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電子書籍
新装版 風果つる街
著者 夢枕 獏
その老人はみごとな銀髪をしていた。その瞳は異様な光を帯び、ノラ犬を思わせた。加倉文吉、人はその男のことを「真剣師」を呼ぶ。賭け将棋のみで生活をしているもののことである。旅...
新装版 風果つる街
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風果つる街 新装版 (角川文庫)
商品説明
その老人はみごとな銀髪をしていた。その瞳は異様な光を帯び、ノラ犬を思わせた。加倉文吉、人はその男のことを「真剣師」を呼ぶ。賭け将棋のみで生活をしているもののことである。旅から旅へ、俗世間のしがらみをすべて断ち切って、ただただ強い相手を求めて文吉は生きる。夢を諦めて師匠の妻と駆け落ちした男、父の敵を追い求める女、プロ棋士になり損ねた天才……。将棋に取り憑かれた男と女。その凄絶かつ濃密な闘いを描ききった連作集。★
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紙の本
敗れざるもの−頭脳の格闘技の魔力
2003/12/13 20:47
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投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
将棋の裏街道、というのがある、いや、あった。賭け将棋で生計を立てる、真剣師と呼ばれる男達の世界。日本将棋連盟のトーナメントプロではない、野に生きる将棋指しだ。バイオレンス、伝奇などの作者のベストセラー作品とは毛色が違うが、これもまた男の一つの生きざま。
この情報化社会では、将棋でも強い人間の名はすぐに知れ渡る。自分より強いと分かってる人間を相手に金を賭ける奴はいない。すなわち真剣師にとって現代はすこぶる生きにくい時代。主人公の加倉文吉もご多分に漏れず、今や貧乏どころか野宿もしばしばの風来坊、よれよれのこ汚いジイさん。
阿佐田哲也の無頼小説みたいなんだけど、なぜか麻雀と将棋だと少し趣きが違う。
将棋は運や確率の入り込む余地のない完全情報ゲームであり、強い者が勝つ。必ず勝つ。勝負であり、アート(技芸)であり、知力と人格をかけて力と力のぶつかりあうゲーム。運は関係しないが心理戦はある。まがりなりにも賭け将棋で食っていけるのは、強いから。それもとんでもなく強い。将棋も精神力も。
文吉がトーナメントプロにならなかった理由は不明だが、とにもかくにも将棋で生きて来れた。おそらく少年時代は超天才として、将来を嘱望されていたのだろう。そしてその道をまっすぐに進んで実力をつけながら、今はよれよれの風来坊。悲喜劇である。
文吉の出会う人物達も、それぞれの夢と挫折を抱えながらも、みんな似たような境遇。
天才にして同時に人生の敗残者。
むろん当人達は敗残者などと思っていない。自分の人生と能力には誇りを持っている。だがどこか悲しい。
破滅への道と知っていながら、将棋の魔力に取り憑かれた男達。
絵空事では無く、たとえば団鬼六描いたところの「真剣師小池重明」という実在の男が最近までいた。まさに破天荒な人生。なまじの才能があったら、自分だって似た道をたどったかもしれないと、男ならみんな思う。