シミシミした感じ
2008/06/19 15:30
5人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:けんいち - この投稿者のレビュー一覧を見る
川上弘美が、(分量的に)ながい小説を書いた。その嚆矢となったのが、本書であり、それは新聞の連載小説だった。「神様」のような、みじかくて素晴らしい小説を書いてきた川上弘美だから、周囲は不安を感じもしたが、それは杞憂に終わり、こうして目の前には『光ってみえるもの、あれは』がある。
高校生を主人公とした本書は、川上弘美らしい「妙」な登場人物を絡めることで、どっぷりと日常につかった小説世界を、いつしか非日常的なものへと導いていく。しかもそれは、日常のリアリティを失うことないままに。そこには、連載形式が要請する断片化が、うまく関わっているように見える。淡々とした日常、区切られる展開、そのことで、速度があがらずに、盛り上がりもこまぎれな中で、それでいて(物理的に)続いていく小説。それは、あたかも、日々を1日くぎりで生きる私たちの営みのようではないか。
感触としては、綿矢りさの『蹴りたい背中』を思わせもする本書だが、やはり一番異なるのは独特の語感で、「シミシミした感じ」などはその最たるものだろう。ゆるく、ひらかれた青春小説、それが本書だ。
矛盾しながらも守られた環境の中で「自分」探しをしてたどり着いたのが、島だった。
2006/12/17 13:53
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:佐々木 昇 - この投稿者のレビュー一覧を見る
昔、テレビの人形劇で見ていた「ひょっこりひょうたん島」は突然の天変地異で半島が島になり、たまたま遠足に来ていた子ども達やわけありの人々を乗せたまま、地球を放浪するはめになった。毎夕、毎夕、はらはらどきどきの展開にテレビにかじりついていたものだった。
この小説もさてさてとページをめくったものの、なにかわけありの人々に囲まれた主人公である翠の日常に興味が湧いて、はらはらどきどきのストーリーに引き込まれていってしまった。
いったい、ぜんたい、つかみようのない翠の家族とその家族にまとわりつく闖入者の男。翠のガールフレンドと小学校時代からの翠の友人。これらが巻き起こす小さな日常の中の事件がありそうでいて、ありそうでない日常だけれど、もしかしたら広い世間にはこういった家族というか集団がいるのかもと想ってしまう。
そして、どこからどうして長崎県の小値賀島に行き着くのか。
やはり、青年は荒野を目指さなければ話は飛躍しないのだろうか。
その意外な展開というか、自分探しの結末にひょうたん島が再びぴったりとくっついた感じであるが、この小説を読んでいて三田誠広氏の『僕って何』を思い出してしまった。
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作者名をふせられたら、きっと誰が書いたか分からないだろう。前半は( )が多く、江國っぽい。くまの神様の頃に戻ってほしい。
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本日からのお供。16歳の男の子が主人公。川上弘美はいつもオトナの世界を書いてるイメージなんだけど、主人公が高校生なんてめずらしく思って買ってしまった。まだ読み途中だけど、川上弘美の話っていつもふわふわしててなんか掴みどころがない感じで気がついたら読み終わってそうだなぁ。
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ああ、やっぱり僕は早く大人になりたい―友がいて、恋人がいて、ちょっぴり規格はずれの「家族が」いて。いつだって「ふつう」なのに、なんだか不自由。生きることへの小さな違和感を抱えた、江戸翠、十六歳の夏。みずみずしい青春の物語。
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超おもしろかった…!
どんどん読み進めてしまった。
どうでもいいけど私は最後まで翠(みどり)くんを翠(すい)くんだと思い込んで読んでました。
しまった…今更変えれない。
やっぱ同世代の少年少女物語っていいなぁと思いました。
なんてゆうか、こう、学生時代の、思春期特有の甘酸っぱさとか青臭さとか、混沌とかが漂ってて、それがリアルに共感させてくれる ような気がする。
うーん。うまく言えないなぁ…
とりあえず、共感できるところが節々にいっぱいあっていいよね!って言いたかったんですかね、はい。
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翠君が可愛い(笑)今まで読んだ川上弘美の作品の中で個人的に一番良かったな、と。読みやすい文章で簡素だけれど、噴出し笑いをしてしまう(好い意味で)灰汁の強い登場人物。翠君を始めとしたちょっと風変わりな周りの人々。翠君を通して語られる交流。
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甘苦いお話。
16歳の翠君と花田と平山水絵。
汗など表現がみずみずしくって、暑苦しかったりした日々を感覚で思い返しちゃう。
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2007/3/20 読了
上手い!
ここ最近、すっきりした読後感の作品とご無沙汰だったのでとても良かった!
「先生の鞄」もそうだったけど、普通の(といってもそれなりにハプニングは起きるが)日常を淡々と描きながらも、そこにいる登場人物の存在感が感じられる筆力はさすがである。
若い頃の茫とした不安や、いろいろな問題を抱えながらもしたたか?でしなやか、でも一生懸命生きるオトナ達のさまがよく描かれている。爽やかで、切ないような、忘れていた感覚を思い出させてくれるような、清々しい読後感だ。
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おとこのこになってみたいなぁ、と思った。
生まれ変わってもおんなのこに生まれたいんだけれども。
でも、おとこのこになってみたいなぁ、と思った。
すごく面白かったわけじゃないけど、なぁんかいいなぁっていう感じ。
川上弘美っぽいようなぽくないような。
南の島に行きたいです。
(07/04/27)
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ああ、やっぱり僕は早く大人になりたい―友がいて、恋人がいて、ちょっぴり規格はずれの「家族が」いて。いつだって「ふつう」なのに、なんだか不自由。生きることへの小さな違和感を抱えた、江戸翠、十六歳の夏。みずみずしい青春の物語
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「ああ、やっぱり僕は早く大人になりたい。僕はつぶやく。大人になって自由になりたい。けれどよく考えてみれば、今の僕の状態こそが実は自由な状態なのかもしれない。自由とは、なんとよるべないものなんだろう。自由とは、なんとこころぼそいものなんだろう。」分かるな、この焦燥。
大人になりたい、自由になりたい、でも自由はよるべなくてそれは大人になってもそうなのかなって気付き始めてる思春期特有の物思い。「世界って、どんな世界。」翠くんの言葉はいつもまっすぐ心に響く。あと、あまりにも自分が平山水絵にかさなって、翠くんに本気であやまりたくなります。女って、めんどくさいよね。
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環境とか、起こる事件とかは
けっこう深刻だったり大変だったりするのにすごいゆるりとした空気。
でもそんな淡々とした中でも
生きる上で大切なことたくさん突いてる。
「親子の大切さー!」やら
「素直に気持ちを伝える大事さー!」やらを全面に押し出してるものより、
こんなふうにさりげなく突いてくるものの方がしんみりくるな。単なる「おむすび」でも川上弘美が言うとすごいおいしそうに聞こえる。不思議。
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生きるって趣があっていい。こんなに達観した16歳もどうかと思うけど、自分はこんなに侘び寂びないから、憧れますです。
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何年かぶりに再読。
上手く言えないけどわたしはやっぱりこの小説がすきだな。
「うろうろ生きて、で、それで?」なんてことを高校生で考えている翠がすきなのかもしれない。
そして、江戸家の人々がいい。
そして翠の周りのキタガーくんや平山水絵もいい。
「自由とは、なんとよるべないものなんだろう」という翠の気持ちに、はっとさせられるというか、そうなのかもしれないなぁ、と思ったりした。
この本は文庫になったときにすぐ買って読んで、それがたぶん3年前ぐらいだから、ずいぶん久しぶりだったな。