紙の本
興味深い内容の数々
2022/04/15 16:23
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投稿者:読書の冬 - この投稿者のレビュー一覧を見る
老いに抗う、もしくは老い自体を回避する、最近の言葉で言えばアンチエイジングということになるのでしょうか。それについての論理が展開されています。個人的には長寿遺伝子を活発化するための方法論が1番興味深かったです。寒さを受け入れることが老いへの抵抗になることに驚きました。
紙の本
論理的かつ科学的
2022/02/19 17:41
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投稿者:fks - この投稿者のレビュー一覧を見る
老いを遅らせたり防止したりするための原理と解決方法について詳細に記述されている。根拠から科学的に説明してくれるのはすごくよかった。
電子書籍
読みごたえがあった
2020/10/30 17:17
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投稿者:いのぜい - この投稿者のレビュー一覧を見る
読みごたえがあった、ということを実感した。
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【はじめに】
ハーバード大学医学部の遺伝学の教授であり老化研究の権威であるデビッド・シンクレアの手による「老化克服」を説いた本。老化は病気であり、治療することができ、治療するべきであると主張する。今後の健康寿命を延ばすための鍵になる理論を展開している。
副題は"Why We Age - and Why We Don't Have To"。本書の内容はまさしくその通りで、老化のメカニズムの解説の後、老化を運命として受け入れるのではなく、今できることも含めて対策を提案するものである。
『LIFE SHIFT』でリンダ・グラットンは、日本で今日生まれた子供の半数は107歳以上生きると推計されると言った。その根拠のいくばくかがこの本にあると言っていい。著者がハーバード大学教授であると言われないと本当かいなと思うところもあるが、懇切丁寧に説明されると、いやここまで来たのだというのが正しいのだろうなと思えるのだ。
「老化は1個の病気である。私はそう確信している。その病気は治療可能であり、私たちが生きているあいだに治せるようになると信じている。そうなれば、人間の健康に対する私たちの見方は根底からくつがえるだろう」
「地球上で最も致死性が高く、最もコストのかかる病気が目の前にあるのに、それについて研究している者はわずかしかいない。まるで、この惑星全体が思考停止に陥っているかのようだ」
というのが著者の思いである。それでは、どういうことが書かれているのか、まずは「老化」とは何なのか、そして老化を防止するためにはどうすればよいのかを見ていきたい。
【老化とは】
著者は、「老化は病気である」という。つまり、老化には原因(病因)があり、その原因は取り除く(治療する)ことができるということを意味する。しかも、この「老化」という病気は、非常に高い罹患率(ほぼ100%)を誇り、他の多くの疾病を引き起こす万病のもとともなる病気なのである。
老化の原因は、細胞分裂で繰り返される遺伝子のコピーの劣化が原因ではないかと長らく思われていた。テロメアの数が減っていくことが明らかになり、細胞分裂の回数(当然歳を取ると累積回数は増える)が深く関連していることからコピーの劣化という推測は腹落ちしやすいものであった。また、進化の過程で老化による個体の新陳代謝が有利となるために、老化を進める遺伝子があるのではないかとも想定されてきた。また、フリーラジカルが細胞を傷つけることによって老化するという説も根強くサポートされてきた。
しかし、著者が主張する理論はデジタル情報であるDNAの劣化ではなく、細胞の分化に関わり、アナログ情報でもあるエピジェネティックの劣化が原因だと指摘する。エピジェネティックは、DNAメチル化やヒストンの化学的修飾などによって各細胞の中でどのゲノムがどの程度発現するのかを調整するための仕組みだが、繰り返すが遺伝子のようにデジタルではなく、アナログな情報である。このアナログであるがゆえに時間の経過にともなって劣化し、細胞の分化が緩み、その場で働くべき機能を徐々に果たさなくなるというのである。
