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49件
守り人シリーズ電子版
舞台となるのは、異界と人の世界が交錯する世界 ── 。
腕ききの女用心棒・バルサはある日、川におちた新ヨゴ皇国の第二皇子・チャグムを助ける。チャグムは、その身に得体の知れない”おそろしいモノ”を宿したため、「威信に傷がつく」ことをおそれる父、帝によって暗殺されそうになっていたのだ。
チャグムの母・二ノ妃から、チャグムを守るよう依頼を受けたバルサは、幼ななじみの薬草師・タンダの元へ身を寄せる。そして、バルサとチャグムは、タンダとその師である呪術師のトロガイから驚くべきことを告げられるのだった ── チャグムに宿ったのは、異界の水の精霊の「卵」であること、孵化まで守らないと大干ばつがおこること、そして、異界の魔物がその「卵」をねらってやってくること ── 。
帝のはなつ追っ手、さらに人の世の力をこえた危険から、バルサはチャグムを守り抜けるのか? バルサとチャグムの出会いから始まる、「守り人」シリーズの第1作。
【番外編】 守り人短編集 流れ行く者
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天と地の守り人 第1部
2008/12/08 14:33
守り人シリーズ、大団円に向けて
7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:菊理媛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
天と地の守り人 第一部
「この作者の作品が、一番好きだ!」と、上橋菜穂子作品を読み終えたとき必ず思う。とはいえ、薄情なもので、他の作者の本を読んでいるときは、あっさり忘れて、その時読んでいる本に肩入れしていたりもするのだけれど。
上橋菜穂子の作品は、総じて全身をすっぽりと包み込んでくれるほどの深みがある。読んでいるとき、読者は俯瞰して物語を楽しんでいる身ではなく、どっぷりと作品の世界にはまりこみ、登場人物に憑依して物語の進行に身をゆだねざるを得ないような一体感で、喜びも悲しみも、痛みも癒しも体感するのだ。
主役が女性用心棒であるあたりがすでに珍しいが、その女性が実はお姫様であったり、絶世の美女というわけでもない。アニメではかなり美人で若く描かれていたが、本の中では三十路の短槍使いの女性としか表現されていない。その主役、バルサと不遇の太子チャグムの馴れ初めで始まった「守り人」シリーズ。この人気シリーズの説明は、今さらなので必要もないだろう。
本作品は、守り人シリーズに、(当時は幼かった)皇太子チャグムを主役として派生した別流「旅人」シリーズが合流し、シリーズの集大成として壮大な物語となっている。
個人の意志などではどうにもならないかのような、国と国との攻防のはざ間で、己の力なさを骨身の真まで思い知らされながらも、歯を食いしばって愛する故国のため、民のために自分のできることを成し遂げようとするチャグム。「精霊の守り人」で登場した、守られるばかりだった少年が、ここまで成長したのかと思うと、読んでいるこちらも感慨深いものがある。まして、バルサはどう思うだろうと考えるに、雛が翼の下から飛び立ってしまったような寂しさもあるのだろうなと旧知の友の心情を探るかのようにしみじみ思ってしまう。
ちょうどこの本を読み終える2日前に、「天と地の守り人 第二部」が届いた。早く続きを読みたくてうずうずしてはいるのだが、せめて第三部の発売予告が出るまでは、「お預け!」と自分に禁を課した。そうでもしないと、第三部が待ちきれなくて、禁断症状を起こすだろうと本気で思うからだ。
幼い自分を守るために命をかけてくれたバルサ。青年となったチャグムは、そのバルサに再び自分のために危険に身をさらして欲しいと、自らはとても言えないし、言いたくはないのだ。そんなチャグムを頼もしく思いながらも、わが子のことのように放っておけないバルサ。自分の知らないところでチャグムが危険にさらされるよりは、自分の体を張ってでもチャグムを守る方が気が休まるのだろう。缶バルへ向かうチャグムに随行を買って出た時、拒否しようとするチャグムに「私のことは私が決めるよ」と言い放つバルサ。バルサに再開できて嬉しいのは事実、ともに来て欲しいのも事実。それでも今の自分には、バルサのその行為に報いられる何も無い。その上、今回の道行きの危険度は前回の否ではない。
成長したチャグムは、それがわかるゆえに、バルサに自分とともに来て欲しいとはとても言えなかったのだろう。けれど、やはりバルサはともに行くのだ。「守り人シリーズ」の主役である短槍使いのバルサは、やはり「守り人」なのだから。
守る女槍使いバルサ。守られる運命の皇太子チャグム。バルサが帰る故郷はタンダ。シリーズでお馴染みのメンバーも、それぞれ自分の持ち場で危険と隣り合わせに頑張っている。みんながみんな頑張っているから、読者も必死に付いていこうという気持ちで、上橋ワールドの存亡を守り、旅するのだ。
蒼路の旅人
2008/07/18 15:15
チャグムとともに海を渡る
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:菊理媛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
シリーズを通してそうだったと記憶している(未確認ごめん!)のだが、この作品の「目次」の次のページに「地図」があり、次に「登場人物紹介」がある。こもまではファンタジーならママある構造かもしれないが、さらに次のページには「用語集」が載っている。
