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電子書籍
世界史の中から考える(新潮選書)
著者 高坂正堯
歴史は繰り返す――英国議会政治の善し悪し、三百年前の欧州における投機バブルから、米内光政など日本政治史におけるリーダー論まで、現代日本が抱える問題の相似形が、世界史を繙く...
世界史の中から考える(新潮選書)
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世界史の中から考える (新潮選書)
商品説明
歴史は繰り返す――英国議会政治の善し悪し、三百年前の欧州における投機バブルから、米内光政など日本政治史におけるリーダー論まで、現代日本が抱える問題の相似形が、世界史を繙くことで見えてくる。十八世紀のヨーロッパや近代の日本に、「現代」と格闘するためのヒントを探る、卓抜なるアフォリズムに満ち溢れた、偉大な歴史家による最後のエッセイ集。
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紙の本
ああ、高坂正尭!
2007/05/05 12:58
16人中、14人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:塩津計 - この投稿者のレビュー一覧を見る
諸君は高坂正尭を知っているだろうか。彼の著作を読んだことがあるだろうか。もし知りもしなければ、読んだことも無いという人がいたら、その人は人生において重大な損をしているといえるだろう。日本政治や世界政治外交の見かたについて、高坂正尭の教えを受けた人とそうでない人との間には、石器時代と鉄器時代、あるは火薬と鉄砲の時代とそれ以前くらいの隔たり、格差があると見て間違いない。高坂正尭を呼んでいない人たちよ、深く悔い改め、恥じ入って下さい。本書は月刊誌「FORESIGHT」{新潮社が出している雑誌だよ、これさえ知らない人は、相当程度の政治オンチだ)に連載された小編記事を集めたものであり、彼の絶筆遺稿集ともなっているものだ。なかでも白眉は「なぜ日本人は太平洋戦争という間違った戦争をしたのか」について論考する最後の2編であろう。高坂は、開戦と同時に名だたる文学者たちがそろいもそろって対米戦争開戦を大歓迎したことを引きながら(引き合いに出されているのは、三好達治、高村光太郎、斉藤茂吉で、斉藤茂吉の有名な和歌「何なれや心おごれる老大の耄碌国を撃ちてしやまむ」が彼らの当時の心情を代表するものとして引用されている)、そこには「白人支配への恨み」があったとする。17世紀から19世紀にかけて、武力にモノを言わせ、世界中を侵略し、世界中で虐殺を繰り返し、その結果巨大なる植民地帝国を築き上げた英・仏や、「国内」で虐殺を繰り返し大帝国を築き上げた米、露などからなる「白閥」が、その経済支配を背景に日本やドイツに対し道徳を説く偽善に対する怒りが日本人を「それなら俺も」と中国支配に向わせたと高坂は分析する。この白人に対する恨み辛みを吐露した代表的文章が近衛文麿の「英米本位の平和主義を排す」(北岡伸一編『戦後日本外交評論集』中央公論社参照)だが、その誤りは「じゃあ、英米本位の平和主義を排した後、日本はそれに変わる新しい世界システムを構築し維持できるのか」という具体的政策提案が欠如していたことだとも指摘する(このあたりは反米主義に凝り固まった左翼たちの米軍基地反対運動、日米安保条約反対運動、自衛隊違憲運動にも共通する欠陥である)。そして日本人が抱える重大な欠陥は「あまりにも簡単に状況に従いすぎる(逆に言えば、原則に固執する頑固者が少ないということ)」だと高坂は指摘するのである。「勝てば官軍」という現象は世界中どこでも見られるが日本ほどそれが目立つ国も少ないともいう。そしてこれは「『柔軟性』という日本人の美徳と表裏一体となっているから、完全に克服することは出来ない」と高坂は断言するのである。原理原則を軽視し柔軟にルールを変えても平気という日本人の資質は「優越する西欧文明」を我がものにするとき非常に有利に働いた。中国が近代化に失敗し日本が近代化に成功したのも、おそらくこの「柔軟性」の差だと思われる。こういう宝石のような指摘が高坂の文章には、そこかしこに散りばめられている。一読をオススメする。