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ホワイトヘッドの哲学
著者 中村昇
超難解な思考をあざやかに解説! ホワイトヘッドの世紀は来るか!? 本書は、ホワイトヘッドという哲学者のひじょうに偏った入門書である。読者の方々が、ホワイトヘッド自身の本を手にとってみようか、という気になられることだけを目指した。他意(?)はない。わかりやすさを重視したので、かなり強引なところもあると思う。特に入門篇は、こちらの興味にぐっとひきつけて書いた。淡々と説明だけをするというのは、どうしても性にあわない。それぞれが、1話完結のエッセイとしても読めるように工夫したつもりだ。上手くいったかどうかは、保証の限りではない。もちろん全体として一貫した流れはある。いってみれば、本書全体が、ホワイトヘッドが考えたこの宇宙とおなじあり方、つまり「非連続の連続」になっているといえる……といいのだが。――〈[まえがき]より〉(講談社選書メチエ)
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ホワイトヘッドの哲学
2008/02/17 23:05
ホワイトヘッドの難解な哲学にはじき飛ばされた著者と読者
5人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
以前、日本に留学してきた米国人の哲学科博士課程在籍者にたずねたことがある。「今、もっともすぐれた哲学者はだれ?」と。返ってきたのは「ホワイトヘッド」であった。
それ以来、気にはなっていたが、なかなか手が伸びないでいた。そんな折、昨年ホワイトヘッドの入門書が刊行された。本書がそれである。著者は、確信がもてないのか「あとがき」で読者に、平易に解読する作業が成功しているかどうかを問うている。残念ながら、私の答は「否」である。
本書の半ば過ぎくらいまでは、大胆な解読作業は成功を収めている。しかし、これを過ぎ、ホワイトヘッドの中心的概念を説明するあたりから、急速に著者の切れ味は鈍る。
むずかしいままのホワイトヘッドがそこにはある。「抱握」「活動的生起」「延長連続体」といった、そのままでは、意味がとれないことばの数々を、ほかの言葉に言い換えてでも、読者に理解させるのでなくては、本書の試みは成功したとは言えないだろう。
これは著者の力不足と言うよりも、ホワイトヘッドが、世界の本質を見抜いてしまい、それを表現するのにできあいの言葉では不足であったことに起因する。
ホワイトヘッドの経歴は驚くべきものである。60歳までは数学者として大学で教鞭を執り、これを過ぎてから、哲学の世界に飛び込んだ。量子論などの最新の知見に基づいて、世界を読み解く作業は、おそろしく精緻である。ただ、用語が難解すぎる。記述もそうだ。
世界の本質を、生成しては、消滅していく流動性としたのは、正しいだろう。これは昨年ベストセラーになった『生物と無生物のあいだ』(福岡伸一著)に通じるものがある、福岡は、読みやすい言葉で表現し得たが、ホワイトヘッドは難解な術語を操った。
もうデリダや廣松渉の時代ではないのだから、特異な表現で済ませるのは、時代に合わない。ホワイトヘッドの時代がくると言われながら、いっこうにそうならないのは、時代の要請に応える記述ができていないからだ。
大胆な解読作業を試みた本書でさえ、途中で失速するくらいだから、ホワイトヘッドの時代はこないだろう。同じことをもっと平易な言葉で表現する者たちがいる時代なのであるから。
ホワイトヘッドは偉大ではあるが、時代が求める人物たり得ていない。残念ながら、それが率直な感想である。
一部の難解な哲学用語愛好家のあいだのかっこうの言葉遊びの材料になっているのは遺憾としかいいようがない。