国が違えば言葉が違う。言葉が違えば当然独自の名詞があって然るべきという、この当たり前のことが、ちゃんと整えられているあたりが、このシリーズのリアリティを強力にバックアップしているように思う。「ヨゴ語」については、この物語の世界に慣れ親しんでいる読者ならば、すでに自分たちの世界でも使われている言葉を話すかのように、自然に読めてしまうかもしれない。しかしながら、「タルシュ語」は今回が初見である。であるにもかかわらず、私のファン心理の成せる業ならまことに恐縮ながら、「砂漠」や「山脈」に当てた言葉などは、いかにもそれらしく、なにか土台にしている原語があるのだろうかと思ってしまうほど「それらしい言葉」が当てられている。世界観として実にすばらしい。
しかしながら単語はともかく、話す国民が変わるたびに別の言葉で語られるわけにもいかないので、当然のことながら物語りは日本語でつづられる。それでも、その中でちゃんと「ヒョウゴが、クルーズの挨拶をヨゴ語になおすのを聞きながら、」というように、通訳が入っていることをさりげなく、話の筋にまったく邪魔にならない体を保ちながら、うまく言語の使い分けが表現されている。
話を目で追いながら、読者はストーリーとともに、その情景から異国情緒を味わえるような、実に巧みな文章で、あたかも外国を旅しているような感動をチャグムとともに体感しているようで楽しい。
また、人物描写についても、一人一人の人格が鮮明で、それぞれに魅力的だ。どうして一人の人間が、これほど多重の人格を操れるものかと不思議に思いながら読み進める。不都合なことや、痛い思いはなるべくしたくない私などは、こういう話は逆立ちしてもあみだせないなと、読みながらつくづく思った。
登場人物は、それぞれにとても個性的で各人に魅力があり、その描かれ方も鮮明でわかりやすい。たとえば、タルシュの第二王子(ラウル)の馬番の男など、この王子が馬から下りる場面で、まさにチラっとしか出ないのだが、その寸の間の行動や態度で、この男の置かれた状況、さらにいかに馬主であるラウルに恐怖を感じているかを表現することで、ラウル王子がいかに恐ろしい男かが読者に十分伝わってくる。しかしながら、ただ「恐ろしい」というだけでなく、この王子は(好き嫌いは別として)非情に優れた男である事も感じさせる描かれ方である。
今回、初登場のなかにも、今後のシリーズでも活躍するのだろうなと思わせる人物も何人か思い当たるが、そういう素人想定をはるかに超えて、このドラマは最終話に向かって漕ぎ出してゆく。
「がんばれ!」と、これ以上がんばれないほどがんばっていると思いながらも、声をかけたくなるような物語だ。
天と地の守り人 第3部
2009/02/12 14:04
行く末遥かな「結びの章」
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:菊理媛 - この投稿者のレビュー一覧を見る
大河ドラマが完結した。終わってしまって安堵したような、寂しいような、待ちかねていたファンとしては複雑な心境になる。
「なるようになったな」という結末だった。御幣があるのを覚悟で言えば、各人が「そうあるであろう」と思われるところに落ち着いた結末だった。
何事もなかったように・・・と言えば、貶し言葉ととられそうだが、そうではない。物語が始まってからこの結末まで、天地がひっくり返るほどの変化を経て、登場人物の主要メンバーそれぞれが、死んでもおかしくない経緯をくぐりぬけて、あるものは命からがら、あるものは寸でのところで踏みとどまり、あるものは否応もなく大切なものを失いつつも、「あるべき場所」へ至り、過ぎた日々と似たような(しかしながら、確実に変わってしまった)生活に戻り、淡々と日をおくる生活に身をゆだねてゆく。ここに至るまでの支流は数限りなくあると含みを残し、ここからまた、新たな物語が始まりもしそうな奥行きをただよわせて、「守り人シリーズ」は終着点にたどりついた。
バルサとチャグムとともに旅した物語は、長かったようであり、短かったようでもありつつ、二人とともに、喜びも悲しみも併せ呑み、読者もここで旅を終えることになる。この大河ドラマが、バルサの物語であったのかチャグムの物語であったのかは、読者の目線がどちらとシンクロするかによっても違うだろう。国の存亡と、勢力図を左右する壮大な物語となったチャグムの大河。‘個’に対する愛情と思いやりを糧に、国の存亡を左右する謀略さへ揺るがすバルサの大河。究極は、どちらが主役であってもかまわないと思うのだけれど、物語の終わりが、「誰が誰の元に帰ったか」であるところを見ると、作者の意図ははっきりしているような気もする。
私は元来、戦争ものは本も映画も好きではないし、戦闘シーンも人殺しを美化しているようで好きではない。しかしながら、チャグムの初陣の場面では、涙が出そうになるほど感動してしまった。外へ出ることさへ穢れとされてきた王家の皇子が、人の命の大切さゆえに、先頭に立って戦乱に飛び込んでゆく様は、深い感動を与えてくれた。
戦場に借り出されたタンダを心配し、敗戦兵の収容されている場所までたどり着いたバルサが、タンダとの関係を聞かれて答えた「つれあい」という言葉に涙が出た。あぁ、この二人は、本当に「つれあい」と呼ぶのが相応しいなぁと心から思えた。
できれば、遠い将来でいいから、バルサとチャグムに再会のときがあればいいと思う。「精霊の守り人」の別れでさへ、二度とは会えないと思っていた二人が、不幸を媒体としてではあったが再会を果たせた。不幸は国を揺るがす大事ではあったけれど、二人が会えたことは幸いだったのだと思う。二人が会えたから、不幸の中で幸いが芽吹いた。
いつかまた、幸いな二人の出会いがあることを期待したい。それが儚い夢だとしても、「絶対に無い」という結末でなかったことを、私は幸せに思ってしまうのだ。