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トラキチさんのレビュー一覧

投稿者:トラキチ

342 件中 1 件~ 15 件を表示

紙の本

紙の本日の名残り

2009/04/27 21:09

土屋政雄氏の歴史的名訳による重厚な一冊。人生について深く考えさせられるブッカー賞受賞作品。

22人中、19人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『エデンの東』(ハヤカワepi文庫)や『月と六ペンス』(光文社古典新訳文庫)、『アンジェラの祈り』(新潮クレストブックス)の名訳で著名な土屋政雄訳。
ブッカー賞受賞作品。

さて、カズオ・イシグロ初挑戦しました。
これはもう素晴らしいの一語に尽きますね。
あまり小説に男性向け・女性向けという形容を施したくないが、この作品は男性向けの作品だと思う。
なぜなら作者は“男の人生”を描いているからだ。
でも女性が共感できないということはありません、逆にこんな男に惚れて欲しいと思ったりします(笑)
あとどうなんだろう、特徴としては作者にとっての母国となるイギリスに対して、ある時は誇り、ある時は辛辣に描いているように見受けれる。
物語の始めに読者は主人が今までの英国人からアメリカ人に変わったことに驚きを隠せずに読み進めたのである。
予想通り全体を支配している重要なことでした。
主人公のスティーブンスは老執事。
説明いらないと思いますが、執事と言っても現在日本で取り立たされているイメージの執事とは全然違い、品格を求められるものです(笑)
物語は主人公の短い旅(6日間)に出るところで始まりそして終わる。
男性一読者の私にとって、主人公はいわば理想の英国人に近く写ったのである。
少しイライラする面もあるが許容範囲。
描かれるのはわずか6日間のあいだだが、まるで長い人生を凝縮したような6日間なのである。
前述したがこれはやはり男性読者の方が理解しやすいと思ったりするのだ。

仕事に対するこだわり、父親に対する尊敬の念、そして女中頭との恋愛。
一生懸命に生き信念を通すということが立派な品格を築き上げるのですね。

少し前半凡庸な気もしないではないが心配無用。
中盤からのミス・ケントンとの恋愛感情を含んだ仕事のやりとり。
これは重厚な作品の中にあって軽妙であり楽しめます。

あと付け加えておきたいことは、やはり時代背景と作者の育った環境ですかね。
本作の描かれている時代は1956年。そして旅行中に回想される時代が1930年代です。
ちょうど第二次世界大戦が終わって10年ぐらいたった時期に旅し、第1次と第2次とのあいだの時期を回想してますね。
当時のイギリスのヨーロッパにおける位置づけの認識はかなり重要です。
そして作者はご存知のように日本生まれで5歳の時に両親と渡英。
生粋のイギリス生まれでないところが見事な“少し不器用だけど紳士的な主人公像”を作り上げている要因となっている気がする。

人生すべてうまくいくとは限らない。でも明日のことを考えて生きていこう。
主人公が終盤ミス・ケントンに背中を押されたのと同様、読者も作者に生きる勇気を与えられた。

本作の原題は"THE REMAINS OF THE DAY"、読者は"THE REMAINS OF THE LIFE"を否応なく考えさせられる名作です。
見事な原作に最高の翻訳、未読の方は是非酔いしれて欲しいですね。

男も泣きたい時がある。最後に主人公が流した涙は男の矜持の象徴と信じて本を閉じた。

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紙の本

紙の本きのうの神さま

2009/09/04 20:14

全5編からなる僻地医療を中心の題材とした短編集。映画監督と言うことで、作者には失礼ですが“直木賞候補”は話題作りの一環かと思ってました。ところが読んでみて驚きました。作品全体として命の尊さを訴えており、私たち読者の襟を正すことのできる作品ですね。「きのうの神さま」と言うタイトル名も素晴らしいですね。いろんな人生、いろんな生活があることを結構リアルにかつ的確に描いています。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

映画『ゆれる』の監督で著名な西川美和さんが書かれた映画『ディア・ドクター』の外伝を含む5編からなる短編集。

まず直木賞候補に上がったということで手に取った作品であることは否定しないのであるが、予想以上に素晴らしい作品であったことに驚きそして作者に敬意を表したいと思う。
これは恐るべき才能ですね。
5編からなる短編集であるが、おもに僻地医療を題材としています。
まず5編とも甲乙つけがたいほど素晴らしい出来であり読者である私たちを叱咤激励してくれる作品集だと言えます。

全編を通して言えることはそうですね、ある人にとっては非日常のことがある人にとっては日常である。
まあ当たり前のことですが(笑)、読んでみてそれぞれの主人公の気持ちに没入することが出来ます。

やはり女性の登場人物を上手く描いていると唸らされました。
まず冒頭の「1983年のほたる」の市内の中学受験を目指し塾通いをする小学校の少女に度肝を抜かれます。
風変りなバスの運転手と事故に巻き込まれます。小学生の彼女の世界と現実の世界のギャップが非常に面白くかつシビアに描かれてハッとさせられますね。
この作品だけ僻地だけど医療に関係ないですね。

あとの4編は医療関係にたずさわる様々な人々を描いてます。
「ノミの愛情」での女性主人公で元看護師の妻も印象的である。
表向きと実態の違う医師の夫をコミカルにかつ毒を持って描いている本編、女性の大変さを男性読者の私がかなり理解できたのは作者の筆力の高さ所以でしょう。

そして個人的に胸を打ったのはラストの「満月の代弁者」の孫娘ですね。
自分の人生を捨ててまでアルツハイマー病の祖母の介護に人生を賭けます。
その背景として自分の両親を満足の行くように看取れなかったということがあります。
何といっても祖母と孫娘との親子を超えるような愛情ですね。
特筆すべき点はこの孫娘が主人公で無い点ですね。
ちょうど僻地での勤務を終えた医師である主人公が新しい医師と引き継ぎでアルツハイマー病の祖母の家を訪れます。
ラストはドラマティックに終わります。
これはまるで読者の明日に貴重なエネルギーを与えてくれているような結末でした。

いろんな人生があります、私たちが日常的に抱いている不安を払拭してくれる効果がある本作、作者の取材力の高さと非凡なる感性を確認しつつも“人と人との絆”そして“人生にとって大事なもの”を考えさせてくれる傑作作品集と言えるでしょう。

それぞれの物語に登場する人々の息づかい、あなたも是非しっかりと聴いてください。

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紙の本

紙の本停電の夜に

2009/02/23 18:27

まるで美しい映像の映画を見ているような陶酔感を味わえる短編集。

10人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

まず著者のジュンパ・ラヒリについて簡単にご紹介しよう。
1967年ロンドン生まれ。現在まで本作の他に『その名にちなんで』(新潮文庫)(2004)と『見知らぬ場所』(2008)(新潮クレストブックス)を上梓。
受賞歴は本作に収録されている「病気の通訳」でО・ヘンリー賞、本作でピュリツァー賞とヘミングウェイ賞を、『見知らぬ場所』でフランク・オコナー国際短篇賞を受賞している。

