紙の本
予測不能がもたらす面白さ。
2020/02/10 18:44
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投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
好きな小説のタイプとして以下が挙げられる。
1つは、緻密に構成が計算され最後に驚愕の真相が明らかになるというもの。
そしてもう1つは、行き当たりばったり感が満載で次に何が起こるか全く予想が出来ないもの。
本作は圧倒的に後者であろう。
1963年を舞台にしたクライムサスペンスという前情報のみで読み始めた。
追う者と追われる者の両方の視点で物語が進む構成は何度か見たことがある。
しかし、本作が本作たるゆえんはシャーロットという主婦の視点でも物語が進んでいくからであろう。
クライムサスペンスに一見全く関係性の無い主婦がどう絡んでくるのか、これが全く予想出来なかった。
また、主要人物同士が交わった後の物語の加速度も素晴らしかった。
本作の魅力の1つとしてキャラクター造形が挙げられる。
個人的にお気に入りなのは、殺し屋のバローネだ。
冷徹で人を殺すプロである彼が目的遂行のためにとる行動には、感嘆するしかない。
勘の鋭さや、どんな状況でも絶え間なく考え最善の行動をとろうとする彼が最もお気に入りのキャラクターだ。
主要人物以外のキャラクター造形も素晴らしかった。
バローネの運転手として共に行動するセオドアや犯罪組織のボスであるエドなど、一癖も二癖もあるキャラクターが物語に深く関わってくる。
本作の主要人物達は、それぞれ立場が違うものの人生のターニングポイントを迎える。
それが特に顕著なのがシャーロットであろう。
本作はクライムサスペンスである一方で、シャーロットの成長も物語の核となっている。
今まで自分の人生を流されるままに生きてきた彼女が、自らの手で人生を切り拓いていこうともがく姿はかっこよかった。
クライムサスペンスであり、ロードノベルやラブロマンス要素も含まれた本作。
先行き不透明、予測不能という状況がどれ程面白いものか再認識させてくれた。
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「ガットショット・ストレート」を
読んでからの二作目
直前に読んだ「キャサリン・ダンス」にも出てきた「雨が降れば、土砂降り」と言う言葉がこちらの話にも出てきた…謎
舞台は1963年
ボスのある秘密に気づき追われる身となった
マフィアの幹部ギドリー
それを追う同じマフィアの幹部(殺し屋)バローネ
そして、全く関係のない。ダメな夫に別れを告げ、子供二人と犬をつれて新しい生活探しの旅をする主婦シャーロット
三者が交差する。
前作にもあった「追う」「追われる」の読み合いの面白さアリ
他のマフィアのボスや殺し屋と行動を共にすることになる黒人の少年とのやり取りとか、会話が楽しい。
表紙は読んだ私は納得できるのだけれど、全体的に暗くタイトルもあってか読む前の印象は暗い話なのかと思っていた。
そんなことはなく、前向きな変化に向かって人生を転がそうとしてる人物達が生き生きとしていてよかった。見た目で損してる気がする。
なんとか私も、11月中に読めた…
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逃避行成るや?逃げるギドリーも切れ者だけど、追う側のバローネはギドリーを上回る知恵と粘りで着実に迫る。偽装として巻き込んだ母娘とギドリーの行く末は。。と、気をもませてダレることなくクライマックスへ。不穏な感じのエド、その執事のレオ、保安官、運転手の黒人の青年、脇役もキャラが立っていて面白かった。
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1963年ケネディ大統領暗殺に知らないうちに関わっていたことに気づいたギドリーの逃走劇と夫から逃げるシャーロットとその娘2人。そしてギドリーを追う殺し屋。シャーロットたちとの出会い。犯罪組織で生きてきたギドリーが触れる優しさや温かみ。そこから生じる変化。一緒に進むのか離れるのか。それぞれの感情ひとつひとつがとてもいい。不器用で、でも子供たちに見せる顔は穏やかで優しい。とても好みの作品。
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途轍もない実力を備えた作家に出会うと、ぼくはいつも少し興奮してしまう。それほどの掘り出し物の作家は、毎年のようにあちこちで見つかるわけではない。数年に一度、いや十年に一度くらい火傷しそうなくらいの印象と熱とを伴って唐突に眼の前に現れるのだ。
