紙の本
ファンの欲目
2015/08/21 03:24
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投稿者:タンポポ旦那 - この投稿者のレビュー一覧を見る
多様な作品で楽しませてくれる乾ルカにあって、無理やり分類すれば「密姫村」の系統か。北海道開拓期を背景とし、烏目・水守といった着想も面白い。ただ、この分野は乾ルカのファンとしては物足りなさも感じる。太田忠司の「月読」より読後感は良かったけれど。
「密姫」でも思ったが、恒川の「金色機械」に近い世界までも、あるいは本作で言えば例えは悪いが、今市子に抒情性をさらに足したような、と思うのはファンの欲だろうか。
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未練を残して死んだ者は鬼となり、井戸の水を赤く濁す。そのままでは水源は涸れ、村は滅んでしまう。鬼となった者の未練を解消し、常世に送れるのは、“ミツハの一族”と呼ばれる不思議な一族の「烏目役」と「水守」のみ。大正12年、黒々とした烏目を持つ、北海道帝国大学医学部に通う八尾清次郎に報せが届く。烏目役の従兄が死んだと。墓参りのため村に赴き、初めて水守の屋敷を訪ねた清次郎は、そこで美しい少女と出会う──。
過酷な運命を背負わされた二人と一族の姿を抒情豊かに描いた、清艶な連作ミステリ。
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東京創元社さんのイベントでフラゲした『ミツハの一族』。ぐいぐい引き込まれ、最後の章が衝撃でした…!
季節のあわい、時代のあわい、性別のあわいを描きつつのひとつひとつの物語の謎解きも、全体を覆う謎も味わい深く胸に沁みました。
帯にある「清艶」そのままの清らかで艶やかで切ない、死者のこの世の物への恋情、生者の生者への恋情。「知る」ことの喜びと四季の移ろいの抒情が恋情に色を添えています。そして読み始めで何より一番驚いたのは、帯にある「美しい少女」本文に「圧倒的な玲瓏」とある「水守」が実は…!という点。吃驚でした。
明るいところでなければ見えない「烏目」の烏目役と、暗いところでなければ見えない「むくろ目」の水守。その相容れなさを超えての想いが清らかでいて艶やか。最後、月光を淡くはね返す水守の濡れた唇も、3人がそれぞれに交わす「約束」も、切なく胸に残ります。
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大正末期。未だ開拓期の空気が色濃く残る北海道・札幌市近郊にある小村・小安辺村。かつて水源を失い、父祖の地である信州から村をあげて移住し、土地の開拓に励んだ人々が住まうこの村には、人々とともに持ち込まれた彼らの土着の信仰があった。
未練を残して死んだ者が鬼となり、村の水源にとらわれたときに井戸の水は赤く濁る。放置すれば水源は涸れ、村は滅ぶ。
鬼となった者の未練を解消し、常世に送るのは、「烏目役」と「水守」を代々生み出してきた“ミツハの一族”と呼ばれる不思議な一族の役目であった。
自身のもつ、暗がりで視力をなくす「烏目」を持つ一族の青年・清次郎は、一族に生まれる特異な目を神の力ではなく遺伝病の一つと考え、北海道帝国大学医学部に進学し眼科医を目指す。しかし彼のもとに当代の烏目役であった従兄の死を知らせる電報が届く。
しかも、従兄はこの世に未練を残し、鬼と化していた――。
因習と科学の発展のはざまで不思議な役目を担う一族の物語。文章が丁寧でありながら冗長でなく読みやすい。が、ミステリとしても怪異譚としても作り込みがあっさりしている。あっさりしているくらいがちょうど良いという人向け。あっさりしていて実は物語の中での登場人物は業も因縁も情も深く絡み合っているのだが、この作品の命題のひとつとしては、人はみな、そういうしがらみから解き放たれていかなければならない。という部分もあると感じるのでこれは狙った読後感なのかも。
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なんともいえないもの哀しい雰囲気が漂う作品。
烏目とむくろ目の二人が揃って初めて鬼となった死者を黄泉路へ誘う役目。
まるで第三者の視点から書かれたかのような淡々とした語り口がもの哀しさを増している。
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背負うものが大きな二人の行く末、暗く物悲しい物語ではありますが、結末が悲劇的ではなかったのではないでしょうか。
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初期の頃を思わせる乾さんらしい作品。とはいえ作風の幅広さは乾さんの魅力なのだが。しっとりとしてどこか物悲しいのだけれど、最後にはほの明るい。時代背景が作風に見事にマッチしている。
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大正の香り漂う美しい物語。
オカルト要素の絡むこういったお話は沢山あるけれど、烏目役に水を守るといった確固たる責任を負わせ、小安部の人々の生活を描いたことで、夢想的な香りばかりではなくなっている。
実際清次郎の想いは強くはっきりとしていて、確かに生きている人だという印象が強い。
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大正時代を舞台とした幻想的な連作ミステリ。水源を守るための使命を与えられた烏目役と水守の物語。
