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豊かさの条件
著者 暉峻淑子 (著)
効率と競争の追求によって泥沼の不況から抜け出そうとする日本社会.だが,リストラ,失業,長時間労働,年金破綻など,暮らしの不安はますます募るばかりだ.子どもの世界も閉塞をきわめている.大好評の前著『豊かさとは何か』から14年.著者が取りくんできたNGO活動の経験をふまえて,真に豊かな社会とは何かを改めて考える.
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豊かさの条件
2003/06/24 08:46
いつまでも真の豊かさを持てない日本
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:良泉 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「物質的豊かさより精神的豊かさ」とか、「あくせすせず自分らしく生きる」とかいった言葉が流行のように言われ出したのはいつの頃からか。大量消費社会の代表的レジャーであった大規模テーマパークがつぎつぎ破綻し、休みの日にはお弁当を持って近くの公園で子どもと遊ぶという「安・近・短」型の余暇を充実させる人たちが増えてきたのはいつの頃からか。最近ではこういった流れが「スローライフ」と呼ばれ、流行言葉にさえなっている。
しかし、まだまだ今の日本は、本当の意味での豊かさを持てないでいる、と説くのが著者である。
本書に示された多くの実例、高失業率・リストラ・長時間労働・ホームレス・働き盛り世代の自殺、どれもこれも「豊かさ」とはまったく縁遠い話、しかしこれがまさしく今の日本の現状なのだ。
そして中でも、特に嘆かわしいのは子供たちの世界に見られる閉塞感。いじめにあって死んでいく子供たちの残す言葉は、子供たちに本当の豊かさを与えてあげることのできない日本社会への厳しい挑戦状である。
今の日本社会はあいもかわらず効率と競争の原理を子供社会に押し付けようとする。手っ取り早く経済競争に勝ちぬく子の育成・できる子とできない子の選別・できないとみなされた子の切り捨て・強制的な愛国心の押し付け。子供たちの諦めと無気力、いじめの問題さえ、すべてが大人社会の押し付けに対する無言のアピールであることに気づくのはいつのことか。ほんの一つの例として、著者の経験したドイツの学校生活との比較が示されているが、それだけで日本の教育現場の荒廃はあきらかである。
この廃れきった日本社会を救う鍵はどこに隠されているのか。
著者がこの本で示すキーワードは「助け合い」である。支え合い・自助と互助の一体化こそが日本を救う。そして示される多くの実例。この本を読めば、草の根のところで多くの人たちが、小さな行動ではあるけれど、支え合い社会を実践していることがわかる。まだまだ捨てたもんじゃない、といった気にさせられる。特にNGOに参加しボランティアを実践する若者たちの行動を見ていると、勇気づけられるものが大きい。
教育基本法改正を唱え、より一層の一方的押し付け・管理教育を推し進めようとする一部の政治家に是非読んでもらいたい本である。
豊かさの条件
2004/03/08 05:54
人が大切にされていない
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:未来自由 - この投稿者のレビュー一覧を見る
いま日々の暮らしの中にきこえてくるのは、音をたてて崩れいく日本社会の、地底から噴出してくる不気味な地鳴りの音である。
「はじめに」の冒頭の言葉である。不気味な振動の中に巻き込まれていきそうな恐れを感じている、という。
『豊かさとは何か』を執筆して14年、政治、経済、社会の病理は、ほとんど改善されないまま、強化するやり方で解決されようとしている、と「あとがき」で述べられている。
この「はじめに」と「あとがき」だけでも、著者の現在の社会に対する危機感と怒りがあらわれている。『豊かさとは何か』の読者にはこれだけで著者の想いが伝わるのではないだろうか。
著者は「労働とは何か」をあらためて問う。労働と社会、人間のあり方を今ほど皆が考えなければならない。私もそう考える。
「社会が人間の労働によって成り立っていることは誰でも知っていることだ。どんな社会でも、私達が必要とするものは労働によって作られる」
「私達は労働を通して収入を得るだけではない。自分の能力を発揮することで自己の存在感をたしかめ、社会や人々との関係をひろげ深めることができる。人間にとって労働のあり方ほど大切なものはない」
しかし、現実はどうか?
労働者の立場は不安定で、無権利。こんな「不安定な労働のあり方は、社会全体を不安定にする」まったく同感である。
低賃金、リストラ、フリーター・パートの増大、そしてさらなる賃下げ。そして一方では非人間的な労働時間。
科学・生産力の発展によって生産力が飛躍的に伸びているのに、働くものの生活は少しも楽にならない。ますます苦しくなるのが現状である。
資本主義的生産関係のもとでは、働くものの労働も暮らしも少しも改善されない。
「私はいつも思うのだ。なぜ日本人は連帯し、団結して権利のために闘わないのか、と」
まったくそのとおりだ!
本書は、こうした労働の問題から、教育の問題、社会の問題など、多岐にわたる社会の現実を示しながら、その解決策を提起する。
一部理解できない部分もあるが、日本社会の問題点の指摘に共感する。
著者は最後に言う。「世界の人々と共に生きようとする高い資質の知は、人間とっての真の資本である」と。
人はなぜ学ぶのか。それは単に知識を得るためではない。すべての人々が幸せに生きるための知こそ、真の学問だ。私はそう考える。
2024/12/29 11:47
二項対立でよいのか。
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんけん - この投稿者のレビュー一覧を見る
かなり古い本だが、この本もそれなりに時代に影響を与えてきたのだろうなと感じる。2024年も終わろうとしている中、拝読するといくつかのことに気づかされる。
この本の後、日本とドイツはどうなっていっているか。
そもそも、なぜヨーロッパとの二項対立なのか。
他の国、文化的に大きな差異がある国と比較するとどうなのだろうか。
これらのことから今後考えていきたいことは、我々はどのような社会、文化を構想していくべきなのか、自由とはなんなのかということである。
この本を土台にすると、労働者を大切にだとか、もっと助け合ってといった概念的な主張が多いがそれを実現する具体は、いまいちなものしか思い浮かばない。企業との二項対立にしても仕方がないし、市民には助け合う余力はあまりない。
もっと広世界をいろんな軸で見なければならないと思わされた。