そのエピジェネティクスを維持するための機構がサーチュインと呼��れるものである。古代の生物の頃より、DNAのエピジェネティックの修復をできるようになった遺伝子群があり、それを今もなおサーチュイン遺伝子として人間を含む多くの生物が保持しているという。また、この仕組みはDNAの傷を修復するためにも活用されている。著者はこの仕組みを原初のサバイバル回路と呼ぶが、この仕組みが皮肉にも細胞の劣化を起こす老化の原因となっていると指摘する。さらに、これが生物が老化する唯一の原因だとするのだ。
およそ、細胞老化の仕組みがわかってきた、として著者は次のように宣言する。
「今現在の老化研究は、1960年代のがん研究と似たような段階にある。老化がどのようなもので、私たちにどんな影響を及ぼすものなのかについては、すでに十分な理解がある。しかも、老化の原因は何か、どうすればそれを食い止められるのかについても、研究者のあいだで意見の一致を見つつある。この様子で行くと、老化を治療するのはそれほど難しくなさそうだ。少なくとも、がんを治療させるよりはるかに簡単なはずである」
「若さ→DNAの損傷→ゲノムの不安定化→エピゲノムの混乱→細胞のアイデンティティの喪失→細胞の老化→病気→死」
というステップが老化を説明するものであり、このステップのどこかに介入することが老化を抑えることにつながるのだ。幹細胞が分化して特定の体細胞になるイメージを理解するには著者が紹介する「ウォディントンの地形」が分かりやすい。この地形の中でビー玉の安定性が失われるのが老化だという。したがって、この安定性を維持することが老化に抗う秘訣なのである。
著者は、この細胞劣化による老化の統合理論を「老化の情報理論(Information Theory of Aging)」と呼んでいる。つまり「老化とは情報(=エピジェネティック)の喪失にほかならない」というのである。それにしても「エントロピー」は、様々な分野において”統合理論”を作ろうとする学者の中ではすこぶる評判がよい。意識についてもジュリオ・トノーニが統合情報理論(Integrated information theory of consciousness, 略: IIT)を確立し、エーデルマンがTNGS理論(神経細胞群選択説(Theory of Neuronal Group Selection))を提唱しているが、ここでもエントロピー含む情報理論が原理として採用されている。もちろん生命自体についても、スチュアート・カウフマンがまとめる自己組織の理論・複雑系の理論が柱となっており、ここでもベースはエントロピー・情報理論なのである。話はそれるが、エントロピーを含む情報理論こそがより根源的なものなのかもしれない。
【老化を防止する方法】
生体にストレスがかかると活性化するということから、著者は今すぐにできる対策として、カロリー制限(断食など)、動物性タンパク摂取量低減、特に加工肉を避ける、適度な運動、サウナや冷水につかるなどの健康法の説明が列挙される。カロリー制限などは最近かなり知れ渡っている印象がある。また、タバコは絶対にやめることだ。
これらを聞くと、結局当たり前の話に毛が生えた程度かと思うかもしれないが、ここからがおそらくはポイントとなる話だ。つまり、「老化治療薬」の可能性だ。
まず効果があるのではと見つかったのが、まず、糖尿病治療薬のメトホルミンである。日本では糖尿病の診断がないと処方されないが、国によっては入手可能な薬である。
ワインにも含まれるレスベラトロールも老化を抑える働きがあるとして注目されている。ブドウにストレスを与えたときに抽出し凝縮されたこの物質がSir2酵素を活性化する形で働くという。この効果はもしかしたらワイン好きのフランス人のパラドクスを説明してくれるかもしれない。何より重要なのはサーチュインが化学物質で活性化できるという事実である。この事実から科学者の目標が、より効率よくサーチュインを活性化する物質を探すという具体的な目標に翻訳することができるのである。
そして見つけられたのがNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)である。この物質がサーチュインの働きに必須な物質であることを発見したのは日本人研究者の今井眞一郎である。今井氏は今もその道の第一人者としてワシントン大学で研究を続けており、かつてサーチュイン遺伝子のSIRT1遺伝子やSIRT6遺伝子のコピーを増やすと健康状態が伸びるということも著者のシンクレア氏との共同研究で発見している。
このNADを増やすための前駆体が、知っている人は知っている比較的高価なサプリとしても販売されもしているNMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)である。マウスへのNMNの注射の実験では、ミトコンドリアの働きが回復したり、糖尿病が治癒したり、持久力を向上させることが分かっている。ちなみに人間でもNMNを摂取したことによって閉経後の女性が生理が復活したという例も報告されている。加齢とともに細胞内のNAD濃度が下がることがわかっているだけに、この濃度を人為的に上げることでエピゲノムの雑音を除去して細胞の活性化を促すことが可能となるかもしれないと大いに期待されている。