『その昔、何カ月も辞書を引きひき訳読したあとで、ついにフランスの小説やイタリアの十四行詩をつっかえずに読めるようになったときも、似たような心地よさがあった。そんな瞬間には、世の中にはうまくできている、がんばったらいいことがある、まずいことがあっても結局どうにかなるのが人生だ、と思えたものだ。(病気の通訳より引用)』

訳者である小川高義さんの簡潔で美しい訳文も印象に残った。
違和感なく読ませるってその訳者の実力以外のなにものでもありませんよね。

作者の両親がカルカッタ出身のベンガル人で、本作にもインド国内の話2編以外はアメリカで暮らすインド系移民の人々が登場するのが特徴。
私自身、あんまり翻訳本を読まない理由として大きく二つの理由がある(というかあった)
まず、文化の違う人が書いているのでどうしても共感し辛い点。
そして、もうひとつは訳者を介しているので読みにくくかつ読み取りづらい点。

本作を読んで上記2点は杞憂に終わったことに気付いたのである。
前者は作者の力、後者は訳者の力である。

本作すべてに通じることであるが、この作品の素晴らしい点は登場人物のほとんどの背景がアメリカで住むインド系移民でもともと文化が違うのですが、“人間の本質的なものには変わりはない”ということを読者に知らしめてくれているところ。

たとえ翻訳本であれ文化の違いがあれども読書の奥行きの深さを陶酔出来る名作であると言えそうだ。

特徴としたら端正な文章という言葉があてはまるのであろう。
あとは一編一編が味わい深くって余韻が強く心に残るといったところ。
“言外の意味を汲み取る”ことができるんですよね、というかそれがこの作家の高い評価の大きな理由であると断言したい。

くしくも、航空機内でこの本を読み始めたのであるが、それはこの作品を味わうのにはかなり場違いであったと後悔している。
流し読みは作者に失礼であって、この作品集はじっくりと心を落ち着かせてコーヒーをすすりながらじっくりと読むべき本である。

特に秀逸なのはラストの「三度目で最後の大陸」。
他の作品は総じてウィットに富んでユーモラスな部分が目についたのであるがこちらは繊細でかつ感動的。
100歳を超えた老女と若妻の対面のシーンは本当に感動的で脳裏に焼き付いて離れない。
思わず目頭が熱くなった。ちょっと涙腺が脆いのですが(笑)、二度読んじゃいました。
私的には作者の背景等を考慮すると、愛する両親に対するオマージュ的作品とも捉えることが出来たのである。

あとちょっとドキッとさせられる「セクシー」とО・ヘンリー賞受賞作の「病気の通訳」が個人的にはお気に入り。
でも他の編が気に行っても全然おかしくない力作ぞろい。
なんというか、美しい映画9作を見終わった気分に浸れる感覚ですね。
読者が入り込める世界をデビュー作にして放った作者の能力を大きく讃えたいなと思うのである。

ちょっと脱線するけどかなり美形の作家さんです。新潮文庫で買って是非あなたの蔵書の一冊に加えて欲しいなと切に思います。
機会があれば講談社英語文庫でも読めるので原書で挑戦したいなとも思うのであるが(苦笑)

新しい才能高き作家にめぐり合えた時の喜び・・・これだから読書はやめられない。

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紙の本

紙の本希望ケ丘の人びと

2009/01/30 18:08

重松さんから新年早々ビッグなお年玉が届きました。重松節炸裂作品。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

「週刊ポスト」に連載されたものを加筆改稿。

主人公の田島は40歳で娘の美嘉(中三)と息子の亮太(小五)がいる。
2年前に妻をガンで亡くし現在は3人家族いわゆる父子家庭。
物語はかつて転勤族だった亡き妻・圭子が小学校5年から中学卒業までの5年間を過ごした街に引っ越してくるところからはじまる。
子どもたちのために、そして亡き妻のために。
その街の名は“希望ヶ丘”。

主人公は会社を早期退職してフランチャイズ制の進学塾の教室長として再出発するのであるが・・・

2段組みで510ページ。
いろんなエピソードが読者を待っています。
登場人物も本当に個性的かつ魅力的。
主な登場人物は裏の主人公でもあるエーちゃんとその娘マリア。
そして書道教室の瑞雲先生とその妻チヨ、そして彼らの孫であるショボ。
モンスターペアレントである宮嶋夫婦とその息子である泰斗。
圭子のかつての親友フーセンこと藤村香織さんとその旦那。
中学教師の吉田と野々宮。
あとは栄冠ゼミナールの加納君。

いろんなところで登場人物が噛み合ってそれぞれの人が生き生きと描かれています。

私が思うに“重松節”も2種類あって重い重松節と軽い重松節。
前者は重過ぎて読者を選ぶ(過去の代表例『疾走』)重松節。
後者は誰でも読める(過去の代表例『いとしのヒナゴン』)重松節。

この作品は後者の重松節。
もちろんテーマは非常に重いんだけど、週刊誌連載ということで巧みにスパイスが用いられていて読みやすい読み物に仕上がっている。
いわば主人公である私(田島)がもっとも平凡であり、他の登場人物が生き生きと個性的に描かれている。
少なくとも男性読者は読者は主人公の立場になって本書の中に入っていくことを余儀なくされる。
女性読者は天国にいる圭子のように温かく見守りながら読んで欲しいな。

初出が大衆週刊誌であっても、やはり本書の内容は“人生の教科書”的内容。

作中で重松さんがわれわれ読者に警告してくれるのは次のことである。
そう現代人は“正しさがあって優しさがない”

“正しさがあって優しさがない”人の代表例として吉田先生。
もちろん、教師だって昔より大変なのは読者も知っているし重松さんはもっとわかっている。
だけど敢てエーちゃんの対極の人間として吉田先生を描いている。

逆に“正しさはないかもしれないが優しさに満ちている”人の代表例としてエーちゃん。
このエーちゃんがこの物語全体を支配している。

読めばすぐおわかりになるのであろうが敢えて書かせていただくと、前者(吉田先生)が悪い意味合いでの“現実”としての描写。
後者(エーちゃん)は理想としての描写。
私的には“エーちゃん=希望”であると読み取っています。
重松さんの矢沢永吉(エーちゃんのモデル)に対する強いリスペクトが表れた作品でもある。


