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3月のライオン(17)
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3月のライオン 1 March comes in like a lion (JETS COMICS)
2010/12/15 15:38
少年の中には獅子の魂が眠っている。
11人中、10人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ジーナフウガ - この投稿者のレビュー一覧を見る
この新作も素晴らしい作品だな、そう素直に思えた。主人公は桐山零(れい)、プロ棋士。
史上五人目となる中学生でのプロ化を果たした彼は高校一年生。
ガランとしたマンションの一室に一人暮らしている。冒頭シーン。謎めいた夢から目覚める零。
膝を抱え、体を折り畳んで眠る姿は、まるで手負いの獣でもあるかのような、気高さと孤独とを匂わせる。
彼の過去に一体何があったのか?夢の続きの様な、何処かしらが欠落した赴きのまま対局に向かう零。
対戦相手も零と深い関係性がありそうなのに、互いに歪んだ空気を放っている。そんな零を優しく、
暖かく見守るのが、あかりを初めとする三姉妹だ。彼女達も母親を亡くしているらしく、
長女のあかりは昼は家業の手伝いをしながら、夜は叔母がしている銀座のクラブのホステスをしながら、
妹達を育てている。そんなあかりが、銀座の街の宵闇に、(先輩棋士たちから)見捨てられ、
置き去りにされた零を見つけ、零の自宅とは、橋を挟んで隣町の、自分の家に連れて帰ったのが、
あかりの妹達、中学生のひな、幼稚園児のももとの運命的出会いになった。
そんな訳で対局から解放された直後だと言うのに、晩御飯のカレーライスに添える福神漬けを買って来て!と
有無を言わせぬ勢いで頼み込まれても、苦笑しながらも満更でもない様だ。
下町の人情味あるドタバタを描ける筆捌きこそ、作者・羽海野チカさんの力量であるように思う。
他にも脇役一人をとっても、決して手を抜かないから、零の高校の先生の林田先生と
零との間の細やかな秘密(彼がプロ棋士であることを口外しない)ある関係性が際立つのだと思う。
普通の、ごく普通の、目立たない高校生として過ごしたいと願う零の言動には、ズシッっとした重みがある。
棋士仲間との関係性も微笑ましい。桐山零の永遠の宿敵と豪語し、強引に零の親友だと名乗る二階堂晴信。
豪快で、笑えるキャラクターの反面、身体にハンデを抱える繊細さ、
それを勝負への強い執着心へと向上させている所は流石だ。彼のエピソードに、
丸一話分割かれているのも良く分かる気がした。どのエピソードも、抜群に良いのだけれど、
中でも中学生のひなが、零と歩いた夜道、痩せぎすの彼に
『おねいちゃんはガリガリの子を見つけるとほっとけないの。でフクフクにするのが好きなの』
『でも大丈夫きっとおねいちゃんがすぐにフクフクにしてくれるよ』ってシーンは、
この漫画の奥深い温もりを象徴しているようで、強く印象に残りました。
一巻の最後辺りから明らかになる零の過去の傷み。物語がどんなに流れても最終的には、
『みんながフクフクになる』そう願いたくなる、極上のストーリーです。オススメします!