ぼくがこの作品を手に取ってすぐに感じたのが、そのような感覚であった。おお、来たぞ、来たぞというような震えが走る。翻訳小説であれ、この手の文章によるグルーブ感は感じられる。素晴らしい文章であり、言葉の流れであり、行間を流れる時がガラスの中を落ち行く砂音を確実に伝える。
題材はジョン・F・ケネディの暗殺事件。主人公ギドリーは、組織から依頼を受け、暗殺者が逃走用に使う車を用意してしまったことを知る。さらにその車の始末を命じられるが、関わった者たちが次々に不審死を遂げてゆく情報を掴んで身の危険を感じ、状況からの脱出を図る。
一方、写真館に勤めるシャーロットは、働かず浪費を繰り返す夫に愛想をつかし、ルート66を、西に向かって旅立つ。個性的な二人の娘を連れて、急激な心の変化で。考えるよりも先に行動を選択してしまった主婦の運命が本筋に交わってゆく。
さらにサイコとも言えるプロの殺し屋パローネは、黒人少年セオドアという運転手とのコンビで、ギドリーを追い始める。
以上、シンプルなトライアングル・ストーリーが、ルート66を疾走し始める。大好きなロード・ノヴェルが慌ただしくスタートする。三つ巴の運命は、大きな川の流れのように蛇行してうねる。それぞれの人間がとても深く描写されつつ、スリリングな緊張を保ってゆく。文章は、秀逸で、リズムが横溢している。煮詰まり行くストーリー。それぞれの出会いと、決着への興味にぐいぐいと引っ張られてしまう。
案の定『このミス』6位の評価を得た作品。ぼくは自己3位とした。『ガットショット・ストレート』という評価の高いデビュー作以前は、『ニューヨーカー』で作品を採用され、文学作品やシナリオライティング、文芸創作の教師などの仕事に従事していたらしく、ミステリー・ジャンルで花開くまでの下地を作る助走路は十分に長かったようである。なるほどの筆力である。
ぼくはそもそもJFKを題材にしているというだけで興味を覚えてしまう。映画『ダラスの熱い日』のラストシーンを覚えておいでだろうか? 事件後に不審死を遂げた関係者や目撃者の実際の写真がずらっと拡大され、これだけの関係者が数年内に死亡を遂げる確率は数千分の一とか数万分の一(記憶曖昧、失礼!)であるといった字幕が流れ、事件後の証人不在工作の徹底度を伝えて終わる。その衝撃をこのストーリーの基盤に据えた、暗黒組織の存在が非常に怖く、現実と繋がっている感覚が否めない。
そんな歴史的な悲劇を潜り抜ける中で、冒険と恋愛と生命の逞しさとを登場のたびに表現してくれた一主婦シャーロットの存在に、ぼくとしては大きな喝采を送りたい。
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犯罪組織の幹部のギドリーが、ケネディ暗殺に関わる仕事をしたことを悟り、追っ手から逃れる途中で、二人の女の子を連れた訳あり女性シャーロットと出会って・・というあらすじです。物語が展開していくにつれて、徐々に変化していくギドリー、シャーロットの心境は、それぞれの人生を大きく変えるのか、あるいは、といった点が印象に残りました。また、ストーリーは意外性があって面白く、ハラハラドキドキしながら読んでいました。読後感は色々な意味で切なかったです。
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フランク・ギドリーはニュー・オリンズを牛耳るマフィアのボス、カルロス・マルチェロの組織の幹部。一九六三年、カルロス・マルチェロとくれば、ケネディ暗殺事件がからんでくる。ジェイムズ・エルロイの「アンダーワールドU.S.Aシリーズ」でお馴染みの名前だ。オズワルドではない真の狙撃手の逃走用の車、スカイブルーのキャデラック・エルドラドをダラスの現場近くまで運んだのがギドリーだった。
暗殺事件が起きるまで、ギドリーは何も知らされていなかった。関係者が次々と殺される中、ギドリーは自分も消されようとしていることに気づく。ダラスでエルドラドを始末したその足でバスに乗り、行方をくらます。車を手に入れ、ラスヴェガスの犯罪組織のボス、ビッグ・エド・ツィンゲルを頼って西に向かう。テキサス州グッドナイトでカルロスの息がかかった保安官に逮捕されるが、持ち前の機転を利かして辛くも難を逃れる。
