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歴史/修正主義
著者 高橋哲哉著
90年代後半に登場した日本版歴史修正主義.「悔悛のグローバリゼーション」といわれるほど広がった歴史の負債を「清算」する動きに対し,修正主義の台頭もまたグローバルな現象である.冷戦終結後に突出した「民族」とナショナリズム-その激化する《記憶の戦争》に分け入って,歴史の中でどう判断すべきかを考える.
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歴史/修正主義
2001/02/09 02:54
現在との接触不良
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ヒデト - この投稿者のレビュー一覧を見る
この本は「思考のフロンティア」というシリーズの一冊で、このシリーズはどうやら新たな「知」の問題を扱う入門書として構想されているみたい。そこでラインナップをぱーっと見て、タイトルに惹かれてこの本を注文した。内容は日本の戦争責任についてだったので、最初がっかりし、それから奇妙な縁を感じた。がっかりしたのは、僕はそもそも千年前の宗教のことを勉強してて、つい歴史学の本かなとか思って注文しちゃったから。奇妙な縁を感じたのは、僕がこの本を台湾で受け取ったから。
現代のことにはあんまり興味ないんだけどな、と思いつつもとりあえず読んで見る。するとこれがなかなか。首尾一貫した論旨、明晰な文章。問題点と解決法と、そして目指すべき目標がはっきりと示されている。うーんなるほどそうかとうなずきながら、さくさく読みすすめてしまった。
ところが最後の方、107ページで著者の高橋哲哉はこんなことを書いていた。「問題は、(中略)今日、「原爆投下は人種差別国アメリカの悪魔の所業」と叫ぶ漫画がベストセラーとなって喝采を博するような状況があることだ」だって。あれ、どうしてはっきり小林よしのりとその著書とを明言しないのだろうか。漫画だから? だとしたら高橋哲哉は二つの間違いをおかしてしまった。まず漫画だからといって強く影響力を持っているメディアに対して、きちんとした分析を加えないことで、彼自身の現実認識の不十分さを露呈させてしまったこと。そして第二の間違い。というよりむしろお願い。アレを漫画だと思わないで欲しい。だって漫画としてはまるで駄作だもの。
そこであれ?と思って、もう一度読み直してみた。すると一つの問題が浮かび上がってきた。これ、入門書にしては、著者の立場があまりに前面に出ているのだ。客観的なデータを提示する部分と自分の意見を述べる部分。入門書はこの二つの部分を注意深く分けておく必要があると思う。それが入門書としての良心だろう。ところが高橋哲哉はそれをしない。それは自覚するとしないとに関わらず、読者を自分の立場の方へ引き入れようという政治的態度でしかない。何のことはない、本書で論じられている「脱構築」を彼は自分自身には適用できてないのだ。つまり高橋哲哉自身が「歴史認識」をうまく自分の現在に接続できていないってことになる。それでは今とこれからを生きていかなきゃならない僕たちには、ちょっと説得力に欠けるんだよなあ。