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電子書籍
命みょうが 半次捕物控
著者 佐藤雅美 (著)
薬師様の門前で、町娘の尻をさわったとして番屋に連れ込まれた田舎侍。身元を明かさず、10日間だんまりを続ける男の身柄を半次が預かり、調べをはじめる。蟋蟀小三郎と名乗る、この...
命みょうが 半次捕物控
命みょうが (講談社文庫 半次捕物控)
商品説明
薬師様の門前で、町娘の尻をさわったとして番屋に連れ込まれた田舎侍。身元を明かさず、10日間だんまりを続ける男の身柄を半次が預かり、調べをはじめる。蟋蟀小三郎と名乗る、このめっぽう腕の立つ不遜な男は疫病神なのか。町娘の事件解決後も、小三郎の謎に迫る半次の身に、厄介事が次々と降りかかる。
目次
- 第一話 蟋蟀小三郎の新手
- 第二話 博多の帯
- 第三話 斬り落とされた腕
- 第四話 関東の連れション
- 第五話 命みょうが
- 第六話 用人山川頼母の陰謀
- 第七話 朧月夜血塗骨董
- 第八話 世は太平、事もなし
著者紹介
佐藤雅美 (著)
- 略歴
- 昭和16年兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒。「大君の通貨」で新田次郎文学賞、「恵比寿屋喜兵衛手控え」で直木賞を受賞。ほかの著書に「わけあり師匠事の?末」など。
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紙の本
性格はルパン三世で剣の腕は五右衛門の男
2011/07/06 13:58
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:saihikarunogo - この投稿者のレビュー一覧を見る
>「蟋蟀小三郎。我が一族はみんな蟋蟀と名乗っておる。田舎にいけば一帯は蟋蟀姓ばかりだ」
うーむ、『聊斎志異』には蝗の一族が出てきて人間に婿入りしようとしたり嫁入りしようとしたりする話があるが、まさか、この男も……?!
>まるで能楽師が能を舞っているようだった。いや、蝶々が花から花へ舞っているといったらいいのか。壁にへばりついていた蟋蟀小三郎が八人の男の間を擦り抜け、擦り抜けるたびに、一人、また一人と倒れて行く。刀を振りまわしてはいない。脇差で鳩尾を突いてまわっているのだ。
蝶のように舞い、蜂のように刺す、と言われたボクサーがいたが、江戸では蟋蟀が舞い、突くのか。
>「蟋蟀さんはなにも言い返さず、すっと片膝を立てた。と、佐七の首がスパッと胴から離れ、三尺くらい舞いあがって、転がりもせずにすとんと土間に。まるで首をそっとおいたように」
きゃ~~~~っ!
こうやって、蟋蟀小三郎な何度も半次の危機を救ってくれた。なのに、半次は、蟋蟀小三郎を疫病神だという。最初に出会った時は大番屋に留め置かれていて何日も入浴も散発もせず、むさいことこのうえなく、本人は悠々としていて取り調べで黙秘を続け、それは実は捕われる前はホームレスだったのでそのときに比べればずっとましだったからなのだが、半次のもとにひきとられて居候してからも別に長屋を借りてもらってからも、まるで当然のように三度三度の食事をたかり、半次は下戸だが彼の愛妻の志摩はいける口なので、小三郎が晩酌につきあって仲良くし、半次の留守でも平気であがりこみ、猫撫で声で
「志摩殿」「志摩殿」
と呼びかける。まるで、ルパン三世の「富~士子ちゃ~ん」みたいだ。
蟋蟀小三郎は半次についてまわって金儲けのタネになりそうだと思うと頼まれもしないのに用心棒や敵討ちを引き受け、次々と騒ぎを起こす。女好きで志摩の他にもあちこち手を出し、実はなかなかのハンサムなのにくだらん駄洒落を連発したりへたな三味線を得々と弾き鳴らしたりするので女性たちからもあきれられ、さる事件で誤解されて怨みを買って若い女性から刃物を突き立てられても、かすり傷だと気にもせずに彼女の手を優しく撫でたりして、ニクい男。
佐藤雅美の数あるシリーズもののなかでも、最も愉快痛快厚顔無恥なキャラクター、蟋蟀小三郎の登場で、『半次捕物控』はユーモア度No.1になった。
蟋蟀小三郎は、どんなにずうずうしくとも、たとえば『物書き同心居眠り紋蔵』の『伝六と鰻切手』に出てきた伝六みたいな、気持ちのわるいずうずうしさはない。伝六みたいな人物は何人か佐藤雅美の作品に出てくるが、彼らは命にかかわるほどの大仕事を小説の主人公に押し付けて、主人公が苦労していても知らん顔、どこまでも人に善意の協力を強要して恥じるところがない。
だが、蟋蟀小三郎は、最終的な危険を我が身一つで引き受けることを当然としている。そこが気持ちいい。ただ、それがあまりにも自然で、潔いのに潔いという言葉が似合わないと感じさせるほど世俗の欲にまみれていて、食欲と色欲を臆面もなく追及し、まわりの人間はあいつがいると迷惑だ、なんとかして息の根を止めてしまえ、とやっきになるが、本人は飄々と降りかかる災難を交わしていく。かっこいい!おもしろい!私は蟋蟀小三郎の大ファンになった!