老化のメカニズムに狙いを付けられたおかげで、NAD以外にもAMPK活性化分子、TOR阻害分子も期待されている。今もなお多くの分子が抗老化薬のターゲットとして検討されていて、初期臨床試験でも高い効果を発揮しているものもあるという。
また、これらの化学物質の他にも、老化を踏み止まらせるためのいくつかの研究が進んでいる。まずは老化細胞の除去が挙げられる。テロメアの短縮が老化を引き起こすのは、ヒストンの巻きつきが緩んで、そこからエピジェネティックの情報が失われるからだとされている。このとき、DNAが損傷したときと同じ反応が生じ、エピゲノム調節酵素が本来の持ち場から駆り出されてしまう。また、老化細胞(ゾンビ細胞)は、サイトカインを放出し続けて、炎症を起こし免疫細胞のマクロファージを引き寄せて組織を攻撃させることになる。そして、ゾンビ細胞はまわりの細胞もゾンビ化させる。こういった機構も、老化が始まり、放置するとどんどん進んでいってしまう原因のひとつでもある。この厄介もののゾンビ細胞を除去する薬として期待されているのが2018年から臨床試験が始まったセノリティックスである。こちらの薬に関しても数多くの研究が進んでいる。同じように、がん細胞を死滅させるために開発された免疫チェックポイント阻害剤を同じように老化細胞に対して選択的に免疫が効くようにすることができないかというのも新しい研究の方向になっている。
最後に挙げられるのが「細胞のリプログラミング」だ。細胞において、ウォディントンの地形を再読み込みさせる方法があれば、老化をもとに戻すことができる。著者はこれをDVDの表面に付いた傷を修復することに譬える。古い体細胞でも遺伝子情報が保持されていることは、体細胞からクローン生物を作ることができることから示されている。リプログラミングの鍵となるものとして著者が挙げるのが、山中教授が発見したiPS細胞と山中因子である。著者の研究室ではマウスでエピゲノムを若返らせる研究を日々行っており、多くの成果が上がっているという。その事例としてマウスの視神経を、ウイルスを使って山中因子を導入することで回復させた事例が報告されている。著者は老化の情報理論に基づくエピゲノムの劣化に直接働きかけるこの細胞のリプログラミングを老化治療の本命と見ているようでもある。もし細胞のリプログラミングが実現すれば、今世紀末までに150歳が手の届く年齢になっている可能性があるという。
【所感】
非常に分厚い本だが(kindleなので実際に厚くはないのだが)、その長さがあまり苦にならない本であった。老化という遅かれ早かれ世のほとんどの人が自分事化せざるを得ない内容であるからだ。
『ホモ・デウス』でユヴァル・ノア・ハラリが預言をしたように飢餓、疫病、戦争を克服した人類の欲望は、いまや人類が手にした科学技術の力で不老不死を目指すのは必然の帰結である。技術が加速度的に進歩する時代、方向性さえ一度示されればおそらくは想像よりも早くそこに達することができるのではないか。
リチャード・ファインマンは次のように語ったという。
「生体のふるまいを調べても、死が避けがたいことを示すものはまだ何一つ見つかっていない。だとすれば死とは少しも必然ではなく、この厄介事の原因を生物学者が発見するのも時間の問題と思われる」
そして今、死が避けがたいことを示すものを見つける代わりに、人類は老化のメカニズムとそこにブレーキを掛ける方法を手に入れつつある。そして、そのメカニズムに対応を行うことが期待されているのである。すでに研究者の間の国際会議では、人間の寿命が10年長くなるとどうなるのかが議論され、そういう未来が来るかどうかはもはや議論には上がらない。そうなったときに何をすべきなのかが話合われているという。
現実にそうなると、多くのことが変わる。例えば、健康寿命が大幅に増えたことがわかると、より死にたくない気持ちが高まることでバイオデータをリアルタイムで測定するセンサーを身につけることがより一般的になるかもしれない。取得されるデータでより多くのことができることがわかるとすれば、喜んでセンサーを身につけて情報を提供してくれることだろう。また、社会的システムへの影響もおそらく甚大だ。90歳で人が働くことは、今の世の中では想定外だが、いずれは当たり前の光景になるだろう。現在もうすでに中年となってしまったわれわれはそれに慣れないといけない。
