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経済学は温暖化を解決できるか
著者 著:山本隆三
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経済学は温暖化を解決できるか
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経済学は温暖化を解決できるか (平凡社新書)
商品説明
※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。
地球温暖化は、「不確実」な問題である。しかし、だとすれば何の解決策も必要ないのだろうか?市場メカニズムを利用して問題解決を図る排出権取引制度や環境税は、本当に有効なのか?-「経済学」ではこう考える!温暖化問題の現状と解決の手法をきちんと理解するための経済学。
目次
- 第1章 温暖化問題の短い歴史と現状
- 第2章 温暖化問題の「不確実性」を考える-経済学の視点から
- 第3章 米国とEUの温暖化問題への取り組み
- 第4章 日本の温暖化問題への取り組み
- 第5章 温室効果ガス削減の経済学
- 第6章 経済的手法は温暖化問題に有効か
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経済学的手法が成功を収める前提条件の整備には、かなり厳密な議論が求められる
2010/05/15 16:07
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:JOEL - この投稿者のレビュー一覧を見る
温暖化はすっかりメジャーな環境問題になったが、どうすれば解決できるのか、あまり理解が進んでいるとは言えない。かつての公害問題であれば、原因物質を出す企業を特定し、その責任を問い、原因物質を規制するか取り除けばよかった。
温暖化問題に関しては、温暖化が進むメカニズムからして平易ではない。産業活動や私たちの生活の中から排出される温室効果ガスが大気中にたまり、温室のような働きをして熱を蓄え、気温上昇につながる。
問題は気温上昇そのものよりも、それに引き続いて起こる気候変動にある。すなわち、異常気象の頻発や気候の変化による農作物の収穫の変化、海流の変化による漁獲の変動などなど。
その影響は広範囲にわたり、気候変動とは何なのかを理解するにも、一般の人間にはハードルが高い。また、温室効果ガスも、もっぱら二酸化炭素が話題になっているが、メタンや一酸化二窒素、フロン類など複数ある。二酸化炭素にくらべると排出される絶対量が少ないので対策は後回しになりがちだが、無視はできない。
温暖化のおきるメカニズム、気候変動の実際問題、問題の解決方法の3つに分けるとすれば、本書は3つめの問題の解決方法を主に論じたものになる。書名にあるとおり、経済学的手法で温暖化を解決できるかどうかを分析している。
温暖化問題は、すぐに解決すべきという立場と、経済成長を重視する考えから先送りしようとする立場とで、論調が異なる。まず、事実を見極める前に、いずれに立つかが問われてしまうので、議論に入りづらくなる。本書は、いずれの立場からも距離を置き、冷静に事態を見ている。まだ、温暖化問題とは何なのか理解し切れていない人には、適した本と言える。
本書に通底するのは、温暖化問題の「不確実性」にある。どの経済学的手法を用いるにしても、この不確実性のために絶対的な解決策は導くことができない。不確実性とは言っても、温暖化懐疑論ではなく、いつごろどのような問題を生じるのかを正確には予測し得ないということだ。
著者はそこで、地震に対する損害保険をなど引き合いに出して、考え方を整理する。保険に加入した場合と加入しなかった場合とで、地震による損害額と保険による補償金額を比較計算する。大地震がすぐにおきる可能性は小さいかも知れないが、万一おきた場合の損害額が大きいので、加入しておこうとする人が増えるとする。このあたりで、イデオロギーの問題でも倫理的な問題でもなく、経済学的な判断というものについての手ほどきをしてくれる。
米国とEUの取り組みに関しても冷静に分析してみせる。例えば、米国でオバマ大統領がグリーン・ニューディールを打ち出して、送電網をスマート・グリッドに変えようとしている。これは米国の送電網が老朽化し、そろそろ更新しなくてはならないので、もともと必要性に迫られていることだということになる。
EUの場合には、石油・天然ガスをロシアに依存する割合が大きいので、エネルギー安全保障の観点から、脱化石燃料に政策転換しなくてはならないのだと教えてくれる。
そして、本書の主題というべき、排出量取引と環境税に関しては、成果をあげるための前提条件がきれいに揃わなくてはならない現実を指摘する。どちらの手法も、それだけでただちに温暖化ガスの排出抑制に直結するわけではないのだ。市場をきちんと整備すること、社会的公平性を確保することなど、制度設計はかなり厳密にしなくてはうまくいかない。
その意味で、やはり普通の人には理解のハードルが高い。では、これを専門家にだけ任せておけばよいのかというと、一人ひとりの社会経済活動の中から温室効果ガスは排出されているので、理解を広げていかなくてはならない。だれしも温室効果ガスの排出に責任を負っている。冒頭に述べたように、原因企業を特定して、その企業にだけ問題解決を迫ればよいという単純な図式ではないのだ。
私たちのふだんの当たり前の生活の中から温暖化問題が生じているのだが、その仕組みと解決方法に関しては、議論が複雑でかなり頭を働かせなくてはならないというところに、温暖化問題の一筋縄ではいかない本質がうかがえる。
著者にすれば「不確実性」のために、問題解決が容易ではないということになるのだが、普通の人にしてみれば、かなり勉強しないと問題点の所在すらつかめないというところに難点がある。
議論のむずかしさをかなり整理してくれるだけでも、本書の価値はあると言えそうだ。著者が展開する経済学的な手法の検討を、この書評の中で再現することはできないが、関心はあるものの、どの本を読めばいいのか分からないという人にはおすすめできる本と言えそうだ。