紙の本
交錯する私たち
2018/11/09 08:02
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投稿者:***** - この投稿者のレビュー一覧を見る
たゆみなく選択することを否応なく迫られるのが人生。yesかnoかだけで大きく変わっていったパラレルワールドが、世界史の変更も含めて語られる。
女として、自分として様々な制約の中でどう生きるか、生きうるかを真摯に描いていると感じました。
別れ別れになった人生が織りなすそれぞれの味わいと交錯の予感。私の、私たちの人生の可能性を考えさせる作者のストーリー・テラーぶりに感服しました。
紙の本
バタフライ効果を身近に感じる物語
2018/05/06 06:25
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投稿者:かしこん - この投稿者のレビュー一覧を見る
老境にいるパトリシアは自分の人生を回顧する。自分には痴呆の症状が出ているのかもしれないけれど、自分の過去は二種類あるような気がしてならない。どちらが本当なのか、それともどちらとも本当なのか、どれも本当ではないのか・・・ある若き日の決断をきっかけに二つに分岐した彼女の人生を追いかけていく物語。主に1933年から2015年まで。
YESと答えた後に続くのは、トリシア(トリッシュ)の人生。 NOと答えた後に続くのはパティ(パット)の人生。
たとえば、フィレンツェに恋して毎年イタリアを訪れて人生の豊かさを感じるパットと、イギリスの片田舎から出ることすらままならないトリシア。片方はモラ夫に苦しめられフェミニズム学に目覚めたり、もう片方は娘の人生を認めない母親に抑圧され。
一時期は片方が幸せであるように見えるけれど、時間の流れは残酷で、禍福は糾える縄のごとし。いいことがあれば悪いことも起きる、個人レベルでも、世界レベルでも。
個人の物語かと思いきや、やっぱりどこか仮想歴史モノになっていた。
読者である自分が知っている世界と、トリシアとパットそれぞれの世界は同じものもあるけれど違うものもある。いつしかまるで、彼女たちの選択が他の人たちにも影響を与え、世界そのものにも影響を与えているのでは、という気になってくる。彼女たちの子供たちもまたいろんな人とつながり、広がっていく様子はまさにそのもので(でも年代記っぽいわけでもない)。
もしかしたら、それは本当なのかもしれない。自分の些細な言動が、めぐりめぐって思いがけない影響を生み出していたら。
ならば、世界をよいほうに進めようという気持ちを持ち続ければ、もしかしたら。
世界各地で起こるどうしようもない出来事の連続に心が折れてあきらめてしまったらそこで終わりだと。
あ、この物語は<言霊>の存在とも似ているのかも。すごく面白かったけど、同時にとても考えさせられて。
ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア賞受賞、ということにものすごく納得できる、ジェンダーを当然のように乗り越えた現代SF。こういう発想ができる人たちが多数派になれば、LGBT問題なんてなくなると思うんだけどなぁ。
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淡々と語られるありえたはずの人生。
2017/11/16 10:44
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投稿者:りー - この投稿者のレビュー一覧を見る
人生可変ものみたいなのは僕の大好物で、ありえたはずの人生をそれぞれ二つ歩む老婆の物語というだけでも素敵なのに、その中で何が良いって「感動させよう」だとか「情緒に訴えよう」みたいな余計なこだわりが全くなく、淡々と物語をすすめてゆくというその手法である。無駄なことは何もせず、ただただひとりの人間の交錯することの無い二つの人生を歩んでゆく。ストーナーが好きな人はひとりの人間の人生史って意味で結構好きかもしれない。さすがにストーナーには及ばないけれど。
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ジョー・ウォルトン最新作。
ある認知症患者を主人公に、若き日の決断で分岐したパラレル世界を描いている。それぞれの人生の対比、どちらの世界でも少しずつ史実とは変化している歴史など、読み応えがあって面白かった。次回作も邦訳されるといいなぁ。
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久しぶりに店頭で読みたい本を物色していて出会った一冊。ジョー・ウォルトンの作品は読んだことがなかったけど、とても好みな作品世界で、後から世界幻想文学大賞や英国幻想文学大賞受賞作家と知り、なるほど…と納得。
1926年生まれのパトリシアは、2015年現在、認知症を患い、老人ホームで暮らしている。冒頭の章で綴られる混乱する彼女の記憶は、しかし、混乱と言うより混線という表現が当てはまる不思議な様相を呈していて…日によって異なる部屋のインテリア、入居している施設の作り、更には彼女の元を訪れる子供たちさえ別々の人生で得た別々の家族が混在している様子。そうした混線した記憶の背景には、世界や政治にまつわる共存するはずのない二つの歴史の流れもあって——。