著者の研究室では、経済学者とも手を組んで、長寿の未来の社会の予測モデルづくりを進めているという。変数は非常に多く、その予測は難しい。老化防止を受けることができるかどうかにも格差も題が広がり、さらに大きな問題になり続けるかもしれない。労働や教育にも影響���与える話である。未来学者はリアルに企業戦略上も必要な職種にさえなるかもしれない。
なお、ここで気を付けるべきは平均寿命が伸びるのと、健康寿命が伸びることは本質的に異なることだということだ。健康寿命を延ばすことは、社会の投資は何倍にもなって戻ってくる。寿命を長くするのと、健康寿命を長くするのとでは社会や経済に与える影響では全く異なるものとなるのだ。
タバコはがんになるリスクを5倍に引き上げるという。もちろんだからこそタバコは健康に害をなしていると言えるのだが、一方で人間は50歳になるだけでがんのリスクは100倍になり、70歳になると1000倍になるという。老化はこれだけ忌み嫌われているタバコと比べても相当に分が悪い。これは運命として受け入れるのではなく、抗うことができるし、また抗うべきなのだということが書かれた本。その運命に人類はもはや従わなくてもよい時代がやってくるのだ。
扱っているスケールが非常に大きな本。また射程が広いものの、足元の事実にはしっかりと軸を置いている。長くて読めそうにないという人は中田敦彦のYouTube大学をぜひ見られたし。現代人必須の情報。
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『自己組織化と進化の論理―宇宙を貫く複雑系の法則』(スチュアート・カウフマン)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4480091246
『脳は空より広いか―「私」という現象を考える』(ジェラルド・M・エーデルマン)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4794215452
『意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論』(ジュリオ・トノーニ)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4750514500
『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4492533877
中田敦彦のYouTube大学
https://www.youtube.com/watch?v=Nw1r2G5HgEA
https://www.youtube.com/watch?v=N6ZBIbrJ5Qg
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著者のD.シンクレアはちゃんとした研究者で、ちゃんとした雑誌に論文も多数掲載されているというのが「スマホ脳」とはちょっと違うところ。
前半は随分前のNHKのドキュメンタリー番組で見た内容とほぼ一緒
すなわち、老化は病気で治療可能なものであり、現在考えられているヒトの寿命である120歳を越え、しかも健康的に生きることが可能だという。たとえば、喫煙はがんのリスクを5倍高めると言われるが、。50歳になるだけで100倍。70歳になると1000倍になる。心臓病や糖尿病など、老化に伴う疾患は数多い。老化を治療することで、これらの病気も治療できる。
後半は本格的に長寿社会を迎えた場合の問題点(社会保障制度とか移植用臓器を3Dプリンタで作成するとか)についても語られるがこちらは今ひとつ。前半部分だけで十分かも。
老化は複合的な要因によって起きる
・DNAの損傷によってゲノムが不安定になる
・染色体の末端を保護するテロメア(特徴的な反復配列をもつDNAとタンパク質からなる複合体)が短くなる
・遺伝子スイッチのオンオフを調節するエピゲノムが変化する
・タンパク質の正常な働き(これを恒常性という)が失われる
・代謝の変化によって、栄養状態の感知メカニズムがうまく調節できなくなる
・ミトコンドリアの機能が衰える
・ゾンビのような老化細胞が蓄積して健康な細胞に炎症を起こす
・幹細胞が使い尽くされる
・細胞間情報伝達が異常をきたして炎症性分子がつくられる
特に重要なのがエピゲノムの乱れで、通常、エピゲノムは細胞の分化など初期に作用するだけだと思われているが、老化に伴い乱れてくる。そのため、皮膚細胞が皮膚細胞として機能しなくなるなどの問題が起こってきて機能しなくなる。
