デメキング 完結版
いまこそ読まれるべき怪物的傑作、「完結版」となってついに復刻!!
【本書収録内容】
●新たに描き下ろされたエンディングを含む『デメキング』最終完全バージョン!
●幻のプロトタイプ版『DEMEKING』も18ページ分、フル収録!
●いましろたかしがすべてを語りつくす、1万5千字インタビュー!(聞き手・大西祥平)
●『20世紀少年』との意外な関係とは!?――浦沢直樹氏による『デメキング』解説
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デメキング 完結版
2007/08/14 12:30
傑作です。
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:わたなべ - この投稿者のレビュー一覧を見る
まず白を基調にして印象的な赤をあしらった装丁があっさりして不穏な雰囲気を醸し出しており峯田和伸と浦沢直樹による惹句を白抜きで引いた帯も生きていて素晴らしい。一枚めくって東京タワー、さらに目次、そして第一話の冒頭から1969年の東大闘争や安保紛争がイメージで語られ、物語の舞台である瀬戸内安芸の浜市にカメラが移動し、スーパーカブで市バスを追い抜いていく「天才」のヘルメットを被った学生服の男が描かれる。この追い越しの場面でのコマ割りがかっこいい。横に並ぶコマでバスの運転手と天才ドライバーをアップにし、一コマの中に横に並ぶバスとバイクの引きの絵(これがまるで映画みたいで迫力満点)、アップになって「ビュン」という擬音とともにバイクがバスを追い越し、ここでページをめくると遠景の奥にバスがあり、煙のような埃のような記号が画面中央より少し上に浮き海岸沿いの道路が描かれている中にバイクの姿はなく、次のコマでおそらくはバスからの視点で透視図法的に描かれた中心にすでに遠くまで走り去っているバイクの姿が小さく見える。この呼吸はちょっと最近の漫画にはないかっこよさだと思った。もちろん『デメキング』は1991年に集英社のビジネスジャンプに連載された作品であって、1991年が「最近」になるかどうかは微妙なところだが、しかしまあこの時代にあってもこういう余裕のあるかっこいいコマ割りはあまり見られないものだったという記憶が私にはあるので、この漫画に賭けた著者や編集者の意気込みを感じさせられるシーンだった。その後も全編に渡って丁寧で、かつ唖然とさせられるような描写、展開、台詞が続くこの作品の内容について触れると、どうしたってネタばらしになる他はなく、そしてネタをばらしてしまうとこれからこの作品を読む人の大きな楽しみを奪うことになってしまう種類の作品でもあるので、物語には触れないことにするが、実際、この不条理さとリアルさが高度な緊張と緩和の上で交錯する感触は、ちょっと他の作品では得られないものである。これこそ傑作の名に相応しい。
もっとも、巻末の著者インタビューによると彼自身はこの作品を「失敗作」に位置づけているらしい。まあ、正直いって作者の立場からは確かに「失敗」であるかもしれないとは思うものの(そしてもし「成功」していたとしたらそれはもう途方もない作品になっていただろうとも思うのだが)、しかし「失敗」さえも含めてやはりこれは傑作なのだと読者としては強弁したい。ほとんど強引に「終わらせる」ために選ばれたような書き下ろしの3ページにしたところで、この「オチ」じたいが、また一筋縄ではいかない不思議に屈託した読後感を与えるものなので、こういう屈託は得ようとして得られるようなものではなく、まさしく「才能」と呼ぶより他にしかたがないものであるように思う。