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戦争の日本近現代史 東大式レッスン! 征韓論から太平洋戦争まで
著者 著:加藤陽子
日本はなぜ太平洋戦争に突入していったのか。為政者はどんな理屈で戦争への道筋をつくり、国民はどんな感覚で参戦を納得し支持したのか。気鋭の学者が日清戦争以降の「戦争の論理」を解明した画期的日本論! (講談社現代新書)
戦争の日本近現代史 東大式レッスン! 征韓論から太平洋戦争まで
06/05まで通常1,045円
税込 732 円 6ptこの著者・アーティストの他の商品
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戦争の日本近現代史 東大式レッスン!征韓論から太平洋戦争まで
2009/09/10 20:59
歴史学習における「問い」の大切さを教えてくれる本
18人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
作者の意図は本書の巻末に書いてある。「二度と戦争は起こさないという誓いが何度繰り返されても、今後起こりうる悲劇の想定に際して、起こりうる戦争の形態変化を考えに入れた問題の解明がなくては、その誓いは実行されないのではないか」という山口定氏の言葉を念頭に「いくつかの戦争を分析することで、戦争に踏み出す瞬間を支える論理がどのようなものであったのか」について考察を深めることであるという。なぜなら「新しく起こされる戦争というのは、以前の戦争の地点からは、まったく予想もつかない論法で戦闘かされ、合理化されてきた」故に、こうした事例分析をひとつでも多く、将来の非常時に直面した際、「現実的な態度」で事態に臨むことが出来るからではないかと著者が想定しているからなんだそうだ。
本書を読めば、明治維新以後国際社会の荒波に投げ出された日本が、焦燥に駆られながらも何とか時代と格闘し、徐々にその足場を極東の一角に確立していく様子を知ることが出来る。明治以来、朝鮮半島は日本の安全保障上の最大の問題であり、ここを如何に軍事的中立状態(日本に敵対的な勢力が朝鮮半島を支配下に置かないよう)にするかにつき、日本の指導者たちは心を砕いてきた。昨今、朝鮮半島がまたぞろ蠢動しているが、歴史的にも地政学的にも、この半島は常に極東における「やっかいな騒動」のタネであった。その「やっかいな騒動のタネ」から戦後の日本はしばらく解放されてきた。朝鮮戦争によりアメリカ軍が韓国に常駐することになり、朝鮮半島の地政学的負担は日本からアメリカへとバトンタッチされたからである。これは日本にとって僥倖だったのである。朝鮮半島を巡りアメリカ、中国、そして旧宗主国たる我が日本が関与するのは当然だが、なぜロシアがと常々思っていたが、本書を読んで、この疑問が氷解した。ウラジオストックは冬は凍結する港であり、ロシアは兼ねてより冬でも凍結しない北朝鮮の港(元山など)を手に入れようと虎視眈々と機会を伺っていたのだ。六カ国協議にロシアが参加しているのは、まさか元山狙いというわけでもあるまいが。
本書が冒頭で指摘している通り、これまで私が学習してきた歴史の教科書は研究書を水割りしたようなものばかりで、出来事=事件の羅列はあっても、「なぜ、その事件は起きたか」という「問い」はほとんど書いていないものばかりだった。年号や事件名を幾ら覚えても、なぜ当時の人々は戦争遂行政策を支持したのか、なぜ当時の政府は開戦に踏み切ったのかが全く分からない本ばかりを学校で使ってきた。大学、社会人と進んで様々な本を読むにつれ、いろいろな「問い」に出会い、また「その答え」に巡り合う機会もないではなかったが、それは「大河の一滴」をすくい取るような気の遠くなるような作業を必要とし、なかなかその全貌を明らかにしてくれるものは、残念ながら今まであまりなかったのである。本書は、その意味で、新書という制約はあるものの、かなり「なぜ」に応えてくれる有意義な書物であると断言できる。
本書を読んで「なるほど」と思った点をいくつか挙げてみよう。
私は日清戦争の賠償金2億テールは、てっきり豊かな大清帝国が手元にある現金から即金で払ったのだと思っていた。しかし、事実はロシアとフランスによる融資(借款)で日本に支払ったのであり、この融資の見返りにロシアは満州を横断する中東鉄道(東清鉄道)の建設と、ハルビンから旅順に向かう南部支線の建設、更には旅順港の租借という事実上の満州植民地化を清に要求したのだ。当然、こんな要求を清は撥ね付けてしかるべきなのだが、ニコライ二世の戴冠式に出席するためロシアに出張した李鴻章にロシアは莫大な賄賂を贈って、彼を篭絡してしまう。私は、これまで李鴻章を科挙を優秀な成績で突破した大秀才として尊敬していたが、晩年の彼は金品に目がくらんで国を売り渡す亡国の汚吏に転落したと知って、がっかりであった。ロシアというのは、いざとなったらかなりえげつない方法を躊躇なく採用する国であることは今も昔も変わりはない。だからみんなから嫌われるんだな、露助は。
