電子書籍
文芸にあらわれた日本の近代
著者 猪木武徳
夏目漱石、谷崎潤一郎、小林多喜二、太宰治、三島由紀夫ら計10編の文芸作品を素材に、時代の「良質な観察者」としての文人が描く人々の生活の内面を、ストーリーの流れの中から読み...
文芸にあらわれた日本の近代
文芸にあらわれた日本の近代:社会科学と文学のあいだ
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文芸にあらわれた日本の近代 社会科学と文学のあいだ
商品説明
夏目漱石、谷崎潤一郎、小林多喜二、太宰治、三島由紀夫ら計10編の文芸作品を素材に、時代の「良質な観察者」としての文人が描く人々の生活の内面を、ストーリーの流れの中から読み解く。労働経済学、経済思想を専攻する博学多才な著者の練達の筆が冴えわたる渾身作。【第8回桑原武夫学芸賞受賞】
目次
- 序 章 モデルとストーリーのあいだ
- 第1章 自然・伝統・産業化:武田泰淳『鶴のドン・キホーテ』
- 第2章 恋と革命:太宰治『斜陽』
- 第3章 父性の敗北:三島由紀夫『絹と明察』
- 第4章 日米関係悪化の中で:永井荷風『あめりか物語』
- 第5章 デモクラシーの行方:谷崎潤一郎『痴人の愛』
- 第6章 グローバリゼーションと反帝運動:横光利一『上海』
- 第7章 急成長と過当競争の歪み:小林多喜二『蟹工船』
- 第8章 独立した合理的な個人?:大岡昇平『野火』
- 第9章 歴史と偶然性:山田風太郎『戦中派不戦日記』
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紙の本
文学が語る「社会」
2005/07/06 13:00
5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:メル - この投稿者のレビュー一覧を見る
副題の「社会科学と文学のあいだ」という点に引っかかって読み始めてみた。文学プロパーの私からすると、これは「邪道だ!」という思いがしてならない。しかし、読んでみると意外な発見があるのかもしれないという期待もある。
本書は、一人の社会科学の研究者が文学作品をどのように読んだのか、という本だ。文学作品の時代背景やモデルを論じる。著者は、本書で用いた方法をつぎのように説明する。
《本書で私が用いたのは、文学作品そのものを用いて、時代の「良質な観察者」としての文人が描く人々の生活の内面的な部分を、ストーリーの流れの中から読み取るという手法である。(p.10)》
ここの「良質な観察者」というのは、たとえば本文中では山田風太郎の『戦中派不戦日記』について論じている時に出てきている。曰く、「最良の文学者」は「最良の「傍観者」」であったと。
本書で対象となる文学は何か。著者は、まず「歴史と文学とを渾然一体化させてしまった」といういわゆる「歴史小説」を外す。もう一つは、いわゆる「経済小説」「企業小説」といった類の作品も外している。というのも、経済小説などは、「経済社会」や「社会の内実」を強く意識して取り上げてしまうからだという。著者は、「経済社会」や「社会の内実」を描くことが目的ではないのに、知らず知らずのうちに「人々の内面的生活と社会の全体的雰囲気」を語っている作品に関心が向く。というわけで、本書ではいわゆる「純文学」と呼ばれる小説が取り上げられる。論じられた作品は以下の通りだ。
武田泰淳『鶴のドン・キホーテ』、太宰治『斜陽』、三島由紀夫『絹と明察』、永井荷風『あめりか物語』、谷崎潤一郎『痴人の愛』、横光利一『上海』、小林多喜二『蟹工船』、大岡昇平『野火』、山田風太郎『戦中派不戦日記』、夏目漱石『文芸の哲学的基礎』
著者の言うとおり、本書は文学作品そのものを読み込むのではなく、作品中に登場する出来事や人物を取り上げ、それらを基に日本の近代社会を論じている。文学作品より、その背景となる時代や社会を論じることにウェイトが置かれていた。この論じ方が悪いとは言わないが、文学作品に関心を持つ私にとって、文学作品の読解には物足りなさを感じてしまう。しかし、作品のモデル、あるいは時代背景や歴史などの知識を得るにはちょうど良い本だと思う。
電子書籍
あまり読んだことないタイプ
2020/02/21 17:24
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は経済学者ということもあり、専門の文学者ではない。しかし専門家しか文学をかたってはいけないということはない。私が読んだ限りでは、今まであまり読んだことのないタイプの本。
タイトルにあるように文芸にあらわれた近代を取り扱っているいるが、通史的ではなく、いくつか作品を選び、そこから読み込んでいく感じ。
大岡昇平の項にある、人間の行動が完全に合理的ではなく、むしろ合理的という枠に当てはめようとしていると言う指摘は慧眼だと思った。