アンの幸福」でも、
赴任した学校での人間関係のつらさという局面があったが
今度の試練はそれを大きく上回る。
アンにとって忘れることができないくらいの
深い悲しみが含まれる試練である。
アンには不幸は似合わない。
しかし、ここで迎えた試練は
アンのその後の人生を、豊かに味わいのあるものにする。
この大きな試練にぶち当たる前に
アンの前に現れる、レスリーという女性。
彼女がアンの経験をまさしく意味のあるものに変える。
レスリーは、それまでアンが出会ったどの女性とも違っていた。
どんなに想像力を駆使しても追いつかないような
悲しみのまん中にいたのだった。
傷つきすぎるくらいに傷ついたレスリーは
そう簡単に、他人に心のドアを明け渡さない。
ましてや、悩みなどなさそうに見えるアンなどには。
誰とでも親しくなれるアンの魔法がなかなか効かないのだ。
感の鋭いアンは、彼女と会ってまもなく
その心の虚ろさにたじろぐが、ある考えに辿りつく。
「レスリーは奥の深い人で、
そのなかに入ることを許された友人にとっては、
王国に入るようなものだと思うわ」(本文より引用)
そして、後日にレスリーの身の上を耳にしてから
彼女の「孤独な魂の王国へ入る道を探し始める」のだった。
アンの分別のあるノックのしかたに、
徐々にレスリーの頑なさも氷解していき、
アンが悲劇に見舞われたときに
やっとレスリーはアンに心を寄り添わせることができる。
ここには、女性どうしの友情の姿の真実が
飾ることなく描かれていると思う。
そして、アン・ブックスは、アンが結婚してからは
大人のための小説なのだとつくづく感じる。
人生を味わい深くするためのスパイスは
甘い香りよりもむしろ
辛かったり苦かったりするものだから、
アンのここでの試練と、レスリーとの友情には
とても惹きつけられるものがある。
そして、気難しいレスリーの魂の王国へ進んでいくアンの
洞察の深さと勇気に感動してしまう。
簡単にレスリーを敬遠してしまわずに包み込もうとするアンに
否定より肯定の力がつよいことの素晴らしさを感じる。
アンの友だち
2009/04/30 16:23
人に尽くすということの清らかさ
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ぱせりん - この投稿者のレビュー一覧を見る
「アンの友達」と銘打ってはいますが、アン・シャーリーはほとんど出てきません。
プリンス・エドワード島のアボンリー付近の人たちのお話です。
昔のカナダの田舎に暮らす人々の、何もないようでいて当人たちにとってはいたってスリリングな日常をつづった短編集ですので、ハッピーエンドを期待しながらのんきに読むのが最高です。
物がない時代、田舎の素朴な人々の生活にはほのぼのとします。
特にロイド老嬢の短編は、人に尽くすということの清らかさを改めて感じさせられ、現状の自分を反省するよいきっかけになりました。
若気の至りで意地を張り続けたことを後悔しながらも、年をとったらとったなりの頑迷さで行動を改められないロイド老嬢。
それでも、彼女は人を愛し、尽くすことの喜びを知っており密かに行動を起こします。
私は常々「生きていくだけなら一人でも出来るけれど、幸せになるには『誰か』がいてくれなくてはならない」と思っているのですが、ロイド老嬢の物語を読んでその気持ちがますます強くなりました。
献身的ともいえる愛情を注ぎ続ける彼女にやがてくる幸せはどんなものか、ぜひご確認ください。