また、このロシアによる満州支配の野望にいち早く反応したのが英国で、英国は直ちに山東半島の威海衛を租借し、返す刀で日英同盟を締結し日本を支援することでロシアの極東における影響力増大を押さえ込もうとする。このあたりは「日本を東洋の番犬」として使いきろうとする英国の狡猾さの表れでもあったわけだが、これが日本にとっては天佑となったわけだ。これに門戸開放政策を掲げるアメリカが乗っかってくる。中国の門戸開放を狙うアメリカにとって、満州の独占を狙うロシアは不倶戴天の敵というわけだ。
あと、日米関係の悪化はアメリカにおける排日移民法案の成立に始まったことは知っていたが、どうして絶対数としてそう多くもないアメリカへの移民規制に日本があれほど反発し激高したのか、いまひとつ理解できなかったのだが、これも本書を読んでなぞが解けた。アメリカでは排日移民法が通るはるか前に中国からの移民を制限する排中移民法が成立していたわけだが、「中国人よりも日本人が上等であり、中国人は劣等国民として高等国民たる日本を兄として敬い、その教えを請うべきだ」と思っていた日本人アジア主義者にとって、日本人が中国人と同等の差別待遇の対象と指定されることはプライドを傷つけられるのみならず、中国における日本人の威信低下を将来し、既に中国で起きつつあった半日運動、侮日運動に拍車がかかることを日本が恐れたことがその根本原因だったというのだ。これは知らなかった。
満州を巡る日中の衝突が満州に住む大量の朝鮮族の処遇(当時の朝鮮人は日本人だった?)から始まったものだったとは知らなかった。今でも中国東北部延吉周辺には大量の朝鮮族が住んでいて、しかも彼らは中学から第二外国語として日本語を学んでいるという。血は水よりも濃いということか。
先にも述べたが本書の最大の難点は、本書が新書であることだ。扱っている対象に比べ紙幅の制限が著しい。著者の歴史に対する眼差しや切り口に共感した人は、今や大学の歴史学教授の著作としては異例のベストセラーになりつつある『それでも日本人は「戦争」を選んだ』を手に取ることをお勧めする。
戦争の日本近現代史 東大式レッスン!征韓論から太平洋戦争まで
2005/10/14 02:25
戦争を起こす心を知る本
10人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
明治維新による開国以降、日本が他国との間で行ってきた数々の戦争・侵略行為について、これを誤った行為であったと自覚することは、もちろん間違いではないでしょう。日本が二度とあのような戦争を起すことのないよう、過去を省みて、自省の念を持つことが必要です。
しかし、「過去の戦争は悪いことであった。」で思考を止めていたのでは、じわじわと真綿で首を絞めるかのように襲ってくる反動化・右傾化の力に抵抗することはできません。誤った戦争ではあったが、確かに当時の政治も国民もその道を選んだのです。現代の人たちと決して変わらない当時の市井の人たちが、戦争への道を突き進んでいったのです。
何があの戦争を起してしまったのか。その検証を進めていくことが、平和を求める力の源泉になるのでしょう。
著者は自身のHPでこの本について次のように言います。
「この本で最終的に描こうとしたのは、為政者や国民が、いかなる論理の筋道を手にしたとき、「だから戦争にうったえなければならない」、「だから戦争をしていいのだ」という感覚をもつようになるのかということだ。その深いところでの変化は、現在からすればいかに荒唐無稽にみえようとも、やはりそれは一種の論理や観念を媒介としてなされた。」
日清戦争開戦に至る「主権線・利益線の概念」など、他の歴史書では味わえない独特の視点からの考察と解説は、「いつかきた道」に迷い出ないための良薬となることでしょう。
戦争の日本近現代史 東大式レッスン!征韓論から太平洋戦争まで
2009/11/18 21:29
労作である。
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:萬寿生 - この投稿者のレビュー一覧を見る
日露戦争から太平洋戦争まで、約十年毎に行われた戦争が、なぜやむを得ないこととして日本国民に容認されたか、その原因を分析した、東大での講義録。労作である。この本に述べられた内容までに書き上げる為には、どれだけの史料を読み、それらの関連性を考察したことであろうか。想像するだけで気がとおくなる。このように克明に、政府、軍部、国民の考えの変化を分析したものはなかったのではないか。
学校で習う歴史の教科書では、出来事を記述するだけで、それが起きた要因について掘り下げた説明は少ない。さらに高校などの日本史では、明治以降の現代史は授業が年度末になり時間がつまってくることや、大学入試で出題されることが少ないことなどで、駆け足の説明になることが多い。
ここまで掘り下げた説明を受けると、満州事変から第二次世界対戦までについて持っていた、陸軍の暴走などという単純な見方をあらためさせられる。