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電子書籍
密約 物書同心居眠り紋蔵(三)
著者 佐藤雅美 (著)
長男長女も独立し、のどかに過ごす藤木紋蔵の家へ、近くの長屋に住むいたずら坊主の文吉が、遊びに来たまま居着いてしまった。どうしたものかと思っていたが、手習塾の席書会で、文吉...
密約 物書同心居眠り紋蔵(三)
密約 (講談社文庫 物書同心居眠り紋蔵)
商品説明
長男長女も独立し、のどかに過ごす藤木紋蔵の家へ、近くの長屋に住むいたずら坊主の文吉が、遊びに来たまま居着いてしまった。どうしたものかと思っていたが、手習塾の席書会で、文吉が書いた「へのへのもへじ」が大名家の詐欺事件の解決の手がかりに。いったい、文吉は厄介者か、福の神か。“窓際同心”痛快捕物帖!
目次
- 貰いっ子
- へのへのもへじ
- 女軍師
- 盗っ人宿の置き手紙
- お民の復讐
- 夜鷹の自訴
- 漆黒の闇
- 黒幕の黒幕
著者紹介
佐藤雅美 (著)
- 略歴
- 昭和16年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒。「大君の通貨」で新田次郎文学賞、「恵比寿屋喜兵衛手控え」で直木賞を受賞。ほかの著書に「わけあり師匠事の?末」など。
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紙の本
父の死に関わる密約が紋蔵の胸にもの悲しく迫る
2010/01/08 19:03
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
居眠り紋蔵シリーズ第三弾。
紋蔵の元に持ち込まれた本業とは違う依頼や問題を、紋蔵が直接解決したり、紋蔵が動くことによって結果的に解決したりなど、各話でそれぞれ読みごたえがある。
そして、この第三弾で新たな展開を見せる。
ある事件を追って知り合った島帰りの男から、紋蔵の父を知っていると聞かされる。
その男は、島で一緒になった浪人に、定廻りだった藤木紋蔵(現紋蔵の父)に世話になったと話すと、その浪人は『さるところの用心棒仲間が付け狙っているようだった』と言っていたと、紋蔵に話す。
今まで紋蔵の父は不慮の死となっていたが、ここで初めて、紋蔵の父が何者かに殺され、下手人も上がらなかったという展開がある。
各話の事件を追っている内に、父の死に関係している事柄がチラホラと現れ始め、やがて紋蔵は何者かに吹き矢で狙われてしまう。
そして紋蔵は一月の休暇を取り、父の死を追い始める。
読み終えたときは、う~んと唸りそうになったほどの展開を見せ、本書タイトルである「密約」の重みが増してくる。
今回は特に以前の事件で知り合った人間が他の話でも登場しながら重要な役割をし、話の面白みがより増している。
そして『居眠り』と何かと侮られがちな紋蔵の、定廻りだった父の血を引いてか、父の真相を突き止める手腕も見所。
ラストはちょっと切ない。
紙の本
犬の遠吠え
2011/03/01 19:24
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
> 悄然と口をつぐむと、声を絞りあげるような犬の遠吠えがして、それがいつまでも続いた。
この最後の一行に、南の同心藤木紋蔵の、これまでの人生と、これからの人生が、凝縮されている。
物語は、紋蔵の家に、文吉という八歳の男の子がころがりこんでくる話から始まる。少し前まで息子娘合わせて五人いたが、長女の稲は、吟味方与力蜂屋鉄五郎の息子で御家人になった鉄哉に嫁ぎ、長男の紋太郎は北の与力の養子になりして、残ったのは次女の麦と次男の紋次郎と三女の妙の三人。紋蔵と妻の里とは、少し寂しく感じていたところだった。だからちょうど居心地が良かったのだろう、文吉は相当ないたずら小僧だが、ごく自然に末っ子としておさまってしまった。
文吉の父遠藤庄助は、無礼討ちか殺人か紛らわしい事件で捕えられていた。例繰方の紋蔵は、御奉行の内与力の命令で、無礼討ちに関するレポートを提出し、事件を担当した臨時廻り同心から聴き取りをして再調査を行い、そのうえ、何も命令されたわけではないがボランティアで文吉を引き取った。そんな活躍の甲斐あって、御奉行が江戸城の吹上上聴で、遠藤庄助の事件をみごとに裁いて将軍からお褒めに預かった。
吹上上聴といえば、史実でも、遠山左衛門尉がみごとな裁きを見せて将軍のお褒めに預かったといい、また、その遠山の部下に、東條八太夫という、名与力がいたというのも、史料に残っている。もっとも、遠山の金さんが奉行になるのは天保年間で、その頃には、居眠り紋蔵はもう年老いて退職しているはずだ。
話が横にそれたが、庄助は死罪を免れて、遠島になる。彼が流人船に乗せられて江戸を離れる日、紋蔵は文吉の手を引いて見送りに行く。文吉と庄助とは、お互いに感情を殺して睨みあっていたが、後で、ひとりで、泣きじゃくる。
紋蔵はこのとき、文吉の本当の「父」になったのだと、私は思う。
そして、偶然に出会った、島帰りの源次から、紋蔵の少年時代に不慮の死を遂げた父が、実は謀殺されたらしいという情報を得た。
それからも紋蔵は、相変わらず、上司に無理難題を言いつけられたり、里の実家の親からも面倒事を頼まれたり、美人に弱い彼に浮気の絶好の機会が巡ってきたり、でも妻を裏切ることはできなかったり、偶然、盗人宿を見つけてしまったりと、よろずもめごと相談解決係みたいなことをしながら、父の死の真相を探り、黒幕をあぶりだそうと迫っていく。ことは、寛政年間の棄捐令や相対済し令で大損を蒙った札差たちや、そのときどさくさに紛れてどうやら甘い汁を吸ったらしい武家とも関わりがある。手がかりの糸が切れたりつながったり、また命を狙われたりもしながら、紋蔵はついに、黒幕の正体を突き止める。
紋蔵は剣の腕も立つ。黒幕は、隠居はしたが、いまだに富も権勢も握ったままだ。その家に出向き、正面切って問い詰め、父親がそうされたように、斬り殺して大川に投げ込もうとするが……。
漆黒の闇を潜って捉えたはずの黒幕には、更に黒幕がいた。
犬の遠吠え。
居眠り紋蔵が最も大切にしているもの、それは、流人船に乗せられる庄助を見送るために文吉の手を引いていった、その手に込めた思いなのだろう。その手は、里や、紋次郎や麦や妙の手とも、つながっている。そして、紋蔵の父が、弱きを助け、強きを挫き、頼られたり感謝されたりしていたように、紋蔵も、知恵と思い遣りとで、人々が不幸な境遇に落ちようとする時に、少しでも助けられる小役人として、生きる道を選んだのだろう。