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電子書籍
孤独か、それに等しいもの
著者 大崎善生
憂鬱にとらえられ、傷つき、かじかんでしまった女性の心を繊細に映しだし、灰色の日常に柔らかな光をそそぎこむ奇跡の小説、全五篇。豊平川の水面に映る真っ青な空。堤防を吹き抜ける...
孤独か、それに等しいもの
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孤独か、それに等しいもの
商品説明
憂鬱にとらえられ、傷つき、かじかんでしまった女性の心を繊細に映しだし、灰色の日常に柔らかな光をそそぎこむ奇跡の小説、全五篇。豊平川の水面に映る真っ青な空。堤防を吹き抜けるつめたい風。高校三年の九月のある日、ピアスの穴を開けようとする私に向かって、かつての恋人は言ったのだ。「大切なものを失くしてしまうよ」と。
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紙の本
悲しみから、元気が出る!
2004/06/03 09:16
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:小道 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本屋の新刊書売場で、タイトルに魅かれて買った本。作者が将棋界を描いたノンフィクションから出発した人であることも、最近注目されている小説を書いている人であることも、「野性時代」に掲載されていたことも、何も知らないまま読んだ。
よかった!一気に読んでしまった。物足りなくて引き続き二度目も読んだ。
はじめは女性作家ではないのかと思うぐらい女性の心の機微を描いているのに驚いた。短篇5篇のうち3篇が女性の語り口で書かれている。『八月の傾斜』、『孤独か、それと等しいもの』、『ソウルケージ』。いずれも悲しみを背負ってしまった女性が、悲しみの思い出を捨てて、生きよう!という蘇生の物語だ。それだけに読み終えての爽快感と主人公への愛情が深まるように思う。
⇒詳細 http://www.review-japan.com/folder/p685.html
紙の本
痛々しいほどの「孤独」とそしてそれから「再生」するまでの物語。
2004/06/12 15:05
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:エルフ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本当に孤独を感じたとき、人は「寂しい」という言葉すらすぐには浮かばすただ心の闇の中へ陥ってしまうものなのではないだろうか。
私はいつも感じていた「寂しい」と簡単に口に出す人は本当の「寂しさ」を知らないのではないかと。
大切なものを失った後、人は感情を出すこともまた失い、その現実から抜け出すことも状況から這い上がることも出来ず、また孤独であることすら気付かずに知らず知らずに磨り減ってしまうものなのではないだろうか。
そういう部分で私にとってこの本はまさしく「孤独」について語っている本でした。
そして「孤独」と「再生」は対になっているもので、どの物語も主人公が哀しみから再生の道へ一歩踏み出すまでの物語。
決して明るくはなく、内容としては愛する人の「死」が書かれているので重たいのですが、それでも残された者の生き方として未来が見える終わり方なのでどれも読了後は暗くはないんですよね。
実はこの本、帰りの電車の中で読んでいたのですが「ソウルケージ」を読んでるときは正直泣きそうになって焦りました。
孤独感、虚無感、溢れ出す悲しみや嘆きを魂の籠へ投げ入れて、ただせっせと投げ入れて、何も考えないよう機械的に生きてきた主人公がふと気がつくと何も投げ入れるものがなくなり崩れていく姿、そして歯をくいしばり生きる道を選ぶ姿、この描き方が上手すぎて主人公にどっぷりとはまってしまいました。
男性が主役のものが二話、女性が主役のものが三話あるのですが断然私は女性主役の三話をオススメします。
紙の本
今までと違って女性主人公の話があるんだが、これが素晴らしい…
2004/05/11 02:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:トラキチ - この投稿者のレビュー一覧を見る
大崎さんの最新刊を手にとって見た。
既刊の短編集である『九月の四分の一』との大きな違いはなんといっても、本作においては女性主人公が全5篇中3篇を占めることであろう。
言わずと知れたことかもしれないが、大崎さんのファンって圧倒的に女性が多いと思う。
