- みんなの評価
36件
リアル
著者 井上雄彦(著者)
バスケを辞めてから何もかも上手くいかなくなった男・野宮朋美。街でナンパした山下夏美をバイクに乗せ事故り、ケガを負わせてしまう。高校も辞めた野宮は、ある日、古ぼけた体育館で車いすの男・戸川清春と出会い1on1のバスケ勝負を挑む。体育館でのバスケ勝負から繋がった野宮と戸川。ひょんなことから西高バスケ部キャプテン高橋と賭けバスケ対決をすることに。結果、賭けに勝ち西高体育館の鍵をゲットする。その高橋がある日、トラックに轢かれてしまい…。 【デジタル版では紙版未収録のカラーイラストを特別収録】
リアル 16
ワンステップ購入とは ワンステップ購入とは
この著者・アーティストの他の商品
前へ戻る
- 対象はありません
次に進む
リアル 9 (YOUNG JUMP COMICS)
2009/12/07 11:03
彼らの姿、言葉が心に響き、私の心の中で化学反応が起こる
8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:yuki-chi - この投稿者のレビュー一覧を見る
一年に一度発売の「リアル」。また今年も熱い涙を流しました。
野宮、高橋、戸川。
真っ暗闇の中で、心にも体にも重い枷がついている彼ら。
自分が見つけられない。進むべき「道」が見つけられない。
スタート地点にさえも立てない。
そんな3人の内面の葛藤がとても丁寧に描かれている。
展開はひたすら遅い。
傷ついた心を再生するのに要する時間は計り知れない。
何もしない止まったままのように見えたり、
やっと一歩進んだかと思えば、2歩後退、
あるいは無になって振り出しに戻ったり・・と。
今まで読んだ小説が短絡的なサクセスストーリーに思えるほど、
人間本来のリアルな姿がここには描かれている。
自分を受け入れられない人間には、他人の価値も見えない。
自分と向き合い、等身大の現在の自分を受け入れることで
他人も受け入れられる。
それが新たな力強い一歩となる。
人と関わることで個性と個性が絡み合い「化学反応」が起こるのである。
パスを連携してゴールを狙うバスケのように、人と人との連携の中で生み出されるものが必ずある。
何度も振り出しに戻って、ようやくスタート地点に立てた野宮。
未だ絶望の淵にいる高橋も少しずつ他人を受け入れ始める。
生きていくうえで一番手ごわいのが自分の弱い心。
「勝たなくていい。ただ負けるな。」
高橋父の言葉。何度読み返しても泣けてくる。
完璧ではなく、何かが欠けているからこそ前へ進める。
例え亀の歩みでもアリの一歩でも・・。
そんな彼らの姿、言葉が胸に響き、私の心の中で化学反応が起こる・・。
リアル 1 (Young jump comics)
2011/11/26 18:12
「人間」を正面から物語として描ききる作者の力量に脱帽
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
『スラムダンク』、『バガボンド』の井上雄彦が、今度は車いすバスケットに取り組んだ。
既に伝説ともいえる『スラムダンク』は、バスケットマンガの革命だった。そもそもバスケットのマンガがあまりなかったうえに、素人に懇切丁寧に教えるようにして、ひとつひとつバスケットボールの技術、戦術についての解説をも取り入れながら、その魅力を存分に語ってくれた。なんといっても超人でありながらバスケットにはど素人、という桜木花道(念のため言うが人名)の設定がはまった。
もちろん人間の魅力も十分描いていたとはいえ、その核心にあったのは。競技自体の魅力だったと思う。
その井上さんが、今度は同じバスケットといっても車いすの競技である。ん?と思った読者は少なくあるまい。
もちろんしょうがい者スポーツだから、メンタルな問題が大きく取り上げられるだろうことは誰にも想像がつく。だが、『スラムダンク』であれだけバスケットそのものを追及して見せた作家が、ここまでバスケットを横に置いて、とことん心の問題を描き切る、というのは大きな驚きだ。スポーツとしてのバスケットはあちらでやり尽くしたから、とも言えるだろうが、なかなかできることではないと思う。
もちろんバスケット大好き人間は出てくる。顔は怖いが花道に似た可愛らしさ?を見せるA(あえて名前は書かない)である。しかし彼の最大の問題はバスケットではない。いかにしてまっとうな己の人生を生きるか、という非常に切実にして誠実な問題なのだ。
ほかの人物しかり。陸上への栄光の手前で転落し、そこから這い上がるためにたまたまバスケットに挑むようになったB、いいとこどりのエリートだったのが事故で下半身の自由を失い、そこからその内に潜む人間としての問題ととことん向き合うことになるC。
物語は互いに絡み合うこの3人を中心に展開していくが、つまるところ描かれているのは、何らかの不幸を抱えたときにそれとどう向き合うか、その辛さからいかに這い上がるか、という、人間に普遍的な問題である。
しかしこうした、身近ではあるが難しい問題を、物語としてかくも面白く描いて見せる作者の力量は半端ではない。『バガボンド』も力作には違いないが、侍の時代の求道者というのは感覚的に遠いものもある。それに比べると、ここで描かれる世界は非常に近く切実だ。けっしてしょうがいに限ったテーマではないのだ。
巻を追うにつれ、少しずつスポーツしてのバスケットの要素も描かれるようになっていくように思う。最終的に「チーム」が揃ったときに、スポーツと人間ドラマとが一体化したとてつもない感動が待っているのだろうか。そうした野心もたしかに感じられる。この先がとても楽しみだ。
リアル 12 (YOUNG JUMP COMICS)
2012/11/26 22:42
前へ!―それぞれの戦い
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ががんぼ - この投稿者のレビュー一覧を見る
前の巻で、野宮朋美の熱さに圧倒されたあとでは、正直やや拍子抜け、という思いがないわけではない。
私の他にもそう思う読者はあるのではないか。
しかし、そうして調子よくいかないのも人生である。
『リアル』は、調子のいい物語よりも、より「リアル」な人生を描こうとしているのではなかったか。
それはそうだよな、と納得させられるものがある。
この巻では野宮よりも(彼も一応描かれてはいるが)
ほかの二人の主人公、高橋久信と戸川清春、とくに戸川に比重が置かれている。
そして、彼らだけというわけでもない。
安積、リョウ、コウ、久信の両親、スコーピオン。
脇役とも言える人物たちの思いもかなり描き込まれていて、
その意味では、ひとつの焦点というよりも、「群像」を描いた巻だろう。
でも、もちろんバラバラではない。
いずれも、何らかの挫折を経た後に、それを乗り越えようとするポジティブな姿を示していて、
それが共通した一本の真っ直ぐな軸になっている。
それが快い。
簡単ではないにしても、
一歩一歩、必ず前に進んで行ける。
そんな希望を与えてくれる巻だ。