重松さんは本作にて読者に問う。

親とはなんだ。
家族とはなんだ。
幸せとはなんだ。

希望を持って生きればその答えは自ずと出てくるはずだと。

最後にマリアが日本を離れてアメリカへ渡るシーンがある。
これはやはり現代日本社会に対する重松さんなりの批判が込められていると書きとめておきたい。

総括したい。

私が一番感動したのは物語全体を支配している、やはり亡き妻に対する愛情である。
ニュータウンに引っ越ししたこと自体、子どもたちの希望でもあるのだが、やはり圭子が喜ぶからという気持ちが強いと感じた。
この読者を包み込んでしまう優しさは重松作品でしか味わえない。

暗澹たる時代だからこそこういった物語が人々を癒す。
重松作品としてはご多分に漏れず心に残る言葉のオンパレード。
楽しみながらもハッとさせられる。

その結果、これだけ胸をなでおろされる作品はお目にかかれないと強く感じるんだよね。

そう、この心地よい胸の苦しさは重松作品でしか味わえないと断言したい。

最後にもっとも本作で重松さんが言いたかったことは次の3行に集約されている。

「だが、親は誰でも、子どもが生まれたときに思うのだ。
この子を一生、幸せにしてやりたい。
この子を一生、守り抜いてやりたい。」<本文より引用>

今年のナンバーワンは決まったかな。

ぜひ皆さん手に取ってください。


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紙の本

紙の本空中庭園

2005/10/16 23:32

『対岸の彼女』の対岸に位置する作品。

8人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

今、もっとも活躍している作家の一人と言える角田光代さんの実質出世作となった作品。
衝撃的な書き出しで始まる本作は、小泉今日子主演で映画化され現在ロードショー中。
あたしはラブホテルで仕込まれた子どもであるらしい。どのラブホテルかも知った。高速道路のインター近くに林立するなかの一軒で、ホテル野猿、という。
「何ごともつつみかくさず」というモットーを持って生きている郊外のダンチに住む、父・貴史と母・絵里子、高校生のマナ、中学生のコウの4人家族。現代社会における象徴的とも言える核家族が持っているそれぞれの隠された秘密が徐々に露わになって行く・・・
本作は直木賞候補にも選ばれており、2回目のノミネートで受賞作となった『対岸の彼女』と読み比べてみるのも面白い。
『対岸の彼女』が女性の生き方や友情を問うた作品であるのに対し、本作はまさに家族のあり方を問うた作品。
どちらの作品もリアルで読者にとって共感小説と言えるのであるが、内容的には本作の方がどんよりと重い。
各章“ダンチに住む4人家族(京橋家)”と祖母と家庭教師の6人の視点から綴られる。
それぞれの登場人物が持つ“秘密”が少しづつ露わになり、物語としても巧く繋がるところは連作短編的な長編の特徴が出ている。
角田さんの凄い点は老若男女と言って良い6人(14歳の中学生から70前のおばあちゃんまで)の視点がそれぞれ見事なことに尽きる。
読者は自身の人生を振り返ったりあるいはこれから人生をどう生きていくかを考えさせられるのである。
とりわけタイトル名ともなっている妻の絵里子の章「空中庭園」が秀逸。
母親との確執が人生を変えている点は他の章が多少なりともコミカルな点があるのだけど切なくていつまでも心に残るのである。
いや、身につまされた方が多いのかもしれないな(笑)
あと2人の女性と不倫して修羅場に遭遇する父親の貴史、滑稽に書かれているがどうしても女性読者の絶対数の方が多い点からしてのサービス精神であろうかなと思ったりする。
いずれにしても本作は角田さんの最大の特徴である“小説の世界で描き切れる範囲内で精一杯の問題定義を読者に投げかけてくれる”ことに成功している。
性別・世代を超えた方に支持されるエンターテイメント小説であるが『対岸の彼女』と比べると暖かいまなざしよりも鋭い視点に重点が置かれているような気がする。
ここからは少し結論づけますね。
本作において角田さんは現代社会における家族のあり方を示唆してくれているが、決して危機的な状況であるとまでは語っていないような気がする。
この作品に“人生の縮図”を見た方も多いのではないであろうか。
人生は“幸せを求めての試行錯誤の連続である”私的には角田さんが一番読者に訴えたかったことだと理解している。
その感性の豊かさからして、角田さんが国民的作家と呼ばれる日もそんなに遠くないんじゃないであろうか。
そのためにもあなたにもこの本を手にとって欲しいなと切望する。
活字中毒日記

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紙の本

紙の本その日のまえに

2005/08/22 21:05

もしあなたが余命3か月の宣告を受けたら?そんな気持ちで本書を手にとって欲しいなと思う。

9人中、8人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

2001年『ビタミンF』で直木賞を受賞以来、2002年『流星ワゴン』、2004年『卒業』とファンを唸らせる小説を上梓、自他共に認める家族小説の第一人者として不動の地位を保っている重松さんであるが、本作を読んでまだまだ目指すところは高かったことに驚愕された方は私だけじゃないはずである。
本作にて家族小説というより夫婦小説として“究極の愛情”を描写、重松ファンってなんて幸せなんだろうと思われた方も多いはずだ。
本作は帯にも書かれている“連作短編集”と言うよりもむしろ、独立した短編4編と妻が末期ガンになって亡くなる過程を描いた長編がミックスされた超お買い得&オススメ作品である。
たとえば山本周五郎賞を受賞した荻原浩さんの『明日の記憶』を楽しめた方には是非手にとって読み比べて欲しいなと思う。
“平凡”と“普通”という言葉がある。
本作にて出てくる人たちは“普通”の人たちであるが、いわば“平凡”ではない。
というのは、どの編にも不幸な死が直面しているからである。
それでも登場人物たちというか残された人たちは現実を受け止めなければならない。
少し前述したが、前半の4つの短編に出てきた人物たちが後半のいわば本来の連作短編(「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」)に脇役として登場する。
不覚にも彼らの突然の登場に涙してしまった。
重松氏にとっては予定調和だったのだろうが、一読者である私はその筆の冴えに度肝を抜かれたことを正直に吐露したい。
重苦しく悲劇的なテーマをいとも簡単にわかりやすく読者に提供してくれる。
家族小説は題材でしかなかった。
崇高な親子愛と夫婦愛、あるいは熱き友情を読者に身につかせる・・・本作は重松ワールドの到達点だと思ったりするのである。
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健気に生きるって本当にむずかしい。
本作に登場する人たちはすべて健気に生きている。
大輔・健哉兄弟のみならず、看護師の山本さんに至るまで・・・
他の重松作品でも味わえるのであるが、本作ではより一層、深い悲しみに打ち勝つべく“健気な努力を怠ってない点”が読者の胸を熱くするのである。
たとえば、「ヒア・カムズ・ザ・サン」に登場する高校生のトシが後半母親の病室を毎日訪れるシーン、あるいは石川さんがシュンの為に花火大会を催そうと努力しているシーン。
とっても印象的である。
そしてなによりも凄い点は、主人公(と言っていいだろう)の僕が前述した彼らの行動や生き方を“前向きに生きているものの象徴としてバネとしている”点である。
重松ファンの誰もが胸を打たれることであろう。
もしあなたが余命3か月の宣告を受けたら?
そんな気持ちで本書を手にとって欲しいなと思う。
はたしてあなたは涙せずに読めるだろうか?
少なくとも30才以上の方が読まれたら、少しずつ直面していくであろう未来の“死”を考え、あるいは子供のころの“忘れられない思い出”を懐かしむのもいい。
新たな人生の“教科書”を手に入れた重松ファンの心の中には、作中に出てくる無農薬野菜が毎日届いているのであろう。
亡くなった和美さんが天国で微笑んでる夢を今晩は見そうな気がするのは私だけであろうか・・・
是非、あなたの意見も聞かせて欲しいなと思う。
活字中毒日記