そして語られ始める第二次世界大戦前夜から始まる彼女の人生の物語は、戦後、ある男性からの一つの問いによって二つに分岐する。学生時代に結婚の約束を交わした彼と本当に結婚するか、それとも望む職に就く当てがなくなった彼との婚約を破棄するか。「あなたと結婚する」と答えたパトリシア=トリッシュが送る、家に縛られ多くの苦労を強いられる人生。「あなたとは結婚しない」と答えたパトリシア=パティが送る、自由で文化的な人生。交互に綴られていく分岐した二つの人生は、けれど、分岐直後の明らかな明暗のギャップにも関わらず、どちらの世界でも長い時間をかけて彼女が彼女らしく生きていく中で、色合いは違えどいずれにも愛と幸福が訪れ、また苦しみや悲しみもいずれの人生でも避けようがなく舞い込み…全く違う二つの人生が、やがて一つの施設でのゴールへと自然に収斂していく。
まさに「糾える縄のごとく」二人のパトリシアの人生と彼女を囲む世界を彩る幸福と苦難。二人分の人生、二つの世界が歩んだ時代を同時に読み進めていく読書体験は本当に濃厚で、一気に読んでしまった。幸せな人生とか、不幸な人生とか。幸福な時代とか、悲惨な時代とか。何か一つの要素がすべてを決めるのではなく、人生とは、時代とは、いつでもどこでも、何かしらが欠け、あるいは奪われ、けれども何かしらを得て、あるいは守り通して、生き抜く「日々」の積み重ねでしかない。その「日々」の積み重ねが生み出す道筋は、たった一つの選択によって大きく分岐したように思えても、実際は小さな選択が生む小さな分岐が数知れず積み重なって生まれたものなのだと思う。選択する度に分岐が生まれるなら、いま私が生きている人生には、どれくらいの並行世界がありえたのだろう。パトリシアの二つの人生に正誤がないように、きっと、選んだ人生、選ばなかった人生、どちらかが正しくてどちらかが間違ったということはない。常に、いまいる世界、いま生きている人生を、自分が選んだ世界であり人生として、ひたむきに生きるしかないのだ。トリッシュとパティ、青春時代から老境までのそれぞれのとてもリアルな重みのある人生を同時に経験することで、自分の来し方行く末にも思いを馳せずにはいられない一冊。
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普段SFはあまり手に取らないのですが、ファージング3部作の作者なので読んでみました。同じく歴史改変もので今回も楽しめました。このページ数とは思えない中身の濃さです。
カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」もそうですが、設定がちゃんと確立されているSFなら苦手な人も読めるということですね。
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これが、遅れてきた、2017の私的ベスト1だと思う。
人生には選択があり、どちらも命をかけて守りたい愛しい人と、吐くような痛みをともなうのだ。時は過ぎていく。
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パラレルワールドもの。最初の章で認知症の老婦人の日常が語られて此処が並列世界の終点であることを匂わせる。
そこから過去に遡り同一人物の二つの人生が平行して語られていく。どちらかが劇的な人生と言うわけでもないのだが、明らかに世界観は異なる。
パットが生きる世界では限定的に核戦争が有り各地で死の灰が降る。それがパットの人生に大きく影響する。
一方トリッシュの生きる世界では横暴な夫のもと、不幸せな結婚生活を送り5人を死産し4人を育て上げる。その代わり世界は比較的平和である。
主人公であるパトリシア(パット、またはトリッシュ)の認知症が進み施設に入ったその時、二つの人生は混濁した意識の中で融合し始める。
3人の子供がいたり4人の子供がいたりするパトリシアの記憶を医者達は認知症で片付けようとするが、パトリシアは二つの人生がどちらもリアルに感じられる。
物語は劇的なオチも無しに唐突に終わる。ストーリーにSFらしさは全く無い、ただ物語の切り口がSFなのだ。これだけ読ませるのだから筆力も有る。
こんなSFってあるんだと感心することしきり。オススメです。
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私たちは日々選択している。日々は選択の積み重ねで出来ている。
選択しなかったほうの人生はどうだったのか、そっちのほうがよかったのか、と考える瞬間がたまにあるかもしれない。考えてみたところで、選んだ今を生きるしかないのであるが。
選んだ人生と選ばなかった人生をリアルに細かく描いて膨らませていくのであるが、なんか結局はプラマイするとどっちもどっちでは…というのが私の偽らざる所感です。
だから結局、選んだ人生を生ききればいいんだよ、ということか。
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芯のしっかりした女性があるときはレズビアンとして、あるときは夫に強いたげられる妻として生きていく。設定がSFなのに回りの人たちとのやり取り、社会との関わりがやけに具体的でリアルで、小説読まされてる感がない。運命はわからない、どんな人生になるかわからないが、社会参加しながら生きてくことが大切だと思った。
とてもすてきなタイトル。子どもにたいしての失望は決してなく、小さなこと(人に思いやりのある態度をとったなど)が嬉しい。親の気持ちが溢れてる。
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一つの選択で、人生が全く変わったとしたら‥?
