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空と海と蜃気楼と
著者 津雲むつみ(著者)
昭和40年代、蜃気楼が見える北陸の小都市・魚津。この町で無邪気な幼少時代を過ごした瞳、純、一雄。しかしその幸せは長くは続かなかった。彼らを待ち受ける数奇な運命とは――!? 3人の想いが交錯する純愛悲劇、第1巻!!
空と海と蜃気楼と 1
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電子書籍空と海と蜃気楼と 2
2014/02/10 15:31
秀逸な人物描写
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投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
陰のある人物の描写にかけては、作者の右に出る漫画家がいるだろうか。そう思うくらい、純という人物が圧倒的印象を放つ。
「彩りのころ」に例えれば、宗次郎=一雄、葵=瞳、拓也=純。瞳の為に少年院、高校退学、伯父夫婦からの勘当という大きな代償を払いながら、純の瞳への想いは報われない。自分の激しい恋心に恐れをなした純は、瞳と一雄の前から黙って姿を消す。東京へ出た純は、水商売に身を沈め、彼の美貌と陰影に惹かれて近づいてくる女たちと、遍歴を重ねていく。
東京で一雄と瞳に再会した純は、ひたすら良き幼なじみでいようとする。瞳の幸せを願いながら必死で恋心を抑える純の苦悩が痛ましい。誰よりも純粋で一途なゆえに、自ら傷を深めていく。
「彩りのころ」から更に深みを増した人物像に否応なく惹きつけられる。津雲むつみ氏の傑作に数えられる力作だと思う。
電子書籍空と海と蜃気楼と 1
2014/02/06 21:50
三人の幼なじみ
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
蜃気楼の見える海、三人の幼なじみ、成長と共に育まれる恋心。三人の子供時代から物語は始まる。
幼くして母親を亡くし、再婚した父親を許せない一雄。幼児期に母親から捨てられ、世話になっている伯父夫婦から疎外されて育った純。二人が持つ母親への強烈な思慕は、後に悲劇を招く。
彼らと一緒に成長する瞳は、家族の愛情に包まれて育った愛らしく無邪気な少女。従兄同士の一雄と瞳の間に恋心が芽生え、純もまた瞳に激しい想いを抱く。だが、夏祭りの夜に起きた事件をきっかけに、純の人生は一変する。
相思相愛の一雄と瞳。不幸な影を背負い、瞳に激しい片恋をする純。息をつかせぬ展開で、一気に読んでしまった。「彩りのころ」を凌駕する純愛物語だと思う。
電子書籍空と海と蜃気楼と 5
2014/02/06 17:06
愛情の底知れぬ闇
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
純の自分への執着に、不安を抱き始める瞳。純が何年も前から探偵会社に自分を調べさせていたことを知ると、純に恐怖さえ覚える。瞳の態度の変化に純は激しい不安を抱き、一層瞳に執着し、遂に悲劇が起こる。
「彩りのころ」の拓也には、実の母親が名乗りをあげ拓也に愛を注いでくれただけ救いがあった。純の場合は対称的に、ようやく会えた母親は純を拒絶し、話すら拒む。母親に対する希望を徹底的に打ち砕かれた純の内面は崩壊し、最愛の女性を殺してしまう。
純の破滅的な人生は、母性愛の喪失と深く関連する。瞳に本当に求めていたのも、母性だったかもしれない。だからこそ、常に触れ合っていなければ不安でたまらず、子供のように哀願しすがりつく。嘗ての包み込むような愛が執念と殺意に変わってしまう。愛情の底知れぬ闇を感じる。
電子書籍空と海と蜃気楼と 6
2014/02/10 19:10
光と影のような二人の人生
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投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
見るのが辛い場面が多い。杏奈の危機と一雄の苦悩を軸に物語が展開する。
思えば、一雄と純の人生は光と影のようなもの。
一雄は早くから瞳と相思相愛。夏祭りの事件では、現場に後から来たため傷害事件を起こさずにすむ。大学を出て警察に就職、家庭を持つ。純と瞳の事件の際、逆上して純に手をかけるも救急隊員が阻止、殺人犯にならずにすむ。何気に運がいい。
対して純には、少年期から不幸の影が付きまとう。瞳の為に傷害事件を起こし、少年院、退学、勘当、出奔。東京で一雄と瞳に再会するも、心の傷が一層深まり、再び出奔。一雄の瞳への裏切りで、瞳を手に入れるも、やがて関係に亀裂。実の母親に拒絶され酒に溺れて錯乱状態の時に、瞳から別れを告げられ、命を奪ってしまう。最後は瞳の娘を救う為に命を投げ出す。
苦悩を乗り越えて再生に向かう一雄と、愛の為に破滅する純。二人の人生の対比も、読み応えがある。
電子書籍空と海と蜃気楼と 4
2014/02/10 16:42
遂げた想いと不安と
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投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
純と瞳が愛を交わす場面が、本当に美しい。長い想いを遂げた純は瞳に求婚。しかし、子供のいる瞳は容易に決心がつかない。
愛欲だけではなく、離婚に伴う諸問題も理性的に描かれている。子供を連れて別居したものの、長年離職していた瞳に、容易に仕事は見つからない。純のことも、まだ子供に知らせる訳にはいかない。
一方で、瞳と恋人の関係になった純は、それまで付き合っていた女性に容赦なく別れを告げる。彼女が妊娠を告げても、冷酷に突き放す。瞳にはどこまでも優しい純だが、彼にすがってくる他の女には、徹底して冷たい。
瞳を手に入れた途端、失う不安に苛まれ始める純。彼の不安は、やがて悲劇を招くことになる。
電子書籍空と海と蜃気楼と 7
2014/02/09 17:12
許しと癒しの最終話
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投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一雄と杏奈の魚津での再生。一雄の脳裏に蘇る、純と瞳と過ごした日々。心の傷を抱えながらも、忘れられない三人の思い出を胸に、生き直そうとする一雄。
最終話では、許しと癒しが主題となっている。涙が滲むほど感動した。ただ、杏奈の恋物語の展開がやや甘い気がするので、評価は4点。
作品全体を通して、水商売の女性が多く登場する。みな情が深く、それぞれ魅力的だ。純の親代わりとなるスナック「潮」のママ。一見スレていても根は純情で、純に本気で恋してしまうナナ。「もう男に本気になれない」と言いつつも、純にちょっと本気?のケイコさん。純の孤独な内面を見抜くパトロンのマダム。純の最後の女性となる美咲さん。
不幸な過去を持つ水商売の女性やAV女優を描いてきた作者の、彼女たちに向ける目は温かい。彼女たちの存在が、この物語にある種の救いを与えている。
電子書籍空と海と蜃気楼と 3
2014/02/05 17:22
母性への渇望
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投稿者:弥生丸 - この投稿者のレビュー一覧を見る
一雄と瞳の婚約を知った純は、再び二人から遠ざかる。そして15年後-と、物語が一気に展開する。
偶然出会った犯罪被害者の母親に、幼い頃亡くした母の面影を見る一雄。つかの間の母性を求めた関係が、やがて悲劇に繋がってしまう。作者が描く母性への執着は、息苦しいほどだ。
純がやがて露わにする人格破綻も、母性愛の欠如に深く起因する。母性への渇望も、作者が追求するテーマの一つか。