城の中の城(新潮文庫)
著者 倉橋由美子
英文学教授の山田信氏は、去年突然渡仏中にパリで洗礼を受けカトリック信者になった、と妻の桂子(30歳)さんに事後告白をした……。夫君の裏切りに、自尊心を傷つけられた桂子さん...
城の中の城(新潮文庫)
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商品説明
英文学教授の山田信氏は、去年突然渡仏中にパリで洗礼を受けカトリック信者になった、と妻の桂子(30歳)さんに事後告白をした……。夫君の裏切りに、自尊心を傷つけられた桂子さんは、二人の可愛い子供を思いながらも、棄教か離婚かを夫君にせまり、二人だけの宗教戦争がはじまった! 禁じられた愛や夫婦交換を、キリスト教を背景に描き、現代の知識人家庭を風刺する長編小説。
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人妻桂子さん、戦う
2008/12/05 23:12
3人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:SlowBird - この投稿者のレビュー一覧を見る
女子大生時代は周囲の学園紛争なぞどこ吹く風、楚々とした美少女ぶりで教授連のアイドルとしてあんなしてこんなした末に人妻の座に収まった桂子さん、というのが「夢の浮橋」のお話でした。それが今や二児の母となって、貫禄ある良妻賢母カッコ美形になりおおせているらしい。その桂子さんがこのたび実力を発揮するのは、夫の山田教授がヨーロッパ長期出張中にカトリックの洗礼を受けていたという大事件である。ここに至っては桂子さんも戦うより無いと決断する。何と戦うかって、それは、キリスト教とか、宗教とか、夫君とか、とにかく降りかかる理不尽なものや無粋なものすべてに対してである。
別に好戦的な人物と言うのではないし、世間的に孤立しているとか、孤高の存在というわけでなく、平穏で心安らぐ生活を守るために、戦わざるを得ないのだ。少なくとも自分ではそう思っている。ただ生活空間にちょっと厭なものが入り込んで来たら、排除しようと考えるのは、実にまっとうな肌感覚といっていいだろう。桂子さんが戦おうとしているのは、侵入者そのものよりも、もしかするとそういう日常の破壊者を無気力に受け入れてしまっては、恨みを内側に封じ込めてしまうような風土そのものなのかもしれない。ファイティングポーズを取るその時点で、戦いの意義の相当部分は満たされているとも見える。つまり絵になるってことですよ。
すると女子大生時代の桂子さんも、その戦う姿勢にこそ魅力があったのだろう。吹き荒れた左翼イデオロギーとか、ナントカの解放とかシュギとか、保守反動といった、時代を闊歩せんとするあらゆるものに対してその敵視は向けられていたわけ。そういう自分の生活圏への侵入を窺うあらゆるキモチワルイものを排除しようとするのは、健全な肌感覚だろう。それが新鮮に感じられるほど、僕らの日常は膿んでおり、侵入者に対して無気力に容認するだけの凡庸に我慢がならないのが桂子さんなのかもしれない。
発端の出来事に加えて、夫を導いた女料理人や、結婚前のボーイフレンド夫妻、媒酌人をしていただいた先生やその知人、謎の山荘の持主など、しかし桂子さんの日常にはいよいよ怪しげな人物が交錯してくる。それらを包み込む折々の風景には、皆さんお気に入りの漢詩が添えられて興趣を煽る。もうそうなると、戦っているのだか、ゆらゆらと揺れながら暮らすアクセントに過ぎないのかさえ怪しいものだ。桂子さん自身も闖入者達以上に濡れて柔らかい触手を這わせて、周囲を侵し喰らっている様子。もう髄まで抜かれたい。