パラレルワールドのような2つの人生を振り返る女性。
2015年、パトリシアは老人ホームにいて、混乱していました。
子どもが3人だったのか4人だったのか、自分の人生のいろいろなことが二通り思い浮かぶのです。
医者には認知症と思われるだけですが。
1926年生まれのパトリシア。
大学のときにマークと付き合い始めたことで、人生の岐路ができます。
パトリシアの愛称はいくつもあり、こちらの世界ではトリッシュのほうが素敵だとそう呼ばれるようになっていました。
熱烈なラブレターを信じて結婚したトリッシュですが、牧師の息子で堅物のマークは、子どもを作るのは義務と考える古めかしい?男。
流産を含めた妊娠6回、苦労するトリッシュでしたが~4人の子どもはそれぞれ個性的に育ちます。
結婚を断った方は、パットと呼ばれています。
イタリア旅行に行ってガイド本を書いたのをきっかけに評価され、順調に仕事をしていきます。
植物学者の女性ビイと愛し合い、カメラマンの友人マイケルに精子提供してもらって子どもをもうけます。
世界の出来事は、どちらも史実とは少し違っています。
そして、どちらも、良いことばかりではない。
そのあたり、決して単純ではないけれど、密かに文明批評の針が仕込まれているような。
一つの選択で道はわかれるが、どちらが正しい、というわけでもない? そこに深みが感じられます。
きめ細かな描写でどちらもリアリティがあり、2倍楽しめるというか、これほど複雑な話でもパトリシアの気持ちはわかりやすく、切ないものがあります。
作者は「ドラゴンがいっぱい!」、「ファージング」三部作、「図書館の魔法」で知られるSF作家。
この作品も評価が高いですね。
しみじみとした味わいと余韻に、感動しました。
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一つの決定がかくも人の未来を変えるのか……と。
ヒロインの結婚という決断を起点に、それぞれ二つの世界が並行して描かれるパラレル小説。
秀逸だなあと思ったのは、どこまでも人間ドラマを描きながら、私たちが知り得る「現実」とは少しずつ違うこと。
それは「ちょっとした決断で、世界は大きく変わり得る」と思わせる静かな迫力に満ちている。
また、どちらの世界にも「性」の曖昧さが書かれていることも興味深かった。
そして当然のことながら、選ぶ相手が違えば、「生まれてくる子ども」は違うという事実……!
そこからさらに生まれてくる子どもたちも変わる。関わる周囲の人間たちの運命も変わる。
なんという運命という名の模様の数々。
大聖堂やモスクの美しい天井画を思い浮かべてしまった。あらゆる形、色がはめ込まれている。
無数にある世界線の、それぞれの模様が違う。
なんとも恐ろしくて、そしてじんわりと静かな気持ちになった。
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ジョー・ウォルトンは『図書室の魔法』に続いて2作目。前作がかなりはっちゃけた感じだったのに比べて、こちらは余韻とじんわり染み込む感じがとても素敵な作品。
たらればSF(?)なんだけど、「選択」って、もう、善いも悪いも、ないんだよね、ただでも、それを主体的に行うことそのものに善さはある気がする。結果はどうあれ。
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パトリシアという女性の一生を描いた物語。ただし2人分。
パットとトリッシュで分けられた彼女の人生は、世界ごと全く違う道を歩んでいく。
ひとつの名前に愛称が複数ある海外の名前の特徴をうまく使っていておもしろい。やはり名前は人生を決定するほどの力を持つのだ…。
と思っていたが、どちらにしてもパトリシアはパトリシアだった。それは本人もそう言っていたし、最終的に2つの人生が彼女ひとりに収束していったことからもそうなのだろう。薔薇という花はその名前でなくても同じ香りがするのだから。
パトリシアはどちらの人生においても意志が強く、活動的で、聡明な女性である。確かにパットの方が一見幸せに見えるけれど、トリッシュも幸せには違いなかったと思う。どちらの人生が彼女にとって良かったのか、読み終わって未だに答えが出せない。
パットとトリッシュと共に人生を追いかけていくうちに、彼女たちの子ども全員がかわいく思えてきてしまう。どちらかを選んでどちらかに会えなくなってしまうのは悲しい。いずれにしろパトリシアの子どもは音楽の才能を開花させるのが興味深いところ。
そんな風に考えながら読んでいたのだが、解説を読むと全く違った視点での考察があり非常に勉強になった。こういう、自分に足りない視点や知識で物語を読み解けるのも翻訳本の良いところだ。
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男のプロポーズに対する返事が波動関数を収束させ、運命が分岐した女の人生を描いた物語。認知症により波動関数が再び発散するところや、描かれる世界史が史実通りではなく、偽史が含まれるのが面白い。また、セクシュアリティが生来固定のものではなく、人生の途中で変わっていくという描写も良かったと思う。
それにしても、プロポーズ断った方の人生の方が楽しそう。一方プロポーズ受けた方の人生(の特に前半)は、繰り返す妊娠と流産、家庭内で軽んじられる、働くこともできないという地獄。BCならぬ、Before feminism時代の暗黒。