エピゲノム化に重要なのがサーチュインであるが、これはNADを使う。NADが細胞質内のSIRT2酵素の活性を高める。NADは加齢とともに減少するのでその前駆物質を補充してやらないといけない。体内ではNRがNMNに変換され、NADはに変わる。NRがをサプリとして飲んでいるヒトも多いがNMNのほうが安定しており効果が高いのではないかと著者は推測している。(研究としてはNRを用いたものが多い)
他にも古い蛋白の分解やDNAの修復、老化細胞によって引き起こされた炎症を軽減するmTOR、代謝をコントロールして絵ネギーレベルの低下に対処するAMPKなどの遺伝子も重要。これらは生体にストレスがかかると始動するので、低タンパク食やカロリー制限を行う。具体的には野菜や豆類や全粒の穀物を多く摂り、肉や乳製品や砂糖を控える。カロリー制限は20%ほど続けると長寿をもたらすという事例はたくさん知られているが、ずっとやる必要はなく、間欠的断食でよい。
・現時点で人気のある方法には、朝食を抜いて遅い昼食をとるもの(「16:8ダイエット」)や、週に2日はカロリーを75%に減らすもの(「5:2ダイエット」)がある。もう少し挑戦したいなら、週に2~3日は食物をいっさい摂らない(「イート・ストップ・イート法」)のもいい。あるいは、健康問題の権威であるピーター・アッティア医師が実践しているように、毎月丸々1週間を空腹で過ごしても���い。
・年齢集団において異なる種類の運動の効果を調べた。すると、プラスの健康効果をもつ運動形態はいくつもあったが、健康を増進する遺伝子を一番多く活性化したのは「高強度インターバルトレーニング(HIIT)」だった。これを行なうと、心拍数や呼吸数が著しく上昇する。高齢の被験者ほど、HIITによる活性化効果が大きかった
・ラパマイシンと同様、メトホルミンを摂取した場合もカロリー制限に似た効果が現われる。ただし、ラパマイシンのようにTORを阻害するのではなく、ミトコンドリアの代謝反応を制限する方向に働く。ミトコンドリアは「細胞の発電所」ともいわれ、ブドウ糖などをエネルギーに変換する仕事をしているが、メトホルミンにはこのプロセスを遅らせる作用があるのだ★20。すると、AMPK(AMP活性化プロテインキナーゼ)が活性化する。AMPKは酵素の一種で、エネルギー量が低下したときにミトコンドリアの機能を回復させる機能をもつ。メトホルミンはSIRT1(私たちの研究室のお気に入りの酵素)の活性も高める。ほかにも、がん細胞の代謝を抑えたり、ミトコンドリアの数を増やしたり(ミトコンドリアの機能低下を補うために細胞がミトコンドリアをより多く生成しようとするため)、折りたたみ不全のタンパク質を除去したりする効果が明らかになっている
・レスベラトロールに関する著者らの研究は一時期話題となった(Nature,425, 191-196, 2003)が、これはマウスでの結果。ヒトで同じ量を摂取しようとすると毎日赤ワインを1,000杯のむ必要がある。
・有名な老化説としてフリーラジカル説がある。これは現在では完全に誤りとされている。たしかにフリーラジカルはDNAを傷つけるが、実験的にフリーラジカルを増加させたマウスでも老化の昇降あ認められなかった。抗酸化剤の投与も寿命を延ばす効果はなかった。
・では私は何をしているのか。
・NMN1グラム(1000ミリグラム)、レスベラトロール1グラム(自家製ヨーグルト★7 に振り入れて混ぜる)、およびメトホルミン1グラムを毎朝摂取する。
・ビタミンDおよびK2の1日推奨量を摂取し、83ミリグラムのアスピリンを服用する。
・砂糖、パン、パスタの摂取量をできるだけ少なくする。デザートを食べるのは40歳でやめたが、こっそり味見することはある。
・1日のどれか1食を抜くか、少なくともごく少量に抑えるようにする。スケジュールが詰まっているおかげで、たいてい昼食を食べ損なっている。
・数か月に一度、専門家が自宅にやって来て私の血液を採取し、それを私は数十個のバイオマーカーについて分析してきた。どれかのマーカーが最適値を外れていたら、食物や運動を通じて修正する。
・毎日できるだけ歩くことを心掛け、上の階に行く際には階段を使うようにしている。週末はほとんど毎週、下の息子ベンと一緒にジムに行く。ジムではバーベルを挙げ、少しジョギングをし、サウナでしばらく過ごしてから、氷のように冷たい水風呂に漬かっている。
・植物をたくさん摂取し、ほかの哺乳類を口にするのはなるべく避けるようにしている(おいしいのはわかっているのだが)。運動したときには肉を食べる。
・タバコは吸わない。電子レンジにかけたプラスチックや、過度な紫外線や、レントゲンやCTス���ャンを避けるようにしている。
・日中と就寝時は、涼しい場所にいるようにする。
