P+D BOOKS　時代屋の女房

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投稿者：永遠のチャレンジャー　-　この投稿者のレビュー一覧を見る

何しろ、あの伝説の女優夏目雅子がヒロインを演じた映画の原作本なのである。懐かしき昭和を知る者としては購入せずにはおられない。歌姫ちあきなおみの歌声が耳朶に甦って不思議はないのだ。

原作は直木賞にふさわしく、慎ましい人々の暮らしぶりとヒロインが姿を消してから募る一途の主人公の恋心を描き込んだ秀逸な作品だが、なるほど映画に仕上げるには尺（エピソード）が足りない。映画は、一種のロードムービー的な要素を膨らませた「覗きからくり」の挿話を紡いで見せた。

魅力的なヒロインの映画は、相手方の男優にも女優がより引き立つような包容力溢れる演技が要求される。ハリウッドではオードリー・ヘプバーンやグレース・ケリーに遥かに年上のハンフリー・ボガートやゲイリー・クーパーを組ませた。

「カサブランカ」のボガート、「ローマの休日」のグレゴリー・ペック、「浮雲」の森 雅之、「花様年華」の梁朝偉（トニー・レオン）、「きみに読む物語」や「ラ・ラ・ランド」のライアン・ゴズリングなど巧みな支え手が思い浮かぶ。

そして、映画「時代屋の女房」では渡瀬恒彦が哀愁を帯びた主人公「安さん」に扮し絶妙だった。脇を固める津川雅彦、大坂志郎ら共演者にも芸達者が揃っていた。

けれど、結局は「真弓」役を演じた夏目雅子の映画だ。「カサブランカ」がイングリッド・バーグマンの、「ローマの休日」がオードリー・ヘプバーンの、「裏窓」がグレース・ケリーの美貌と役柄で記憶されるように。

脱線ばかりで原作者には申し訳ないが、それだけ原作が魅力ある小説作品だということの証左でもある。根底にある愛すべき小説世界は不変なのだ。映像化によりこの世界に触れた私みたいな人間が、原作本を買って読む動機ともなる訳だ。

それだけ想像力・創造力を掻き立てる魅力がこの小説にはある。太々しい野良猫の「アブサン」もそうだ。「なみだ壺」や「扇風機」、それに「時代屋」の看板自体も、時代が生んだ妖しい記念品に見えて来る。

いい女にはカラフルな日傘（パラソル）が似合うのだと小説や映画で刷り込まれ、実生活でも夢を追った読者や観客は、結構な数だけいるに違いない。