紙の本
主人公の静かな覚悟が気持ちいい、川上弘美の「夜の公園」。
2010/09/06 18:34
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投稿者:オクー - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上弘美の恋愛小説と言えば、ちょっと斜めな感じのシチュエーショ
ンが多く、それがなかなか良かったりするのだけど、「夜の公園」はち
ょっと違う。けっこう、まっすぐな物語だ。
登場人物は、主人公の主婦リリ、彼女が好意を持つ青年の暁、リリの
夫の幸男、幸男の不倫相手春名。リリと春名が親友だったりして、なか
なか複雑だ。とは言っても、そこは川上弘美、確かにW不倫であるが、
描かれているのはドロドロとした恋愛模様ではなく、彼ら四人の心の襞。
その細部にまで入り込んでいく。そこで明らかになるのは、だれもが自
分の心を持て余しているという事実だ。それでも彼女たちは人を愛し、
人と交わり、日々を暮らして行く。その描写にウソを感じないのもさす
がである。「わたし、いったい今、どこにいるんだろう」「わたしいま、
しあわせなのかな」「どうしてわたし、今ここにいるんだろう」と幾度
となくひとりごちるリリ。不安定な中で何かを確かめるように彼女はつ
ぶやく。
小説は各章ごとに視点が変わっていき、最終章ではそれが渾然一体と
なってリリの独白にいきつく。ラスト、彼女は自らの心からも、他人の
心からも、身の回りのいろいろなものからも解き放たれたいと願う。そ
の静かで力強い覚悟が気持ちいい。
ブログ「声が聞こえたら、きっと探しに行くから」より
紙の本
数々の名作を発表しておられる川上弘美氏によるたゆたいながら変わりゆく4人の男女の関係をそれぞれの視点で描き出した長編恋小説です!
2020/08/21 09:24
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投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、『神様』(パスカル短篇文学新人賞)、『蛇を踏む』(芥川賞)、『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)、『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)など数々の名作を発表しておられる川上弘美氏の作品です。同書は、申し分のない夫と、35年ローンで購入したマンションに暮らすリリが主人公です。このまま一生、こういうふうに過ぎてゆくのかもしれないと思っていた矢先、リリは夜の公園で9歳年下の青年に出会います。そこから人生にいろいろな変化が現れてきます。「寄り添っているのに思いが届かないのはなぜなのでしょうか?」 たゆたいながら変わりゆく男女4人の関係をそれぞれの視点で描き出した恋愛長編小説です。
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いままでになく性描写がある…ような。
個人的にリリと暁くんがくっついたらいいなぁ〜という俗っぽいことを思っていましたが、そうはならなかった…。
電車内で読むにはちと緊張する本でした。
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川上弘美さんの恋愛モノでこういう感じのは珍しいように思いました。
(ちょっと江國香織さんっぽいと思いました)
いつものちょっぴりフワフワした感じを思いながら読んだらドロドロで、意外で驚きました。
リリはふわふわな感じですが、この後どうするのかなぁ、と思いました。
でも、こういう人が意外にしたたかに生きていくのかな。
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結構ドロッとした内容にも関わらず、サラリとした印象を持って読めた作品です。
さすが川上弘美氏、といったところだろうか。
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川上サンらしくない。
でも、好きかも。
生活感がある。
生活する、毎日がある、生きている、進んでく。
リリは自由だ。
みんな、自由だ。
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「申し分のない」夫と、35年ローンのマンションに暮らすリリ。このまま一生、こういうふうに過ぎてゆくのかもしれない・・・。そんなとき、リリは夜の公園で9歳年下の青年に出会う・・。寄り添っているのに、届かないのはなぜ。たゆたいながら確かに変わりゆく男女4人の関係を、それぞれの視点で描き出し、恋愛の現実に深く分け入る長編。
申し分のない夫と・・マンションと・・現実的です・笑。川上さんはとてもすうっと残酷。たいしたことないようにたいしたことを書いてしまう。すごいです。劇的でない劇的。リリの気持ちはわからないではないけれど、どうかな。
「そうそうものごとは唐突におこるものではない。女との破綻は、必ずその前兆がどこかにほの見えているはずなのだ。ただそれを直視するかしないか、というだけのことだ。」そのとおり・・と思いました。
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ミステリーのインターバルに、いわゆる「恋愛物」を読んでみた。
しかし、最初の3ページぐらいで、主人公の勝手さに、思わず投げ出したくなったけど、男女4人の視点で描かれる物語は、自分の本音を代弁してくれているようで・・・
特に主人公の親友で、主人公の夫と平気で不倫する春名に自分を重ね合わせてしまった。
女35歳。
しっかりしていそうで、まだまだ揺れる年代なんだと、代弁してくれているような作品。
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情報科教員MTのBlog (『夜の公園』を読了!!)