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紙の本

紙の本僕の明日を照らして

2010/02/26 20:09

2年ぶりの新刊は本当の“優しさ”とは何かを問う中学生隼太の成長物語。テーマはDVなのですが重苦しくなくってジーンと来て暖かな気持ちで本を閉じることが出来ます。平易な文章で最大限の感動を呼び起こす“瀬尾ワールド”、これがある限り寡作でもファンはずっと新刊の発売を待ち続けますよね。それにしてもいろんな愛情がありますよね、いい勉強となりました。

8人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

『僕は誰にも誓っていない。だけど、病める優ちゃんを誰よりもたくさん知っている。イエス・キリストは愛が大事だって言ってるし、きっとマザーテレサとかリンカーンとか、世の中のすごいって言われているような人も愛が全てだって言ってる。愛が尊いことなのは僕にだってわかる。愛がどういうものなのかはわからない。だけど、もし人を許すことが愛ならば、僕は優ちゃんを誰よりも愛している。アクエリアス1リットルで、トイレに直行してしまう器の小さい僕だけど、その容量の全てを使って、優ちゃんのどんなことでも許してしまえる。』
(本文より引用)

坪田譲治文学賞を受賞した『戸村飯店青春100連発』以来、約2年ぶりの待望の新刊。

従来の瀬尾さんの作品パターンは主人公の“再生”物語がメインだったのですが、前作は趣を変えて“成長”物語に変貌したのですね。
そして本作はもっと贅沢になり、主人公の隼太(中学2年生)の成長物語を見守りながらも隼太の母親の再婚相手であり隼太にとっては新しい父親である優ちゃんの“再生物語ともなっています。
いわば、1冊で瀬尾作品を2冊読んだ感覚にさせてくれる作品なのです。
わずか230ページあまりの中に読者に大きなメッセージを与えてくれる小説、滅多にお目にかかれません。

中学校教諭でもある瀬尾さんにしたら、主人公はまさに自分自身の教え子と同年代ですね。
ですから、本当に自分の生徒たちに読んでもらいたいという想いが文章に乗り移っている感じがします。
話の内容を少し紹介すれば、幼いころに父親と死別してずっと母親と二人暮らしで育った中2の隼太が主人公です。
母親のなぎさがずっとスナック経営のために晩にひとりで過ごすことを余儀なくされてきた隼太ですが、母親の再婚を機に再婚相手の優ちゃん(昼間は歯科医)と一緒に夜を過ごせるようになったのです。
けれども新しい父親である優ちゃんが普通ではないのですね、突如暴力を隼太に振るうのですね。
隼太はそれに耐えて、優ちゃんのDVを治そうと努力して行きます。
そうなんです、とっても健気な中学生なんですわ。

最初は夜のひとりぼっちの寂しさやあるいは母親に対する気づかいで我慢していたようにも取れるのですが、次第に隼太が成長してゆく過程で優ちゃんに対する愛情が芽生えて来るのですね。
その背景としていくつかの出来事が起こります。
先輩の靴を捨てた事件、あるいは数学の苦手な宮城さんに問題を教えたりもします。
でもなんと言っても関下との初恋(と言っていいのでしょうね)がもっとも大きかったのでしょうね。

中学生ぐらいの年代の時って体だけじゃなく心の成長というか変化も速いですよね。
隼太の優ちゃんに対するいたわりが増すにつれて、優ちゃんの隼太に対する接し方も変わってくるのですね。
読者の誰もが抱いていた最初イライラしていた優ちゃんに対する気持ちも徐々に緩和されます。

瀬尾さんの凄いところは次の点に尽きますね。
それは他の作家が描けば凄く重いテーマ(DV)をややもすればコミカルともとれる描写で書いている点ですね。

そしてエンディングですね、読者によってはそうじゃない方もいらっしゃったと思いますが、私にはほぼ予想通りでした。
これは読んでのお楽しみなのですが、暗く終わっているようで数年後の幸せを暗示するというか、瀬尾ファンならば誰しもがつかみ取ることの出来る最高のエンディングです。

最後は単行本の帯の言葉通り“切なさで胸がいっぱいになる。”ことができました。

本作を読めば否応なしに寛大な気持ちを持つことの大切さを再認識できます。
これだから瀬尾まいこのファンはやめれませんわ。

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紙の本

紙の本12星座の恋物語

2009/06/01 21:47

稀代の恋愛小説作家と占星術研究家の第一人者とのコラボレーション。角田さんの「彼と私の物語」24篇と鏡さんの納得のホロスコープガイド。これを読まずして恋愛は語れませんわ。一冊で恋愛小説プラスホロスコープの入門書を読んだ気分にさせられること請け合い。角田さんの見事な24通りの書き分け、プロの作家の真髄を見た気がします。是非あなたも堪能して下さいね。

9人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

初出 雑誌ミスティ。2006年10月新潮社より単行本として発売。

まるで夢のような贅沢な作品集である。
私にとっては記憶に残る一冊となった。

日頃、角田さんのことを“読者を選ばない作家”だと思っている。
彼女の素晴らしい点は肩肘張らずに書けているところ。

本作は占い雑誌に2年間連載された星座小説集。
ちなみに私自身、占星術自体まるっきり信じているわけじゃありません。
不安を抱いて読み始めたのであるが、全くの杞憂に終わった。
良いところだけを信じて楽観的に読むのがベターですわ。
逆に私は凄く達観して本作を読みました。
たとえ、欠点めいた彼(彼女)がいてもそれは占星術の占いのせいなんだと。

何年も作品を上梓出来ない作家、あるいは一年に一冊ぐらい上梓してもそんなに大した出来じゃない作家。
それに比べ年間3~4冊常に単行本を上梓し、アンソロジーにも常に顔を出している角田さん。
今や直木賞作家の称号だけでなく、国民的作家のひとりとして不動の地位を築いているといっても過言ではないのである。
この5~6年、常にコンスタントに高いクオリティの作品を楽しませてもらっている読者にとって、本作のような豪華なプレゼント的作品は本当に読むにあたって感激ひとしおである。