未練を残した死者が「鬼」となり、その未練を断ち切り黄泉路へ送る役目を持つ烏目役。仕方なくその役を引き受けたはずの清次郎は、水守のあまりの美しさに心奪われてしまう。その二人の交流がなんとも儚げで美しく、魅力的です。ずっと孤独に生きていた水守がさまざまな楽しみを知っていくさまも微笑ましくて暖かさを覚えます。
鬼の未練を探り断ち切るミステリ部分も読みごたえがあります。少し恐ろしげな部分もありつつ、哀しみと優しさが感じられる作風にしんみり。ラストにはほろりとさせられてしまいました。
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不思議な力を授けられた血筋に生まれてしまった宿命には抗えない。受け入れるしかないのだろう。
そんな力があるばっかりに、かたやは夜目がきき、かたやは薄暗くなると見えなくなるという両極端な特徴が。
凸と凹みたいに両極端なものが2つ揃うところに意味があるのか。
時代が変わり、考えも変わってくる。
不確かなものではなく確かなもので対処する時機が訪れる。
そうよ、そうなっていかなければならない時というのは、何事にもあるはず。
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大正時代。
北海道帝国大学医学部に籍をおく清次郎。彼は一族から烏目、と言われる目を持つ青年。
彼らの一族は信州から北海道にやってきた開拓民。なぜなら、それは水が涸れたから。
彼らの因習では、死人に妄執があれば、鬼となって水辺に立ち、放っておくなら水を涸らし、毒となす。
なので、鬼を見る役目を背負ったむくろ目を持つ「水守」と「烏目役」と呼ばれる者が鬼を常世へと送る。
鬼が水辺に立つと呼び出される清次郎。
最初は義務感から鬼を送るが、水守の少女の境遇を知るにつれて同情し、愛しく想うようになる。
閉ざされた環境から、少しでも自由を、と小学校の教科書を手に入れて教える清次郎。
彼は、最初に少女に約束していた。
「君の苦しみを、いつか必ず取り除く」と。
烏目役が青年で良かった、というのが率直な感想でした。
もしこれが、男女逆であったなら、女性は即決タイプが多いので、水守の目に包帯でも巻いて、
「私と一緒に逃げましょう!」ってなことになりかねないな、と。
そうなったらギャグだ…
烏目役が清次郎だったからこそ、清らかな物語になったなぁ〜、と思う。
静謐で、美しい小説でした。
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前世への未練を残したまま亡くなると鬼になり、水を枯らしてしまうといういわれのある村が舞台。
特殊な目を持って生まれついたことから、鬼をあの世へと送る役割を持った二人を中心に、耽美的な雰囲気のなか、物語は進んでいく。
謎を解きながら死者を送るいくつかのストーリーを重ねたあと、ラストは急展開となる。発想はおもしろく、好きな作風なのだが、この終わり方をするなら、最初から一貫してもっともっと妖しく倒錯した世界を極めて見せてほしかった。
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この世に未練を残して死ぬと鬼となり、井戸の水は赤く濁り、貴重な水源が涸れる。鬼を見る目を持つ水守が烏目役に鬼の姿を語り、烏目役は未練を断ち切り鬼を成仏させる。一族に伝わる目を持つ清次郎と水守の連作短編集。この世に残した未練が何なのか?どうすれば願いが叶うのか?解き明かしていくうちに心を通わす2人。だからこその最終話がとんでもなく切ない…ミステリーでもありながら、とても幻想的。良かった。とても良かった。
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未練を残して死んだ者は鬼となり、井戸の水を赤く濁す。
そのままでは水源は涸れ、村は滅んでしまう。鬼となった者の未練を解消し、常世に送れるのは、“ミツハの一族”と呼ばれる不思議な一族の「烏目役」と「水守」のみ。
舞台は、大正時代の北海道の開拓地。
当時は今より闇も深くて、「鬼」が出た、といわれても、そういうこともありそうだ、と思ってしまう。
きっと、独特な因習が残っている地域も実際にあったのでしょうね。
闇の中では目が見えない烏目と、
光の中では目が見えないむくろ目。
それらの目を持って生まれたがために、特別な存在である彼ら。それを、遺伝による目の病気なのでは、とますます眼科医になる意欲を高める清次郎の存在からもわかるように、時代がちょうど移り変わっていくのを肌で感じられました。
制限の多い時代から、前例に縛られることなく扉を開いて進んでいく勇気のある時代へ。
この物語のおもしろいところは、ミステリー仕立てにもなっているところ。
まずは、鬼が誰なのかを推理する。
そして、どんな未練があるのか、その未練を断ち切る方法を推理する。
死は誰にとっても平等に訪れるけれど、私は強い未練を残さずきちんと死ねるだろうか、なんて思考をふわふわ彷徨わせながら読みました。
そして、美しい水守の存在感が何よりも大きい。
知の光を手に入れたことで辛いこともあるだろうけど、それでも光を手に入れたことを幸せと想い続けてくれたらいいなと、祈るように思いました。
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読んでいてちっとも楽しくなかった。何に未練があるのか、どうしたら成仏できるのか、その理由も弱いというかすっきりしない。ラストは少し期待したが、やはり理由が弱い。