https://willpwr.blog.jp/archives/51241389.html
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「申し分のない」夫と、三十五年ローンのマンションに暮らすリリ。このまま一生、こういうふうに過ぎてゆくのかもしれない…。そんなとき、リリは夜の公園で九歳年下の青年に出会う—。寄り添っているのに、届かないのはなぜ。たゆたいながら確かに変わりゆく男女四人の関係を、それぞれの視点が描き出し、恋愛の現実に深く分け入る長篇小説。
不倫ものだけど、修羅場とか緊迫感とかがまったくない川上ワールド。
ゆっくりしてるけど、確実に進んでいく。
それぞれの視点から描かれていて、誰もがすごく人間らしくて憎めない感じ。
最後はそれぞれに再生が訪れているように思った。
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不倫のお話です。男女四人それぞれの違った視点で、その関係と心の動きが描かれています。本来ならばドロドロしたやりきれないお話になるんでしょうが、なんだかふわふわと柔らかい印象を醸し出してくれるのが、川上弘美さんの魅力ですね。
ひとを好きになるとは、いったいどういうことでしょう?愛するって、いったいなんなのでしょう?ぼんやりした不安。そこはかとないやるせなさ・・・・・気づかないふりして見過ごしていれば、それなりに申し分のない暮らしであるはずなのに。。。。。ひとは寂しいから求め合うのか?それとも、求め合うから寂しくなるのでしょうか?道を踏みはずしただとか、見失っただとか、見誤っただとか、迷ってしまっただとか、そんなの嘘かもしれません。だって、人生には、はじめから道なんて用意されていないんですから。結局ひとは、手探りしながら、ひとりぼっちで歩んでいくしかないのかもしれませんね。
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王様のブランチから生まれたというブックガイドを見て、読んでみた本。
つくづく恋愛小説には向いていないな、自分は。
ただ、あと一冊くらいは、この作家の本を読んでみようと思う。
なぜそう思ったのか…?
松田さんの紹介のレビューに興味をそそられたから。
それでも、登場人物に共感しにくいのに、
確かにこんなこと考えているな、と思うところもあって、
(考えが、というんじゃなくて、自問自答の様子とか)
それがいやじゃなかったから、読んでみようと思ったというのもあると思う。
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読んでいて楽しい本ではないけれど、それぞれに勝手なタイミングで気持ちが揺れ動く過程の表現が、カワカミさんらしなあ、と思う。真鶴」が個人的にはあんまりだっただけに、この話はそこそこ面白かった。
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川上弘美の小説は、設定が際立って斬新というわけではない。
「夜の公園」も同様、男女4人の恋愛・不倫、といってしまえばありきたりとも言えるのかもしれない。
しかし、そのいわゆるベタさがあまり不快ではない。というか、むしろ作品を織りなす愛すべき一要素となっているのだ。
リリは夫・幸夫と2人一見平穏そうな日々を過ごしているが、リリは夜の公園で出会った年下の青年・暁と、幸夫はリリの同級生・春名と恋愛関係にある。しかし、そこに修羅場めいたものは少ない。リリは幸夫を愛していないのだがかといって暁を愛しているという感じでもなく、幸夫にいたっては春名への思いもリリへの思いも独立させて扱っているし、春名は友人の夫を誘惑したことに罪悪感らしきものは少ない。
このように、彼らは夫婦・友人といった表在的な関係には関心が乏しい。
しかし、その時々の思いや感覚にはあきれるほどに誠実だ。
些細なことから感じる違和感を見過ごすことができない人たちなのだ。
言葉にできるものたちで事象を説明した気になるのは容易いだろう。
ただ、その言葉は非言語的なはかない移ろいをともすれば抑圧したり消し去ったりしてはいないか。
川上作品ではそうしたはかないものたちを、文章ではもちろんのことやや難解な単語や詩的な韻をもって表現する。冒頭で取り上げた平凡と取られかねない設定によっても光が当てられる。
リリカルかつフィジカルであるのに驚くほど静か、でも日常的。
私たちが普通にもっているけれど永続はしない心の機微を、静かな確信をもって浮かび上がらせているような川上手法に、今回もまた職人的魅力を感じ、引き付けられてしまった。
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男女4人の関係の変化が、それぞれの視点から淡々と描かれる。
男女の話のようでいて、女性二人の間の執着の話のように感じた。