ここからは、本作の内容に簡単に触れますね。

総じて男性は血液型や星座に関しては無頓着である。
私も例外ではない。

だが、本作を読むにあたって自然と自分の星座(水瓶座)から読んでしまうのですね。
やはり信じる信じない別として、気にはなるのですね(笑)
そしてガーンと来たのは、水瓶座の男性編のニックネームである“風変りくん”
当たってるじゃないか、と思わずほくそ笑む私がいる。

そして次に昔付き合ったことのある女性の星座の女性編の部分を読む。
これもなんとなく当たっている。
そして昔の楽しかった想い出に馳せるのである。

もちろん、恋愛現在進行形の人が読めばもっと楽しめますね。

角田さんの恋愛小説は、他の人ほど思いつめてなく切なさ度も軽い。
本作も心地よく読め、本当に楽しいのである。
24人の個性豊かな男女を書き分ける筆力、これは本当に唸らされます。
そして、鏡さんのホロスコープガイド。
結構楽しめますよ。

角田さんの小説自体、ほとんど各編7~8ページで終わり方が本当に読者にその後を委ねるようなものに終始されている。
これが本当に巧みで、その後、鏡さんの解説で小説自体がよりくっきり浮かび上がってくる構造となっているのですね。

そして少し前述したが、各編の冒頭にそれぞれの特徴を示したニックネームが記されているのです。
たとえば牡羊座の彼(男性)は“トップくん”、牡羊座の私(女性)は“まっすぐちゃん”というように。

これがかなり的を射ていてニヤリとされたかたも多いでしょう。

なかには違った彼女(彼)を発見することもあります。
でも、いつのまにか許容している自分がいるんですね。
読後凄く寛大な気持ちになりますわ。
まるで角田さんの人柄が乗り移ったかのようです。

読者によっては若かりし頃の恋愛に想いを馳せるのも良いでしょう。
そして本作は角田さんと鏡さんが読者に贈る最高のビタミン剤なのですね。

角田さんの代表作は一般的には直木賞を受賞された『対岸の彼女』か『八日目の蝉』と言われている。
しかしながら、短編作家としての彼女の実力も折り紙付きであった。
本作はその“短編の名手”としての力量を遺憾なく発揮できていて、上記代表作に勝るとも劣らぬ出来だと思うのである。
大きな要因として鏡さんとの息がピッタリで、お互いがお互いの良いところを引き出し合っている所が自然と読み取れる点である。

それほど本作は心に残り、そしていつまでも手元に置いておきたい作品集だと言える。
たとえばお若い方が、彼氏(彼女)と喧嘩をした時にちょっと読み返して“ああ、こんな人もいるんだな”と胸をなでおろして、そして相手に向かって寛大な気持ちになって欲しいなと切に思ったりするのである。
そして相手の星座の鏡さんの解説を読んで、良いところを伸ばしてやって欲しいな。

なぜなら“恋愛するということは恋愛小説を読んで感動することよりもずっと素敵なことだからである”
“少しでも恋愛の手引となったら”
作者の想いを代弁したつもりである。

本作はワイングラスを片手にじっくりと何度も読みたい作品集である。
待望の文庫化でワンコインで買えます。
あなたも是非手に取ってくださいね。

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紙の本

紙の本チーム・バチスタの栄光

2006/10/02 06:29

このミス大賞の価値を上げた傑作。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

作者の海堂尊は現役医師。
素晴らしい新人の出現を心から歓迎したいと思う。
このミス大賞新設4回目、ご存知のようにベストセラーとなった第1回の『四日間の奇蹟』はインパクトがあったのであるが、第2回、第3回とややその賞新設の意図にそぐわなかったというイメージがつきまとっていたのである。
みなさんもこんな面白いミステリーがあったのかと驚愕してほしい。
チーム・バチスタとは心臓移植の代替手術の専門チーム、アメリカ帰りの桐生を中心に次々と手術を成功させていたチーム・バチスタ。奇跡のような成功が続いていたそんな中、三例続けての術中死が発生してその原因を探るために主人公の田口が任命されるのである。
通常“医療ミステリー”と言えば、一般的にはとっつきにくいというイメージがかなり浸透しているものだが、白鳥が読者をこの作品にどっぷりとエスコートしてくれつまらない先入観を取り払ってくれるのである。
奥田英朗氏の伊良部センセイを彷彿させる強烈キャラ。
医療の専門用語が出てきて多少なりとも難解なのも事実であるが、白鳥の人となりが和らいだ気分にさせてくれるから安心して本書を手に取ってほしい。
主人公の万年講師で不定愁訴外来担当の田口の視点はやはり、読者レベルの等身大の人物でこれも良い。
いや、主人公が田口だから白鳥が生かされたと捉えるのが正解なんだろう。
田口の無欲さと白鳥のハチャメチャキャラとが見事にバランスが取れているのだ。
無論、彼ら2人だけではない。
登場人物すべてが魅力的でキャラがたっている。
たとえばダンディなイメージの漂う天才外科医・桐生。
女性読者は桐生・鳴海義兄弟の愛情にうっとりされたかもしれない。
それも本作を読む楽しみのひとつである。
たまに批判的なご意見の方も見受けれるのであるが、何年・何十冊書いても本作の領域を超えれない作品・作家が星の数ほどあることを肝に銘じて欲しい。
本作の成功例はやはり、白鳥の超個性的な変人キャラが大きいのであるが、そこに作者の類まれなアイデアを知らされたつもりである。
それは医者としてでなく厚生労働省の人物として登場させている点。
もし田口が白鳥のキャラだったらもっとつまらない作品に落ち着いていたはずだ。
そこに作者の現役医師としての矜持を感じるのである。
ミステリーとしての意外性を期待されている方はちょっと肩透かしを喰らうかもしれない。
逆にひねりが少ないから物語全体がリアルに感じてしまうのである。
それよりも病院内の人間模様や医療界全体を感知すべく作品なのであろう。
ひとことで言えばバランスの取れたエンターテイメント作品と言えよう。
近年稀に見る傑作と言っても過言ではないであろう。
嬉しいことにまもなく続編が発売される。
続編を楽しみにされている方の数は計り知れないはずだ。
日頃ほとんど大きな病院に行く機会がない私である。
本作を読み終えて医者の人間らしさと威厳との両方を肌で感じ取った次第である。
健康に産んでくれた両親に感謝したい気持ちも湧いて出てきた。
命を粗末にしてはいけない。
作者の真に伝えたかったことはそういうことである。
曲解でも深読みでもないつもりである。
是非未読のあなたにも確かめて欲しいなと思うのである。
活字中毒日記