同じ頃、オクラホマのシャーロットは<Don't think twice, it's all right>の歌に誘われるように子ども二人を連れて家を出ようとしていた。酒飲みの亭主との生活に疲れ、自分と二人の娘の新しい生活を夢見ていた。夫が飲みに出かけたすきに荷物をまとめ、ロサンジェルスの叔母を頼って車で出かける。途中で事故を起こして車を修理中、モーテルでフランクと出会う。ギドリーは、自分の情報がばら撒かれていると知り、シャーロットに近づき、家族連れを装うことに成功する。
カルロスに雇われ、フランクを追う殺し屋がポール・バローネ。ケネディ暗殺の秘密を知る者を次々と手にかけてゆくが、手に深手を負う。傷口を縫ったメキシコ人医者のせいで感染症に罹り、ハンドルが握れないバローネは街角で拾った黒人の少年に車を運転させる。高熱で気絶したバローネのために医者を呼ぶのもセオドアだ。非情の殺し屋とぶっきら棒な黒人少年の取り合わせが、いい味を出している。
逃げる者と追う者、巻き込まれる女、三者三様の思惑が縒りあわされるように一つの物語を構成している。クライム・ノヴェルとしては、二人の腹の探り合い、相手を如何に出し抜き先手を取るか、という暗闘が見せ場。直接対決は最後にあるが、意外な幕切れに終わる。それよりも、この手の小説には珍しく、恋愛に重点が置かれていることだ。女など何人も相手にしてきた暗黒街の男がオクラホマから出てきた主婦にここまで入れあげるとは。
鍵は二人の交わす会話にある。夫の前では自分を見失っていたシャーロットが、フランク相手だと実に生き生きと会話をこなす。フランクは外見より、この当意即妙の会話に引きつけられているふしがある。それに、ジョアンとローズマリー姉妹の存在が大きい。フランクには、少年時代、父親の暴力から生き延びるために、仲のよかった妹を見捨てて家を出た過去があった。フランクにとって二人は妹の替わりだ。彼は姉妹をグランド・キャニオンに連れてゆく。
いくら豪華な家に住み、金と女に不自由しない暮らしをしていても所詮は裏稼業。頭が切れ、人扱いに優れていても、ボスがマフィアでは禄でもない仕事を回される。しかもこの世界に裏切りはつきもので、一数先は闇。作中、ダンテの『神曲』と聖書の引用がやたらと出てくるが、これはフランクの日常が地獄めぐりであることの隠喩である。運命的に出会ったシャーロットこそはフランクのベアトリーチェなのだ。
シャーロットは、前夫の悔悛の電話や、叔母の迷惑そうな口調に心揺れるが、その都度前を向いて進む道をとる。彼女の視点でこの小説を読めば、狭い田舎で若くして身ごもり、世間の口を怖れて結婚生活に逃げ込んだ女が、自分のアイデンティティを取り戻すための戦いを記すストーリーなのだ。シャーロットにべた惚れのフランクは、エドが手配してくれたヴェトナム行きにシャーロットと娘たちを誘う。シャーロットの心は揺れる。
バローネという刺客が担当するパートが最もノワール色が濃い。人を殺すことなど何とも思っていない。手で触れたものが金になる王のように、この男の手にかかると人は死体に変わる。バローネに人間らしさを感じさせるのが、黒人の少年セオドアとのやり取り。その間だけ人間的に見える。もう一つ死神が人間らしさを感じさせるのが感染症による高熱との戦い。立っているのが不思議なくらいの状態でじりじりと相手を追い詰めていく、その凄み。
それぞれの世界で自分の生き方を貫こうとして必死に生きる三人の姿が鮮烈に目を射る。フランクは無事アメリカを脱出できるのか。バローネがその前にフランクを仕留めるのか。シャーロットは本当にフランクと生きるのか。最後の最後まで事態はもつれにもつれる。まるでメロドラマのような展開にハラハラドキドキさせられること請け合い。
原題は<November Road>。異なる世界に生きる男と女が、それぞれの理由で今いる世界から逃げ出す。その路上で偶然に邂逅し、行動をともにするうちに、まるで運命のように恋に落ちる。その恋の顛末を描く、ラブ・ストーリーであり、追う者と追われる者の相剋を描いたクライム・ノヴェルであり、歴としたロード・ノヴェルでもある。『11月に去りし者』という表題は、この小説には寂しすぎる。『十一月の道』ではいけなかったのだろうか。
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11月に間に合った〜。
セリフ回しは結構ハードボイルド系だし、逃亡ということでロードノベルでもあるし、バイオレンス要素もちょっぴり恋愛要素も含んで、盛り沢山。でもまとまってる。
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フランクはニューオーリンズのマフィア組織のメンバー。ケネディ暗殺の一端を担うと、その秘密を知る者を消してしまえとボスから命を狙われる。シャーロットは、夫の酒癖が悪いのに嫌気がさし娘二人と逃げる。フランクとシャーロットは逃亡の途中で出会う。
