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ルベーグ積分超入門
著者 森真
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この本は、純粋数学としてのルベーグ積分を学ぶことはもちろん、このルベーグ積分の発展的な側面として活用されているいまどきのテーマである、量子力学、フーリエ解析、数理ファイナンスなどの理論物理や応用数学にも目を向けた形でまとめている。実際には「わからない」という理由で数学科の講義では最も人気のない科目であるが、微分積分、位相の一部の復習からはじめること、なるべくシンプルな身近な話題で話を展開すること、上であげた応用面での活用に向う、というはっきりとした目的で展開させている点などの配慮をしている。
ルベーグ積分超入門
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ルベーグ積分超入門 関数解析や数理ファイナンス理解のために
2019/07/20 06:03
実解析または関数解析を学んでいく補助としてなら
1人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:類太郎 - この投稿者のレビュー一覧を見る
線型空間と微分積分法(初等実解析)の復習をして, (測度による)積分論(としてのルベーグ積分)の必要性を説いてから, 位相も復習する.
確率論の立場から, 感覚の立場から, 公理系により整備された測度論を見ていく. そのために実例の測度として標準な, 長さの自然な拡張「ルベーグ測度」の構成はわざと後回しにしている. これは独特で理解しやすい人も多いかもしれない. 最終章でルベーグ測度を構成する. それはいっぱんの集合にも測度を構成できる方法による. 構成は短くて上手いと思う.
復習の章と, その次の「確率論の簡単なお話」の2章では(自分で直せる程度でも)計算ミスが多く, 近傍系の性質の三つ目は基本近傍系の性質であり, 「測度が有限な集合の差の測度は測度の差」「集合が大きくなれば測度も大きくなる」を暗黙の了解で使っている. コンパクト性を「点列コンパクト」(任意の点列には収束する部分列が有ること)により定義して, 「コンパクトな集合は有限開被覆を持つ」ことを証明するときに「点列の添え字」つまり「変数」の「n」と「背理法により存在が言える」特定の「n」つまり「定数」としての「n」が全て同じ記号「n」なので, 区別する能力が要求される.
しかし説明は細かく補足も多く込められている. 非負値可測関数の, 単関数による近似のlimとsupによる定義が同値なこと, 単関数による近似のlimに従ったルベーグ積分の計算は他の本としては「ルベーグ積分論」以外には無くて面白い. その時の単関数は他の本と同じ方法で構成するので本質的には他の本と同じ式である. その式のlimとして定義しているのだが, limによる定義とsupによる定義が同値なことを証明する時に, ルベーグ積分は被積分関数を如何なる単関数で近似しても積分値は変わらず矛盾なく定義可能なこと(ルベーグ積分の定義はwell-definedであること)も, 有界閉区間においてはリーマン積分の値とルベーグ積分の値が等しいことも, 同時に示されている. 実に巧みであり感動した. 実解析や関数解析で必須である「定義域が適当な関数空間で稠密な有界線型作用素のノルムを保存する一意的な拡張の定理」(「ルベーグ積分入門」の183頁にもあるのだが, 分かりやすい証明が他に無くて, たいてい既知とされている定理)はとても参考になった. つい最近では溝畑「偏微分方程式論」(コメント参照)の第2章の実解析(超関数論, 関数空間論, フーリエ変換)の章を読むときに3回も使われていた.
実解析と関数解析の初歩は書かれてある. しかし, 論理の前後と感覚による表現があり, 本格的に数学を学ぶには殆んど至る所で内容が不充分だろう. そういった意味で「超入門」と名付けられたと思う.
それでも, 有限次元線型空間の全てのノルムが同値であることを他のどんな本よりも短く証明していること, 外測度からの測度空間の構成で「よくある天下り的な帰納法を使わせる不等式」が証明の中に入っていないこと, フラクタルに触れて伊藤の公式まであること, これらはあまり気づかれないようだが高く評価され得るだろう.
本書で実解析と関数解析が冗長だと感じたら「新訂版 数理解析学概論」をおすすめしたい. また実解析については数学セミナー2010年10月号も参考になる.