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紙の本

紙の本ミーナの行進

2006/06/28 03:51

2006年初夏、素晴らしい名作に出逢った。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

美しくて心が安らぐ小説である。
小川さんは本作で小説で描きえる最大限の懐かしさやあたたかさを読者に披露してくれている。
小川さんの上手さに舌を巻いた読者のひとりとして感想を書かせていただこう。
まず、さらっと内容を説明しよう。
時代は1972年、ちょうどミュンヘンオリンピックが行われた年。家庭の事情で母親が単身で東京に裁縫の勉強をしに行くために、芦屋の伯母の世話になる朋子は12歳で中学1年生。
伯母のうちは大金持ちで“フレッシー”なる清涼飲料水を製造する会社を経営している。
そこで1つ年下の従兄弟ミーナと出会う。ミーナは小柄で喘息もちで大の本好き、ドイツ人の祖母の血を引く大変な美少女である。
そこで過ごした一年間を過去を振り返る回想で語られている。
一見した所、典型的な裕福な家庭と一般家庭とのはざまで、いじめか何か勃発するのではないかと思われるかもしれないが、それは余計なお世話。
逆にミーナを筆頭に屋敷の大変良い人たちで読んでいてとても心地が良いんですね。
ドイツ人のローザおばあさんとお手伝いの米田さん。すごくナイスガイであるが家に居る事が少ない伯父さん。誤植を探す事が趣味のタバコと酒好きの伯母さんなど・・・
ああ、ひとりというか一匹忘れていました(汗)
コビトカバのポチ子である。ポチ子は一家の平和の象徴として扱われている存在。
タイトルとなっているミーナの行進は、実は喘息持ちのミーナが学校へ通う際にポチ子に乗って登校する様のことである。
ミーナはマッチ箱を集めている。マッチ箱の絵柄に一つ一つ物語をつける。その物語も作品内に紹介されていて、それぞれが素晴らしい。
この作品ほどイラストが効果的に散りばめられた作品も近年類を見ないだろう。
実際、イラストがなければこの作品は生まれなかったと思う。
読みどころに1972年という時代がある。例えば、『博士の愛した数式』だと阪神とか江夏とかが時代を示したが、今回はミュンヘンオリンピック。男子バレーボールチームに熱中するミーナと朋子。ミーナがセッター猫田のファン、朋子がアタッカー森田のファンという設定。
あと川端康成が自殺したりとか、あるいはジャコビニ流星雨など実際に起こった事件を通してリアルさを増している。
ミーナの兄の龍一が父親とぶつかるシーンも印象的である。
そのあと、大人の事情として素敵な伯父さんがめったに家に戻ってこないところを朋子が追跡するシーン、ドキドキしました。
タイトルの意味合いとは全然違うのであるが、ミーナが今も人生を行進している姿が目に浮かぶ。
まるで素晴らしき人生を読者に分け与えてくれるかのように感じられる。
心がすさんで来ている私には叱咤激励してくれる1冊であった。
小川さんの卓越した筆力の表れとして、作中、ずっとミーナの病気がどうなるのか気になりながら読まれた方が大半であるという事実があげられると思う。
読書の興趣が大きくそがれるのでここでは触れないが、少なくとも主人公朋子の人生の大きなバネとなった1年間であったと信じたい。
ミーナのマッチ箱集めにも関連するのであるが、乙女心が滲み出ている淡い恋心も印象的である。
たとえば身近に好きになる異性が朋子の場合は図書館のとっくりさんでミーナはフレッシー配達の青年である。
フレッシー配達の青年の話では、巧みに朋子がミーナを傷つけないように演出しているのが意地らしい。
読まれた方なら誰でもわかると思いますが途中で凄く悲しいことが起こります。
ミーナの行進が出来ない状態ですね。
ただ、凄いのはその悲しいことを支えにして飛躍して生きている姿が胸を打つのである。
最後にミーナが猫田選手に出した手紙を再読してみた。
思わず涙が出たがそれはまさに“希望”の涙である。

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紙の本

紙の本一瞬の光

2005/05/01 11:10

今からでも遅くない。未読の方は是非読んで欲しい傑作です。

7人中、7人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

本作の単行本が上梓されたのは2000年1月。
今までどうしてこの作品を手に取らなかったのだろう・・・
読後の率直な気持ちである。
このレビューを読み終えた方、後悔させませんので是非手にとって欲しいなと強く思う。
確かに性別によって感じ方・受け止め方が違うかもしれない。
たとえば男性が読めば“共感”できる小説、女性が読めば“感動”できる小説と言えるかな。
世に男性向けの恋愛小説って少ないが本作は狭義では“男性向けの恋愛小説”とも言えそうだ。
過去に『対岸の彼女』を“現代に生きる女性必読の書”と評した私である。
本作を性別問わずに“現代人必読の書”と評したく思う。
女性読者からの主人公の生き方についての率直な御意見を聞きたいなと思う。
主人公は日本を背負って立つ企業の人事課長の橋田浩介38才。
外見も良く東大卒の高学歴、高収入で女にももてる。
3拍子揃った理想的な人物である。
一見、順風満帆に見える彼にも苦悩があるのである。
そこで2人の彼をとりまく女性の登場である。
20歳の短大生で心に病みを持ち続けている香折と、浩介の社長の姪である恋人の瑠衣。
彼女たちが意図的であるかどうかは別問題として、まさしく対照的な方法で主人公に“人を愛することの尊さ”を教え変えていくのである。
『浩さん、人の世話ばかりしていると自分の幸せ逃しちゃうよ。たまには思い切り他人に頼ったり甘えた方がいいって、いつも浩さんが私に言うことじゃない。なのに浩さんは、絶対、絶対誰にも頼らないでしょ。そんなの矛盾してるよ。きっと瑠衣さんにだって甘えてあげてないでしょう』
途中で仕事面において窮地に立たされる主人公。
企業の非情さと瑠衣の献身的な愛情が印象的だ。
白石さんは“渾沌とした今”を描ける貴重な作家である。
“人間”をというより“生き方”を描くのが巧みだ。
エンターテイメント性は弱いかもしれないが、読者に正しい生き方の道しるべを提示してくれる。
『日頃私たちって“打算”や“保身”という言葉にこだわりすぎていないだろうか?』白石さんの熱きメッセージだと代弁したい。
恋愛面にのみスポットを当てていたが本作は特に前半部分であるが企業小説的な要素も強いことを忘れてはならない。
賄賂・家庭内暴力・出世競争・企業内での派閥戦争もリアルに描かれている。
きっと男性が読まれたら“働く意義”をもういちど考え直せれるだろう。
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男性読者として主人公浩介に対して共感出来る部分は多い。
後半、会社を辞めて“人間らしさ”を取り戻していく過程が圧巻である。
彼は働きづめできっとゆっくりと本を読む時間もなかったのであろう。
彼が心を癒され真の愛情に目覚めていくシーンがいつまでも脳裡に焼き付いて離れない。
最後に彼が選択したこと=彼の幸せなのであると強く信じて本を閉じた・・・
活字中毒日記