書評七福神の何人もがベストに挙げているだけあって、物凄く面白かった。
なぜ逃げなきゃいけないのか、どうやって逃げるのか、具体的で読みやすく、二人それぞれに感情移入してしまう。いい物語とは、殺し屋が迫ってきたら、「何とか逃げ切ってくれー」とつい叫んでしまうものなんだと思う。当作がまさにそれ。
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1963年11月、ニューオーリンズ。暗黒街で生きる男ギドリーは、ケネディ大統領暗殺の報に嫌な予感を覚える。数日前に依頼された仕事はこの暗殺絡みに違いない。ならば次に死ぬのは自分だ、と。仇敵を頼って西へ向かう道中、夫から逃れてきた訳ありの母娘と出会ったギドリーは家族連れを装いともに旅するようになる。だが組織が放った殺し屋はすぐそこに迫っていた―。
「このミス」でベスト10入りだったことを知り、本棚から取り出して読んでみた。例年のことながら、今年読んだ新作は、いずれもランキングの下位、もしくは圏外ばかり。
この作品は、犯罪小説だが、ロードノベルでもあり、実に切ない展開を見せる。おすすめ。
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海外小説数々読んできましたが、この手のストーリーは初めてかも。ケネディ暗殺が土台、そこから一気に惹きつけられました。女性と幼い娘二人との逃避行、実に絵になります。映画で見たくなるほどで、配役すら想像しました。百戦錬磨そうなのに、フランクあっけなくのめり込みすぎ、とは思いましたが、シャーロットの魅力が光りました。冷酷な殺し屋バローネ、フランク以上に印象に残ったかも。ラストは切ないですね。マディソン郡の橋を思い出しちゃってきゅーんとしました。
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面白かった。
歴史的大事件との関係や家族との交わりがどうなっていくのか、二人の結末はどうなるのか。
飽きさせない文章でスムースに読めた。
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ミステリだけど、ちょっと変わった筋立てで展開も意外でおもしろかった。こういうのあんまり読んだことないかも!、と思いながら読んだ。
ケネディ大統領の暗殺に知らず加担していたマフィア幹部ギドリーが、知りすぎた自分は殺されると気づいて逃亡する途中に、新しい人生をはじめようと幼い娘たちを連れて家出したシャーロットに出会って、っていう話だけど、そこからふたりが恋に落ちて急にロマンスものみたいになるし、ラストで意外な人が意外な行動に出て驚いたし、結末も最初に予想したような感じにはならないし、すべてが意外。先が気になるし、テンポがよくて、なんだかあったいう間に読めた感じなんだけど、もっと細々長々読みたかったっていう気がする。ギドリーの育ちから生き別れた妹の話とか、シャーロットの思いとか、少年少女を家に住まわせているマフィアのエド、運転手のレオとかとか、登場人物ひとりひとりもっと深く書いててくれてもすごくおもしろそうだったのに、と。
エピローグがとてもよかった。(だけに、やっぱりもっともっとたくさん読みたかったな、と。)(しつこい)
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ギドリーはマフィアの幹部、ケネディ暗殺の実行犯に逃走用の車を、それと知らずに用意した。
口封じを恐れての逃避行。
追う殺し屋、途中で一緒になる女性と、その娘達。
次々と読者の思いを裏切る展開、読み出すと止まらない。
シャーロットの決断は見事。
殺し屋は、とりあえず結果的に仕事を達成出来た。
ギドリー、あれしか選択肢は無かったのか?
どうせ死ぬなら、カルロスとセラフィーヌを撃ち殺すとかすれば良いのに。
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ケネディ暗殺の真相がこれだとしたら、実につまらない理由でつまらない相手に殺されたものだと思う。
キャラは結構典型的だった。
ギドリーとシャーロット、お互い逃げる立場でなかったら、惹かれ合うことはなかったかも。ギドリーは出会ったとしても、彼女に興味は持たなかったろうし。ギドリーにとって、シャーロットと出会ってしまったこと自体、破滅への導きだったのかも。