- 販売開始日: 2013/11/01
- 出版社: 新潮社
- ISBN:978-4-10-116809-8
珍訳聖書
著者 井上ひさし (著)
花の浅草ドッグ座の犬芝居、人気ストリッパーのマリアの発作は何と狂犬病。弟の刑事犬も、医学博士犬も真っ青で感染経路の大捜査が始まった。ところが実はこの芝居、南方帰還兵が仕組...
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商品説明
花の浅草ドッグ座の犬芝居、人気ストリッパーのマリアの発作は何と狂犬病。弟の刑事犬も、医学博士犬も真っ青で感染経路の大捜査が始まった。ところが実はこの芝居、南方帰還兵が仕組んだ恐怖の復讐劇だったのでありました。と思ったら、またまた逆転、実は……。エロと笑いと風刺満載の逆転につぐ大逆転劇。この世の真実はどこにある。浅草の救世主はどこにいる。
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井上ひさし全著作レヴュー 6
2010/07/29 17:43
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:稲葉 芳明 - この投稿者のレビュー一覧を見る
書下ろし新潮劇場として刊行。初演は73年3月~4月、テアトル・エコーが上演。
『表裏源内蛙合戦』『道元の冒険』『藪原検校』に始まって遺作『組曲虐殺』に至るまでの「評伝劇」が井上戯曲の太く大きな「主流」だとすると、『日本人のへそ』や『天保十二年のシェイクスピア』を典型とする、言葉遊びを目一杯詰め込んだ猥雑でエネルギッシュで趣向満載の芝居は、「評伝劇」と肩を並べるもう一つの大きな「支流」、というか、井上芝居という一枚のコインの片面である。
本作が何より空前絶後の芝居となっているのは、どんでん返しに次ぐどんでん返しが仕掛けられているからなのだが――(以下ネタバレ注意!)
まず、「浅草ドッグ座で踊っているストリッパー犬の物語」が始まる。主人公犬の一人マリア犬櫛が狂犬病にかかったことが判明したので、この状況と伝染具合を調べていく・・・これが話の大筋である。ところがこの物語は、「元陸軍一等兵が人質を監禁して、人質に演じさせた芝居」であることが判明し、この復讐劇も実は「浅草ラック座の特別ショー」であることが分かる。ところがこの特別ショーは「浅草警察署の検証劇」であり、その検証劇は「全国警察演劇コンクールのお芝居」、そしてそのお芝居もまた元新劇役者の自作自演の「ショー」であった――。
(ネタバレ終わり)。
つまり、どんでん返しは5度起こり、劇全体が六重の入れ子構造になっているわけである。これだけでももう眼も眩むような「趣向」であるが、その中に盛り込まれた下ネタ、言葉遊び、ギャグ、体制批判等々は過剰かつ奔放で、当時の井上ひさしに漲っていた旺盛な創作エネルギーに観客(読者)は終始眩惑され、かつ圧倒される。
しかも、このカオスを締めくくる結末は何とキリスト受難劇の変奏であり、此処に至って観客(読者)は題名に込められた真意に初めて気づく(DOG→GOD)。重い「テーマ」と狂騒的「遊び」をいとも容易く共棲させた井上ひさしの力技(tour de force)には、ただ脱帽するしかない。