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12件
第六大陸
著者 小川一水 (著)
西暦2025年。極限環境下での建設事業を得意とする御鳥羽総合建設は、巨大レジャー企業から新たな計画を受注した。工期は十年、予算一千五百億円、そして、建設地は月――。機動建設部の青峰は月面の中国基地へ現場調査に赴くが、そこは想像を絶する苛酷な環境だった。月面開発計画「第六大陸」全二巻着工!
第六大陸2
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第六大陸 2
2003/09/06 00:53
わくわくして、あこがれて。
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:アルテミス - この投稿者のレビュー一覧を見る
月面に、居住地を作る。
すれたSFファンなら古すぎるテーマだ、と失笑するかもしれない。白状してしまえば、たいしたSF読みでない私も、そう思った。
しかし、読み始めたら、止まらなくなってしまった。読み終えたら、思い出してしまった。
人類が初めて月に立ったのは30年以上前の話で、私や私と同世代の人たちは子供の頃、君たちが大人になる頃には誰でも宇宙旅行ができる時代になっている、と本で読んで胸をときめかせていたものだ。
だが、21世紀になれば当然できていると思っていた月面都市はまだないし、そもそも人類が月に立つことさえなくなってしまった。その現実に対する失望が、月へ行くと言うテーマを古いものとして忘れようとさせたのかもしれない。
だから私は、本書を巨大建築プロジェクトの達成物語として読み始めたのだ。
私企業が、桁は大きいとはいえ限られた予算内で何かをしようと思えば、常にコストとの戦いになる。事故も、地球上での建築現場でだって珍しくないのだから、宇宙だの月だのでは起こらないほうが不思議だ。技術的な問題はもちろん、法的な問題もある。競争相手の横槍も、反対運動も。
そういったことごとへの、立案者でありリーダーである少女や技術者たちの苦闘を愉しんでいたのだが、読み終わったときには、「重さ、六分の一なんだなあ」という主人公のつぶやきや、靴底に比べてドレスの裾の摩擦係数が大きすぎて、歩こうとしても前へ進まないといった月ならではの描写の数々に、かつてのときめきを揺り起こされてしまっていた。たとえば。
空気のない月面では、風景はどのように見えるのだろう。
こんな疑問に、幼い頃は単純に、地平線(月平線?)が丸くて、その上に地球が浮かんでるんだろうなあ、と考えていたものだ。今なら、空気がなく遠くの景色がかすんでしまうことがないから、たとえば空気遠近法を巧みに用いて背景を書いたレオナルド・ダ・ヴィンチだったら、どうやって遠近感を出したらいいんだと悩むんだろうなあ、いや大天才のことだから別の方法を考え出すんだろうか、などとずいぶん違うほうに連想が行く。しかし、わくわくする、と言う1点においては全く変わることがない。
NASAに、スタートレックにあこがれて宇宙飛行士になった女性がいるという。宇宙からの帰還後に、スタートレックに特別ゲストとして出演したそうだ。
日本にも、失礼ながらお名前を忘れてしまったが宇宙飛行士として訓練を受けている女性で、宇宙戦艦ヤマトの沖田艦長にあこがれたのがきっかけとインタビューをうけて話している方がいた。
本書のような優れた作品がもっとたくさん出て、宇宙へ行きたいなあ、いや、宇宙へ行こうと思う人がたくさん出たらいいな、と思う。
わくわくして、あこがれて。そんな人々が。
第六大陸 1
2003/12/03 22:49
建設的
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:のらねこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
連想したのは、やはりクラークの諸作品なのだけど(冒頭の潜水艦内でのトラブルで「渇きの砂」、作品全体からは「楽園の泉」)、たかが四半世紀くらいの時間で、こんなにいい方向に世の中全体が変わるかなあ、というのは、まず感じました。建築技術の発達により建物という建物が緑に覆われ、当然二酸化炭素の抑制はもちろん、ヒートアイランド現象も過去のものになっている。効率の良い太陽電池は普及し、砂漠の緑地化もかなり進んでいて、地球全体規模で人口の増大が原因となっている必要物資の需給関係からいえば、かなり改善されている時代。
まあ、「フロンティアの必要がない世界で、なぜ、少なからぬリスクを背負って宇宙へ行こうとするか?」というのが作品の大きな主題だから、あえてそういう設定にした、というのは解るんですが、選挙までが「地域の選挙区からではなく、ネット上のコミュニティから議員を選出する」みたいなシステムになっているのはちょっと疑問。政治的な機構は、ある意味でテクノロジーの進歩から一番取り残されがちだしな領域だしなぁ……。
そういうフロンティアの必要性がない世界だから、あえて膨大な資金を使って人類がわざわざ宇宙にでていく必要性というのは、ほとんどない。資源的には、宇宙に出てまで十手取ってこなくても、結構満ち足りているのである。だけど、そういう世界で、なんで人間が宇宙に出ていかなければないのか? というのがこの物語の重要なテーゼ。この辺のモチベーションは、ものすごく個人的な動機がでているのだが、小説としてもかなりの読みどころとなっているので、これで正解でしょう。こんな、リスクのあるお仕事、こういう動機というか強迫観念をもったお金持ちしかできませんし。
そして、実際に施工に当たる建設会社の視線から、月にある大規模な施設を作る話し流れも、大きな位置をしめる。このあたりは、「プロジェクトX」的なノリを思い浮かべていただければ、大きな相違はないかと。月の地質学的なデータからはじき出した、人間にとっては過酷すぎる環境、大きすぎる運送コストの削減、資材や原料の調達方法(打ち上げるのか、現地の物を使用するのか?)、法的な問題などなど、数々の困難を一つ一つクリアしていく様子が、非現実的な奇跡とかはほとんど抜きにして、かなり地に足がついた感じ描かれます。
余談ですが、作中で提示されたデブリの処理方法は、かなり妥当というか現実味のある掃除法だと思います。
酩酊亭亭主
2015/09/29 22:48
後半は力業
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:白髪雀 - この投稿者のレビュー一覧を見る
少々冗長な感じもする2巻目であるが、かなり強引な設定を収めるにはこれぐらいの長さが必要なのでしょうか。
小説であるためどうしてもご都合主義は否めず、神は乗り越えられない試練は与えないというノリで山有り谷有りを適度に盛り込んでいるという事も言えない事もないですし、最後はかなり強引とも言えるエピソードで締めくくっています。はじめから伏線は張りまくっているので当初から考えられていたエンディングなのでしょうが。
長期の計画を描く物語なので、ヒロインの桃園寺妙も妙齢の女性になっているのですが、お相手の青峰走也もそれなりのいいおっさんになっているはずで、そのあたりもちょっと描いて頂くとリアリティが増したと思うのだが