いままでは“繊細で優しい”男性主人公に対する“憧憬”を強く持たせることによってファンを虜にして来た感が強いが、本作は女性主人公に大いに共感させる(女性読者が)ことを大前提にして書かれている。
ある意味、冒険かもしれないが、裏返せば大いなる“自信”の表れでもあるんじゃないかな。
読んでみて、杞憂だったことに気づくはずである。
個人的には女性主人公の作品の方が圧倒的に感動的であった。
一因として、私が男性であるという事もあるのかもしれないが、大崎さんの繊細な文章と過去を顧みる(いわば回想)パターン化された作風からして、よりマッチングしているような気がした。
なんと言っても冒頭の「八月の傾斜」が予想に違わず素晴らしい。
読者の失われつつある“青春のきらめき”を呼び戻してくれる名作である。
あとこれも女性主人公なんだが、亡くなった双子の妹をいつまでも思いやる姿が印象的な表題作の「孤独か、それに等しいもの」。
ラストの「ソウルケージ」も主人公が女性である。
この作品は今までは恋愛を中心に据えた話が大半だったけど、“親子愛”が基本ベースとなっていてより泣かせる話となっている。
大崎さんの作品を読むと自分の恋愛経験不足が強く認識できるのであるが(笑)、人生に置き換えてグローバルに見据えると、吸収できるというか見習うべき点は多い。
どの作品においても過去と訣別し、未来に向かって“覚悟”とも言うべき決意を表しスタートを切る主人公たち。
読み終えて本を閉じた時、主人公達に大きな拍手を送らずにはいられない。
読んでいて切ないがゆえに息苦しく感じた。
こんな方も多いんじゃないかな。
大崎さんのひたむきさを十分に理解した証拠である。
トラキチのブックレビュー
紙の本
同姓か、それに等しいもの
2004/12/23 09:44
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:大久保君 - この投稿者のレビュー一覧を見る
初めてではないが、今日は珍しいことがあった。読んでいる小説の登場人物が自分と同じ姓だったのだ。大崎善生の短編集『孤独か、それに等しいもの』の冒頭の作品「八月の傾斜」の主人公石田祐子の中学・高校時代の恋人の名前が「大久保君」であった。ちょい役ではない。45頁の作品の中に83回も「大久保君」という言葉が出てくるのだ。「大久保君」の洪水。こういうのはちょっと困る。なんて言うのだろうか、照れくさいような気分になるんですよね。
「キスしてください」と私は卒業がいよいよ近づいた日に、家の近くの公園で大久保君にせがんだ。
大久保君は私の手を優しく握りながら私にこう言った。
「石田」
「はい」
「キスはね・・・・。高校生がやるものだと思う」
「はい」
「だから高校に進学してからにしよう」
次の日にそのことを百合子に話すと、彼女は声を上げてケラケラと笑い転げた。
「ハハハ。キスは高校生かあ。大久保君ってやっぱり可愛いなあ」
そう、大久保君は可愛いと私も思った。可愛いだけじゃなくて格好もいいし、それにものすごく男らしいーー。
どうです。恥ずかしいでしょ(各自、上記の引用文中の「大久保君」を自分の名前に置き換えて読んでみて下さい)。もっと恥ずかしい場面もあるのだが、とても引用することができない。耐えられない。
ところで、この「大久保君」は高校三年の九月に自転車に乗っているところをダンプカーに轢かれて死んでしまうんですね。先日読んだ瀬尾まいこ『幸福な食卓』の主人公の女子高生の恋人も自転車に乗って新聞配達をしているときに車に轢かれて死んでしまうのだが、いい奴があっけなく死んでしまうのは本当に悲しいものだ。あまりに悲しくて悲しみを悲しみとしてきちんと経験することができない。「大久保君」が死んでから石田祐子は毎年九月になるとひどい鬱に襲われる。そしてその予兆は八月から始まる。「八月の傾斜」というタイトルはそこから来ている。そして27歳になった彼女は八月に恋人からのプロボーズを受ける。
大久保君が死んでから十年近くがたって、あの九月のどん底が決して彼のせいだけではないことも私は感じはじめていた。私はきっと時間とともに失われていくすべてのことに怯えているのである。すべてを自分から奪い去ってゆく、時間という有無を言わせない力に。
大久保君が恋しいわけではない。
大久保君と過ごした自分自身が恋しいのだ。それはなす術もなく、日々、移り変わっていってしまう。二度と取り戻すことのできない記憶の堆積物に、私は勝手に大久保君という名前をつけて呼んでいるだけなのかもしれないのだ。
女性を主人公にした小説を書ける男性作家は少ない(男性を主人公にした小説が書ける女性作家も少ない)。大崎善生は女性を主人公にした小説を書ける数少ない男性作家の一人である、と大久保君は思う。