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鬼平犯科帳(十)
著者 池波正太郎
相模の彦十の様子がこのごろ何となくおかしい。むかしとった杵柄というやつかもしれぬ。いまはお上の御用ではたらく身ながら、人のこころの奥底には、おのれでさえわからぬ魔物が棲ん...
鬼平犯科帳(十)
鬼平犯科帳 新装版 10 (文春文庫)
商品説明
相模の彦十の様子がこのごろ何となくおかしい。むかしとった杵柄というやつかもしれぬ。いまはお上の御用ではたらく身ながら、人のこころの奥底には、おのれでさえわからぬ魔物が棲んでいるものだ。鬼の平蔵、自分でさえ、妻を捨てお上の御用を捨て、岡場所の女と駆け落ちをするかも知れぬ、という。彦十をみはる平蔵、密偵たちの活躍を描く「むかしなじみ」他、「犬神の権三」「蛙の長助」「追跡」「五月雨坊主」「消えた男」「お熊と茂平」の七篇を収録。
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紙の本
むかしなじみー『鬼平犯科帳(十)』所収
2007/08/11 18:58
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:よくきた - この投稿者のレビュー一覧を見る
むかしなじみ
盗賊改方の老密偵・相模の彦十は、威勢はいい
が情にもろい。むかしなじみの盗賊、網虫の久八
の内輪話にもらい泣きした。
久八は上方で女房をもった。しかし、盗人稼業
があり、何時までも女房のおきんとは暮らせな
い。四天王寺の、豊次郎という少し頭の足りない
男に、五両をつけて女房をやった。
十八年ぶりに大阪に戻ったところ、おきんは身
すぼらしい、垢くさいなりをしていた。聞けば、
せがれが一人いるという。そのせがれの豊吉は久
八の子で、あのとき、おきんは身籠っていた。
豊次郎は豊吉が久八の種と知りながら、育てて
くれた。豊次郎とせがれの豊吉は、共に労該(ろ
うがい)にかかり、小さい家の中で凧の骨のよう
にやせ衰え、枕を並べて寝込んでいた。貯えも使
い果たし、三人で首をくくるしか道がないところ
へ、久八が現われたというわけだった。
「こうなったら、恩義ある豊次郎どんのために、
ぜひとも、まとまった金をつかみてえと、おら
ぁ、江戸へやってきたのさ」と、久八は締めくく
った。
秋の気配がしのんできた役宅の庭に、葛(く
ず)の匂いも流れていただろうか。
平蔵の前に現われた彦十は、久八と会ったこと
を隠し、しょんぼり、おずおず、本所界隈で鳴ら
した江戸っ子らしくない。
平蔵は相手をチラッと見ただけで泥棒と見抜く
勘ばたらきをするから、彦十の胸中に異変が起こ
ったことが、直ぐにわかった。それから、昔馴染
み一味を捕縛するまでの平蔵の心づかいは、放蕩
無頼の生活を送っていた頃の仲間に対する、友情
の厚さであった。