- カテゴリ:一般
- 販売開始日: 2016/06/09
- 出版社: 学研
- ISBN:978-4-05-406123-1
昭和維新
著者 田中健之
浜口首相狙撃事件、血盟団事件、五・一五事件、永田鉄山斬殺事件、二・二六事件…。昭和戦前期、“尊王倒奸”を掲げた事件が連続的に起こった。彼らは何を目指し、なぜ挫折したのか。...
昭和維新
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商品説明
浜口首相狙撃事件、血盟団事件、五・一五事件、永田鉄山斬殺事件、二・二六事件…。昭和戦前期、“尊王倒奸”を掲げた事件が連続的に起こった。彼らは何を目指し、なぜ挫折したのか。日本を震撼させた「昭和維新」の実相に迫る渾身のノンフィクション。
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封印された史実を掘り下げてみれば。
2017/10/12 21:56
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:浦辺 登 - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書を手にしたのは、著者が「玄洋社」初代社長平岡浩太郎の曾孫であり、「黒龍会」創設者内田良平の血脈であるということが大きい。「昭和維新」との題名だが、ある意味、玄洋社からみた昭和維新史と言える。
本書は三部構成であり、第一部は「昭和維新」の胎動、第二部は五・一五事件から二・二六事件、第三部は二・二六事件と「昭和維新」の挫折となっている。総ページ数は580ページ弱の大部となっている。
この「昭和維新」について、多くは二・二六事件を最終決着点として語られる。本書は大川周明から始まる。大川周明は、いわゆる東京裁判での奇行だけがクローズアップされ、戦後、その思想、背景については語られない。本書が、その大川周明を取り上げたのも、東京裁判の映像によって封じ込まれている大川の真実を引きずり出したいという思いからに他ならない。
著者は、本書の「はじめに」において、こう述べている。
「日本を敗戦に導いた権力者の責任を日本人自身が総括しないまま、戦後政治に引き継がれてきた。日本を敗戦に導いた指導者たちは、本来ならば連合国にその責任を負わされるのではなく、天皇と国民に対して祖国を亡国の危機に導いた責任を負わなくてはならない。」
まさに、東京裁判における大川周明は連合国の晒し者、ピエロを演じた。
著者は「昭和維新」というテーマから五・一五事件を説いた。五・一五事件は昭和七(一九三二)年五月十五日に起きた。首相犬養毅を襲撃した陸海軍青年将校のみならず、頭山秀三も関係した。本書にも記されているが、犬養毅の墓所は東京都立青山霊園にある。その少し斜め前に、犬養の盟友ともいうべき頭山満、そして、頭山秀三の墓石が有る。なかなか、この両家の関係については深く立ち入れない。しかし、著者はその両者、心情を綴っている。本書の200ページから始まる件は、興味深いものだった。過去、表層をなぜた著述はあっても、ここまで頭山と犬養の関係を表現したものを読んだことがない。
次に、二・二六事件の引き金ともいうべき「永田鉄山惨殺事件」は興味深い。この永田鉄山を刺殺した相澤三郎中佐の弁護士は、鵜沢総明だが、鵜沢は東京裁判での日本人弁護団長として知られる。鵜沢が相澤の弁護をどのように展開しようとしたのだろうか。平成二十七年二月二十六日、東京麻布の賢崇寺で二・二六事件、永田鉄山惨殺事件関係者の慰霊に参列した。賢崇寺とは佐賀鍋島藩主の菩提寺だが、処刑された二・二六事件での青年将校らの墓所があることでも知られる。この法要で、相澤三郎の娘からの手紙が読み上げられた。あの子煩悩だった相澤の娘が存命であることに感慨を覚えた。さらには、その所在すら不明であった二・二六事件での公判記録が東京地検に保管されており、公文書館に移されることになったとの報告も。
最後に、本書の最終章である東條英機暗殺未遂事件である。この章では、中野正剛に対する東條英機の言論弾圧が述べられている。憲兵を総動員し、委細洩らさぬ情報統制を敷いた東條だった。その東條の独裁に、生命を顧みず反対闘争を繰り広げた中野だった。毀誉褒貶はありながらも、断固として権力者東條に叛旗を翻した中野の慰霊祭は今も地元福岡で続けられている。
昨今、庶民の暮らし向きを考えず、金銭、異性問題で世間を騒がす政治家が多い。ここに、戦後を総括しなかったツケが日本社会混迷を招いたといえる。今、亡国の危機にある日本に対し、政治家は自戒し、必死の覚悟をと著者は主張する。
今回、本書を世に問うた著者の決意はここにある。そのことを汲み取っていただきたい。