3月のライオン 3 March comes in like a lion (JETS COMICS)
2009/08/19 11:04
いよいよ、大きく動き出しました
9人中、9人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:カフェイン中毒 - この投稿者のレビュー一覧を見る
中学生でプロの棋士になった、主人公の桐山零。
幼い頃に事故で家族を失ったあと、引き取ってくれた家で彼は、
「将棋が強いかどうか」でしか、養父の愛情を量ることができませんでした。
居場所を求めて将棋の勉強を続け、その家の子供たち(義理の姉弟)の激しい妬みも買います。
彼にとって将棋は、まず生きるための手段で(居場所と存在意義の確保)、
惜しみない努力で勝ち取ったプロへの最短の道も、結局は彼を幸せにすることはできません。
家を出て高校へ通い始めた彼は、
「独立すれば大人になれる、大人になれば泣かずにすむ」と思っていたようです。
プロ棋士になれたところで、それほどの孤独を抱えた高校生が幸せなはずがありません。
ひょんなことから知り合った川本家の3姉妹が、ときに気遣い、ときにマイペースに、
ひとり暮らしの彼を慰めてくれます。
あたたかい3姉妹に救われるように、ほんの少しずつ彼の生活も変化していくのでした。
川本姉妹との出会いや、零の生い立ち、
彼にとっての将棋を指すことの意味などが中心に描かれていた1、2巻を経て、
今回、いろいろな方面で物語が動き始めました。
ちらっとしか見えなかった登場人物たちの顔が詳しく描かれ始め、一気に面白くなっています。
特に棋士たち。
今までは零の対局の相手として描かれることがほとんどだったのですが、今回は盛り沢山。
さまざまなクラスのプロ棋士の、複雑な思いに触れることにもなります。
彼らから見た零は、強いとは言ってもまだまだ若く、圧倒的に経験値が足りない。
ゆえに読者は、これからの彼の伸びしろを想像することができるのでした。
ただの孤独な天才の苦悩を描くだけの物語ではないことを窺わせます。
個人的には、お気に入りのスミス先輩の対局の1日が描かれていたことが嬉しく、
なぜスミスと呼ばれているのかも、ぼんやりとわかりニヤニヤしてしまいました。
前作『ハチミツとクローバー』でも存分に発揮された、食べ物や雑貨などの細々した絵に、
川本家の日常が、温かく彩られています。
ちゃぶ台に並ぶよく知る料理や、食べ終わったあとの食器など、
ついひとつひとつ見入ってしまう細かさと可愛らしさ。
一方で、男のひとり暮らしらしい、スミス先輩の豪快でちょっと行儀の悪い朝食風景
(これがまた色っぽく見えるのだけれど)。
もちろん棋士たちの喜び、苦悩、成長と同時に、勝負のハイライトなども描かれているのですが、
最近、長年の夢だった将棋をかじり始めた私には、これもまたおもしろい。
紙面を目で追っていただけの駒の動きにも興味がわき、その意味を考え、
素人ながら、これまでの倍は楽しんでいます。
先崎学氏のコラムも充実していて、将棋を知らない人にも、とてもわかりやすく書かれています。
大きく動き始めた3巻で、より続きが楽しみになりました。
『3月のライオン』というタイトル、意味深でいいですね。
3月のライオン 5 March comes in like a lion (JETS COMICS)
2010/12/03 21:00
そっと包み込まれたデリカシーが、心に届く。
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:きゃべつちょうちょ - この投稿者のレビュー一覧を見る
今回は、対局シーンは少なめ。
将棋のシーンと、その他のシーンが
バランスよくまとまった感じ。
零が、だんだんじぶんを取り戻していく様子が
ほんとうに嬉しくなる。
先崎学の将棋コラムも毎回おもしろい。
専門分野の人は、とかく
専門のことしか目がいかなくなる傾向があるが、
この人はちゃんと「3月のライオン」を
読み込んだうえで、適切な解説をしていると思う。
だからこのまんがのファンも
かなり高い好感度を持って、このページを
読んでいるのではないかと推測する。
さて、三姉妹プラス猫たちは
あいかわらずいい味を出してくれているけれど、
次女のひなたちゃんが、大変なことに巻き込まれてしまう。
彼女が思わずこぼした涙に、零が発するひとこと。
これが5巻のクライマックスなのだけれど、
この何ページかのあいだで、泣いてしまう。
ふたりの思いそれぞれに、感情移入してしまう。
いや、ふたりの思いが、こちらに侵入してくるのだ。
めったに震わせてはいけないところに
そっと(決して無理やりではなく)入り込んできてしまう。
琴線に触れてしまうのだ。
羽海野チカは、ふたりを抱きしめるような思いで
これを描いたのだろうか。
そしておそらくふたりの立場にいるたくさんの人を
抱きしめる思いを持って。
感応してしまう人には、なにかとても壊れやすいものを
そっと包んで差し出してもらったような
気になるのではないだろうか。
「3月のライオン」には、ほんとうにいつも、
大事なことが描きこまれているなぁと感じる。