・健康寿命を延ばすうえで最適の範囲内にBMI(体重[キログラム]を身長[メートル]の2乗で割った数値)を保つ保つことを目指している。私の場合はそれが23~25である。
日に50回くらいはサプリメントについて訊かれる。答える前に断っておくが、私は特定のサプリメントを推薦することはないし、商品の試験や研究にも携わっていない。もちろん効能を保証することもない。私の推薦であるかのように謳った商品があれば、間違いなく詐欺だ。サプリメントは医薬品に比べて規制がはるかに緩い。だから、私が実際にサプリメントを摂取するときには、評判のいい大手のメーカーを探し、できるだけ純度の高い分子(目安は98%超)で、ラベルに「GMP」の文字が記載されているものを選ぶ。これは、アメリカ食品医薬品局(FDA)の定める「優良製造規則」に則った商品という意味だ。NR(ニコチンアミドリボシド)は体内でNMNに変換されるので、NMNではなく安価なNRを摂取する人もいる。ナイアシンやニコチンアミドはさらに低価格だが、NMNやNRほどNAD濃度を上昇させる効果はないようだ。
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老化を病気ととらえるのは、かなりのパラダイムシフトかなと。
病気であるならば予防や治療が可能になるので、健康寿命が延びるのであればやりたいことの範囲が広がる世の中になるのかなと思いました。
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2021.5.1-8 週刊東洋経済付録に超要約版あり
・老化は治療可能な病気
・がんを完治できても平均寿命は2年しか伸びない。老化によって他の病気になる確率が指数関数的に上昇するから。
・生命に寿命があるのは生殖の副作用。限られたエネルギーや資源を生殖に利用するために長寿を犠牲にした。
・肉、乳製品、砂糖は寿命を縮める
・食事の量と回数を減らすことは老化を防ぐ。間欠的な絶食も効果あり(月に5日間だけ極端にカロリーを制限するなど)。
・サバイバルな環境では長寿遺伝子がストレスを受け取って健康的な脂肪を増やしてくれる。快適ではない寒さに見を晒すのも一つの方法。断食と同じく限界に近づくのは良いが限界を超えると逆効果。
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<目次>
はじめに~いつまでも若々しくありたいという願い
第1部 私たちは何を知っているのか(過去)
第1章 老化の唯一の原因~原初のサバイバル回路
第2章 弾き方を忘れたピアニスト
第3章 万人を蝕む見えざる病気
第2部 私たちは何を学びつつあるのか(現在)
第4章 あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法
第5章 老化を治療する薬
第6章 若く健康な未来への躍進
第7章 医療におけるイノベーション
第3部 私たちはどこへ行くのか(未来)
第8章 未来の世界はこうなる
第9章 私たちが築くべき未来
<内容>
「老化」。誰もが免れ得なく、どんどんと体を蝕み、やがて消えていく。そう考えていた。第1部では、しかし、現代医学の最先端ではそうは考えない。「老化」は「病気」であり、治すことができる。あまつさえ「防止」することもできる。著者はそう語る。「老化」の原因は、そしてすべての病気の原因は、遺伝子にある。われわれの遺伝子はアナログであり、コピーを繰り返すうちに劣化する。劣化した結果、コピーを間違えたり、遺伝子がちぎれたりする(アナログだから)。逆にそこを逆手にとって、劣化を防ぐ。結果として悪性腫瘍が暴走したりすることもなくなる。視力や聴力も衰えない。第2部では、どこまで医学が進んでいるかを、また薬に頼らずに老化を防ぐ方法が語られる。こちらは、よくある「健康法」とあまり変わらない。食事量、特に肉系を食べない。有酸素運動。体にストレスを与える(冬もあまり厚着をしないとか)。第3部では、未来を語るだけではなく、こうした考え方(「老化」は病気で治せるということ)に否定的な人々への警鐘やそうなったときの法律や社会の改善まで語っている。
読みごたえはあるが、納得の内容であった。もう少し生きたいので、薬に頼る前に、健康法を実践しておこう。
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人類の進化について、老化について学んでみようと思い読書。
メモ
・適度なストレスが長寿遺伝子を働かせる
ある種の運動をする、ときおり絶食する、低タンパク質の食事をする
高温や低温に体を晒すなど。
・長生きするには、老化を抑えるには
食べる量をへらすこと。食事の量や回数をへらす。
間欠的断食。