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紙の本

紙の本誰かが足りない

2011/11/04 22:44

自分自身の“ハライ”を見つけるために手元において何回も読み返したい作品。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

地方の駅前のロータリーにあるれんが造りの古い一軒家の人気のレストラン“ハライ”にくしくも同じ日の同じ時間に予約したお客さん6人のそれぞれの来店にいたるまでのエピソードを描いた連作短編集。 思わず自分も7人目のお客さんとして行きたくなるのですが、作者は過去を振り返りつつも未来の重要性を教えてくれます。 レストランって言えばお洒落なイメージなのですが、内容的には総じて少し重いですね。一冊読み終えて最後に心が軽く前向きな気持ちになれます。特に「予約2」は秀逸。

初出 “小説推理”を大幅な加筆・修正。
宮下さんの最新刊です。これでコンプリートですね。
個人的には『よろこびの歌』と同じぐらいベストの評価をしたく思います。

この作品は読み終わって幸せな気分に浸れる小説ですね。
まあ宮下さんの作品すべてがそうと言っても過言ではないのですが、まず「予約1」から「予約6」まで 本当にバラエティに富んだ主人公が登場します。
中には風変わりな人も登場します、たとえばビデオを撮っていないと部屋の外に出られない青年や、人の失敗の匂いを感じてしまう女性など。
身近に同じような悩みの人を見つけることができれば共感度が強いですね。
私が最も感動した「予約2」の認知症の老女の話なんかは結構リアルです。
帯に書かれている“足りないことを哀しまないで、足りないことで充たされてみる。”という言葉がジーンと来ます。
いつも死んだ夫が身近にいるのですね。そしてまわりの家族との距離感が絶妙に描かれています。

各話、それぞれの事情で悩んでいる人物に出くわし、読者は知らぬ間に共感して行きます。
やはり“ハライ”という名の店のもたらす役割が非常に重要です。
ハライという店は、いわば各話の登場人物たちの“心の支え”でもあり“最終目的地”でもあるわけです。
そして読み進めるうちに次の話はどういう風に着地点をつけてくれるか、安心して作者に身を委ねてしまうのですね。
ラストの爽快感は青春小説の傑作である『よろこびの歌』に負けるとも劣らずのものでこれは読んでのお楽しみということにしときましょうか。
読んでいる時点では前述した“心の支え”そして“最終目的地”であるハライも、読み終えた時には“新たな幸せへのスタート地点”でもあります。
そして読者はおのずと自分自身の身近に“ハライ”のような店を探してしまいます。

そして少し付け加えると、本作は手元において何回も読み返したい作品です。
他の宮下作品以上に本作は2回目あるいは3回目読んでみてもその素晴らしさが薄れないと思います。
なぜなら、最後に次からは6組のお客さんがどのようにハライに集結しているかを初読以上にじっくりと見守りながら読めるからです。
これってかなり幸せで充実した読書時間を満喫できそうです。

逆に時間のないときやちょっと落ち込んだりした時は任意に1つの物語だけでも読んでみてもいいかもしれません。
そうしたら自分の荒んでいた心がすっと落ち着くと思います。

最後に本当に偶然ですが、この作品10月31日に読み終えました。
プロローグをもういちど読み返しました。
ちょうど7人目のお客さんになれた気分で最高の読後感を得ることができました。
さて誰とハライに行こうか(笑)、自分の行きつけの店を架空“ハライ”とみなしてます、いつのまにか。
まるで作者に幸せをお裾分けされた気分です。

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紙の本

<女子高生達のひたむきな物語。それぞれの視点でそれぞれの物語が語られますが、自分がどの子に似ているかを想像しながら読める女性読者に嫉妬の気持ちを持って読む進めた男性読者です(笑)若いって本当に希望があっていいですね。いつまでも前向きな気持ちを忘れずに本を閉じれました。作者に感謝ですね。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

“世界は六十八億の人数分あって、それと同時に、ひとつしかない。いくら現実逃避したところで、ここで私は生きていくのだ。こんな小さな街にも、クラスメイトたちが住み、先生が住み、そして学校とは関係のない人がそれよりもたくさん住んでいる。ピアノがほしくても与えられなかった子も、ヴァイオリニストを母に持つ傲慢な娘も、ここで生きている。ここで私は生きていくのだ。専門的な勉強をしていなければ通じないのなら、誰のための音楽だろう。”(本文より引用)

初出“月刊ジェイ・ノベル”を加筆・修正。

お気に入りの宮下さんの昨秋発売された作品。
まだ単行本4冊しか上梓していない宮下さんですが、個人的には本作が一番心に響き、そして心に残る一冊となりました。
構成・内容ともに素晴らしいですね。

この人の作品の特徴は、温かい眼差しで読者の背中を押してくれるところだと信じて疑わないのですが、本作では作者の特徴が一番発揮出来ているように思えるのである。

本作は平凡な女子高(私立明泉高等学校)の2年生のクラスメイトが描かれています。
全7編からなる連作短編集で最初と最後が御木本玲という、親が著名なヴァイオリニストで、娘である玲が音大の付属高校を不合格になって明泉高校に入学するところから始まります。
夢が途絶えられて、落ち込み気味で入学してきた玲ですが合唱というチームでなし得る行事によって心を開いていくのですね。

とりわけ、高校生ぐらいの多感な年代の頃って隣の芝生は青く見えがちですよね。
本作が成功している大きな要因は、各編ごとに視点が変わっているところですね。

上述した“隣の芝生は青く見える”ところが読者である私たちに本当によく理解できます。
これはあたかも、私たちがそれぞれの編の主人公に乗り移ったかのように感じられるのですね。
それぞれの個性的な人たちが持っている、それぞれの悩みがリアルで思わず誰もが持っている“心の中の膿”を出したい衝動が本当によくわかるのですね。

この作品を読んでいて、誰もが似たようなことで悩んでいるということを理解しつつ、そしてあの人にもこんな悩みがあったのだと思わず納得し、そして時にはニンマリさせられてしまいますよね。
それぞれの悩みは、希望がありそして夢へと繋がる悩みなのですね。
悩みことによって心の成長を得ることができますよね。
“人生失敗を恐れてちゃ何も出来ない。”
作者の一番訴えたいところはこの点だと私は思います。

