ユング 錬金術と無意識の心理学
「これは私の歴史的義務」!――ルネサンス期の医師・錬金術「哲学者」パラケルススは精神医学的医療の先駆者でもあった。ここに「無意識の心理学」の萌芽があるとみたユングが情熱を尽くして語る!!
●人間の本性のなかにある光
●医学から哲学までを大改革
●錬金術の心理学的意義
●魂の暗部を把握する
●人間の自然性と霊性の再統一
●アニマがあらわれる瞬間
●「永遠の少年」の出現
●瞑想による浄化法
●新生命が生まれる
●無意識の心理学の誕生
< この私の話が、パラケルススの秘儀的哲学に対するわれわれの認識を深めるための一助となれば幸いである。
私の目的は、彼の哲学の根源にあるもの、彼の哲学の心的背景というべきものへの道をさし示したいということに尽きる。多面的な存在であったとはいえ、パラケルススは、もっとも深いところで何よりも錬金術「哲学者」であった。
彼が「長寿論」で打ちだした先駆的諸観念の解明に、私なりに寄与することが、ほとんど歴史的義務であると思われたのである。>
ユング 錬金術と無意識の心理学
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ユング錬金術と無意識の心理学
2003/05/16 14:23
解説から読むべき
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投稿者:ナガタ - この投稿者のレビュー一覧を見る
心理学の徒ではない私は、訳者・松田氏の解説である最終章「ユングとパラケルスス」に救われた。ルネサンス期である16世紀に医師、錬金術師として特異な活躍をしたパラケルススに、ユングがなぜ興味をもったのかを分かりやすく説明してくれているからだ。
まだ天文学はなく占星術の、化学は登場せず替わりに錬金術が、世の思考を支配していた時代。「中世の錬金術は、神の世界秩序に対して人間が空前の介入を企てる道を切り開いた」とユングはいう。医師がまじないや祈りで患者を治療しようとしていた時代に、パラケルススは自然界の素材から秘薬を取り出すため錬金術に通じる必要がある、と考えた。また金属を変成させる作業の過程で、作業者自身が精神的に変容し、熟成することで、病気の治療に必要な力を体得できると考えた。ユングは、錬金術師が体験する精神変容のプロセスは、無意識の世界を探求する時に彼が変容した体験と重なっていると気づき、パラケルススに着目したのだった。
パラケルススの発想は、不思議なことに、近代を迎える前なのに近代科学的発想を超えようとしているかのようだ。人間の魂は自然と切り離して考えられない、すべての事物には(人間も含めて)「自然の光」が宿されており、それを研究することで人の病を治すことができる。人間の魂の実体を探り、病気の原因となる魂の暗部しよう、人間の自然性(錬金術的思考でつかめる科学的属性)と霊性(魂の暗部など目に見えない不可思議な部分)を合一させなければ、人間とは何かも、世界とは何かも分からない、と彼は考えた。ひたすら自らの無意識の姿を探り(ユング自伝に詳しい)、無意識と意識を近づける試みに生涯を捧げたユングが、中世に、パラケルススのような超近代科学的思考を貫いた人物がいたとしれば、それは感銘をうけるのも当たり前だろう。
モノとモノ、考えと考え、症状と症状を分けて分析するのが近代精神医学であれば、意識できない、また言葉で表現することのできない心の領域の存在を確かめ、それを意識と関連づけようとするユングの思考は、融和的という志向で考えれば仏教的だといえる。融和、合一という作業は、本来は、高度に厳格的な態度をもってのみ、洗練された理論となりうるはずなのだが、今、ユング心理学の周縁には、占いであったり、瞑想集団であったり、仏教由来とかこつけたオカルト的思考の産物が、沢山くっついている。ユングのパラケルスス研究への真摯さとは、方向性が異なっているのではないかと思う。