アミノ酸を制限する
・老化に対する未来の選択肢
老化細胞を除去する
レトロトランスぽゾンを封じ込める
免疫系を活用するワクチンをつかう
細胞のリプログラミング
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第1部:私たちは何を知っているのか<過去>
老化の唯一の原因ー原初のサバイバル回路
弾き方を忘れたピアニスト
万人を蝕む見えざる病気 現代
第2部:私たちは何を学びつつあるのか<現在>
あなたの長寿遺伝子を今すぐ働かせる方法
老化を治療する薬
若く健康な未来への躍進
医療におけるイノベーション 未来
第3部:私たちははどこへ行くのか<未来>
未来の世界はこうなる
私たちが築くべき未来
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いろんな本を読んできたけど、カロリー制限とか間欠的断食が良いのはおそらく間違いない。自分の体験からしてもそうだ。
この本は科学的見地から食事と健康の関連や、あるいは身体が老化していく事実、さらにはそれを予防できる可能性が現実味を帯びてきたことを述べている。
そして、この本が白眉なのは、おそらく近いうちに到来するであろう「老化に介入し健康寿命が伸びる社会」においてどのように政治や公的活動はあるべきか。また個人としてどうすべきかというところに多くの頁を割いているところだ。
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老化のメカニズムに迫る科学本であり、同時に長生きすることに関する哲学の本でもある。
著者は生物学者のシンクレア教授。著者は「老化」は病気であり、つまり、回避できるものだと断言する。科学を通じて、さらに寿命を延ばすことは可能であり、かつ健康寿命を延ばすこともできると言う。現時点でその方法は完全に解明されているわけではないが、多くの研究成果が出ており、老化の原因となる遺伝子における作用や、その老化を遅らせる方法は、酵母やマウスを用いた実験において成功している。このような事実にはワクワクさせられる(主張がやや極端かつ断定的でどこまで信じようかという気分になるのも事実だが…)。
このような遺伝子に対するアプローチが研究されると同時に、生活習慣の中で寿命を延ばす方法も多く触れられている(食事のカロリーを減らせ、小さいことにくよくよするな、運動せよなど)
星を一つ減らした理由の1つ目は、海外の科学本によくあることだが、エッセイ的小話が大量に差し込まれていて、とにかく長い。後に間違っていたと判明した仮説などは書かないで欲しい…(ただでさえ難解な内容なので、うっかりそれが通説であると勘違いしたまま読み進めてしまうことがある)。
2つ目の理由は、上記の通り、それほんとかよ、と信じられないことが結構多いことなのだが、著者シンクレア教授は現在51歳らしいが、確かに40代前半と言われても信じられる見た目であることには驚く。
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人は誰でもいつか死ぬ。
これは誰もが否定できない事実ですが、この本ではそもそも「老化」の正体とは?というところに焦点をあてます。
老化は自然の摂理なんだから抗いようがないと思いそうですが著者は「老化は病気である」と主張します。
まさか、という気持ちになりますが読み進んでいくと老化は病気であるという主張の真意が理解出来てきます。
まるでSF小説のストーリのような内容が盛沢山で信じ難い部分もありますが、かなり説得力のある内容です。
もしこの本で書かれていることが実現していけば少なくとも一般的な寿命と健康寿命との格差はなくなるかもしれない。
非常に面白いテーマですし読みごたえもあります。
興味のある方でしたらおすすめです。
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老化は病気だと聞いて、自分の価値観が大きく崩れた。医師をしていて、歳を取ることは仕方のないことだと思い込んで治療をしていたことを思い知らされた。
本書の中ででくる数々の研究が今現在の医療にほとんど使われておらず、一部の最先端の医療機関しか使われていないことに驚くとともに、もっともっと個別医療・先端医療が受けられる時代が目の前に来ているのだとワクワクもした。
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平易な文章で老化についての最新の研究を紹介しているとともに、健康寿命が伸びることの政治経済、社会や環境へのImpactの考察にまで展開され興味深かった