そして、一見したところ、本作の主人公は御木本玲ひとり、あるいは玲を含む6人のいずれかと思うのかもしれないが、私の観点は違っている。

そうなんです、主人公は性別・年齢を超えた読者である私たちなのですね。
本文では7人目の傍観者(笑)として参加している形ですが、読み終えたあと登場人物から主人公をバトンタッチされたような錯覚に陥るのですね。
これは本当に宮下マジックで、他の作家の作品ではそう簡単には味わえません。

最後に全7編、本当に調和良く作られています。
自分の学生時代に本作のような作品に出会えてたらとつくづく思います。
あなたも是非手にとって口ずさむような感覚で読んでほしいですね。
高校2年の3月で本作は幕を閉じます。
あと1年の高校生活を有意義に過ごせることを希望しつつ本を閉じる。
惜しみつつもそして気づくのである、自分自身の前向きな気持ちに。

そう、自分を変えなくちゃ、相手も変わらないのですね。
大切なことを学びとれ、いつまでも心に残る一冊です。

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紙の本

紙の本神の子どもたちはみな踊る

2010/02/05 21:28

阪神大震災から15年、節目に読むことによってより感慨深いクオリティの高い作品集だと言えそうです。切ない話ばかりですが、読み終えるとなぜか勇気を少し分けて貰った気がするところが素敵なのでしょう。全6篇でどれもいいのですがなんといっても「蜂蜜パイ」が秀逸。ラストに持ってきたところが心憎くいです。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

阪神大震災を題材というか間接的なテーマとした短篇集。
1995年という年は阪神大震災と地下鉄サリン事件の両方が勃発します。戦後の日本の歴史を変えたといっても過言ではない1995年。
今年で15年となりますが、この作品は読者にとってはまるで阪神大震災のようにいつまでも記憶に残る作品集だと言えそう。

そしてこの作品集は日本という国が決して安全ではないという警告を促しているのですね。

それは何も震災の当事者だけではありません、なぜなら作品に出てくる地域は神戸以外の地域ばかりなのですから。

全6篇からなりますが、それぞれの構成及び内容が素晴らしいと思います。
まずは妻が震災後家出をする「UFOが釧路に降りる」からラストの「蜂蜜パイ」まで。
それぞれ悩みを持った人たちが闇に包まれる生活を送っています。
読者は1篇1篇読み進めるごとに救いを見出すことができるのですね。

とりわけラストの2篇は強い救いが感じられ、明るい光明が差している印象が強く感じられました。
かえるくんやくまきちは読者に希望と勇気、そして感動を与えずにいられません。
それ以外の他の篇もすべて素晴らしく読者によって好みは分かれそうですが。

なかなか村上さんの描く世界を言葉で表すのは困難なのですが、どうなんだろう、手元に置いていつでも読み返せるような状態にしておきたい作品ですね。
読めば読むほど味わい深いものだと思われます。
読み終えた後におぼろげながら“全体像”を感じ取ることが出来るのですが、繰り返し読むことによってよりくっきりすることだと思います。
だから私の感想も初読時の感想ということでご容赦くださいね(笑)
本作を読む限りの村上さんの特徴として強く感じたところを書きます。

やはり誰もが持っている寂しさを認識しつつ、希望を読者に見出す指針を与えてくれるところでしょうか。
その希望の大きさの大小は読者によって違うと思いますが。
読者としたらどうなんだろう、“なぜ自分は生きているのだろう”ということを再考せざるをえないのですね、否応なしに。
それは他の作家にはなかなか真似が出来ない芸当だと思います、次元が違うというかなんというか。

少し余談ですが、たくさん海外小説の話題が作中に出てきます。
たとえばほとんど英語圏の作品しか読んだことのない読者の私は作中のかえるくんの次のセリフに読書意欲を掻き立てられました(笑)
もし読んでいたらもっと村上ワールドを理解できていたのにという悔しさを噛みしめながら・・・


“ぼくが一人であいつに勝てる確率は、アンナ・カレーニナが驀進してくる機関車に勝てる確率より、少しましな程度でしょう。片桐さんは『アンナ・カレーニナ』はお読みになりましたか?”
 (「かえるくん、東京を救う」より引用)

人生、何事も勉強ですね(笑)

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紙の本

紙の本遠くの声に耳を澄ませて

2009/05/11 17:21

読む前に抱いていたイメージを良い意味で裏切ってくれた実力派作家の登場。その心地よさは万人受けするものだと信じています。愛情に溢れた読者の背中を押してくれる作品集。

6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

初出「旅」を加筆・修正。
12篇からなる短編集。連作というわけではないが少しずつ話の関連性があります。
その関連性が少しリラックスできますね、まあ読んでのお楽しみということで。

宮下奈都、初読みです。イメージというものは怖いですね。作者の名前だけで抱いていた若々しいイメージとは違っていた。
しかしながら老成した文章でもない。瑞々しいけど完成度も高い文章を堪能できる作品だと言えますわ。
なにより一字一字丁寧に書かれた文章という印象ですね。

ちょっと前後するが作者について簡単に紹介しますね。
1967年福井県生まれ。上智大学文学部卒。
2007年長編『スコーレNo.4』でデビュー。本作は2作目となる。

人生はまるで旅のようだ。

これは実際の旅(旅行)だけでなく、日常から離れること(想像上も含む)をも意味する。
私がこの作品から一番感じ取ったことですね。
主人公はまるで私たち読者の分身のような普通の人々。
OLに始まり、看護師、主婦、大学生、母親などなど。
まあお決まりのようにそれぞれが少しですが鬱屈した部分を持ち合わせてます。
その鬱屈した部分というのは、私たち読者と大同小異。
作者はまるで読者の胸の内を知ったかのように語りかけてくるのですね。

そして少し日常から離れてみることで、自分自身を振り返ったり出来ます。

日頃いろんなことに振り回されて生きている主人公たち。
でも読み進めるごとに作者はいろんな味付けを施すことによって、主人公達に変化を与えます。
その味付けは読者にとってはまるで“暖かい眼差し”にほかならないのですね。
そこがこの作品集の一番の心地よさであり、他の作家に負けない手腕なのでしょう。

まず最初の「アンデスの声」に度肝を抜かれた。
死に間際にわかる祖父の架空の旅先、遠い南米です。
そして祖父の生き方を肯定している作者に共感しない読者はいないであろう。
まず物語にどっぷりつかることを余儀なくされるのである。

全部素晴らしいのですが、一篇だけ選べと言われたら「白い足袋」かな。
田舎に帰って幼なじみの結婚のために足袋をはいて走るシーンはとっても印象的。
自分の足の裏も痛む感覚、忘れられませんわ。

本作を読み終え、この心地よさに浸れた短い時間を心から喜びたいなと思う。
再読する時は旅のお供に携えたいな。

そうだ、タイトル名の素晴らしさは読み終えたあとに実感できたことを最後に付け加えておきたい。
たまには遠くの街に住むあの人に想いを馳せるのもいいですね。

活字中毒日記

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