電子書籍
ペロー・ザ・キャット全仕事〈新装版〉
著者 吉川良太郎
大いなる犯罪者パパ・フラノが支配する欺瞞と安寧の街「パレ・フラノ」。その夜の裏側をすり抜け、暗闇の中のすべてを観察する一匹の猫がいた-。近未来フランスが舞台の新感覚SFノ...
ペロー・ザ・キャット全仕事〈新装版〉
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ペロー・ザ・キャット全仕事
商品説明
大いなる犯罪者パパ・フラノが支配する欺瞞と安寧の街「パレ・フラノ」。
その夜の裏側をすり抜け、暗闇の中のすべてを観察する一匹の猫がいた-。
近未来フランスが舞台の新感覚SFノワール。
第2回日本SF新人賞受賞作。
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紙の本
はっきりいって、今、日本のSFってのは酷い状態にあるんじゃあないかって気がする。ミステリの栄光の陰で、ひたすらアニメの原作化進行中って感じ
2004/01/28 21:11
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:みーちゃん - この投稿者のレビュー一覧を見る
新しい文学賞が出来て、その受賞作が一定のレベルを維持し始めるには、思う以上に時間がかかる。たとえば鳴り物入りで創設された横溝正史賞だけれど、初期の受賞者の何人が現在活躍しているかを見てみればいい。それが最近では、各賞の性格付けがはっきりしてきたせいか、面白い作家が続々と受賞している。それは松本清張賞も同じことだ。ただし例外はSF。若い人がホラーと本格推理に流れるせいか、日本人の科学離れが原因かは別にしても、かなり酷い状態。そろそろ凄いSF作家が出てきてもいい。
話は、正業につかない22歳のペローが古物商のアルベールの店に寄ったことから始まる。店で見かけた〈アヌビス〉。それはエジプト旧秘密警察の極秘プロジェクトの成果だった。人間と猫の知覚を共有させ、その猫にスパイ活動などをさせることも可能という摩訶不思議な技術。上手く使えばスパイ活動に利用できると、早速ペローは購入し、その技術を利用し始める。
濡れ手に粟に近い稼ぎをするペローに目をつけたのが、〈パレ・フラノ〉の街を支配するパパ・フラノ。彼と組む弁護士モーニエ、孤高の美女シモーヌを巻き込んで、人猫ペローとフラノとのラン&チェイスが始まる。で、ここで描かれるペローの性格が実に悪い。問題先送り、楽して金を稼いでいれば、人との約束なんてどうでもいい。信義も何もない。今のジュニア小説によく見る若者だ。でも、その点を除けば、かなり面白い。
この作品は、第二回日本SF新人賞受賞作、作者は1976年生まれ。現在中央大学仏文科の博士課程在学中。この、考えただけでもバカらしい技術について詳細を記述することなく話を読ませてしまう手腕は立派。ただし、話の内容はコミックスの原作レベル。深みが無いし、物語の構造が陳腐。とはいえ本ではなく、アニメで見たらかなり楽しめそうだ。でも、作者は分っていて書いている気がする。メフィストに拠って立つ新本格作家たちのノリに近い。しかし、これが本当の才能かといえば、どうだろう。今後の受賞者とじっくり読み比べたい。
紙の本
SFの新しいアプローチ
2002/02/09 15:32
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:楓 - この投稿者のレビュー一覧を見る
近未来のフランス。青年ペローはサイボーグ猫に移転できるという国家機密を入手し、要人をユスったりして楽しむ日々を送っていた。だが、暗黒街を支配するフラノの配下シムノンに目をつけられ、犯罪組織への服従を強要される。しかしそんな中でも個人主義を貫くペローの、精神の自由の戦いを描いた青春SF長編小説。
現代思想を取り入れていると聞くと、難しそう…と敬遠してしまう方もいるだろうが、まったくそんなことはない。軽妙な語り口に、スパイスのように良く効いたユーモアは最高だ。
著者は中央大学大学院でフランスの思想家・作家バタイユを専攻する24歳の学究。本書における共同体への意識、ファシズム的暴力や個人的な暴力の対置などには、そんなところからの影響があるのかもしれない。大学時代はSFと純文学の両方のサークルに所属していたそうが、本書が新人賞に応募した初の作品。
SFはマイナーなジャンルだと思われがち。しかしこの長さにもかかわらず、どの年代の人にも受け入れてもらえるSF入門書としてもお勧めできると思う。
紙の本
近未来のフランスを舞台に、サイボーグ猫に意識を転移した主人公ペローの活躍を描くハードボイルドSF
2001/07/12 18:15
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:平岡敦 - この投稿者のレビュー一覧を見る
『ブレード・ランナー』と『ニキータ』を足したような、とでも形容すればいいのだろうか? 弱冠24歳の作者による第2回日本SF新人賞受賞作は、SFのセンス・オブ・ワンダーとハードボイルド的テイストがミックスされた快作だ。
舞台は近未来のフランスの街パレ・フラノ。そこは天才的な犯罪者パパ・フラノが念入りに作りあげ、支配する悪の王国だ。合法、非合法にかかわらずその街で生み出された富は、すべて複雑なルートをだどってパパ・フラノのもとに集まるよう仕組まれている。
「クールでテクニカル」を信条とする主人公のペローは、サイボーグ動物に人間の意識を転移させ、遠隔操作で盗聴に使う極秘システムを偶然手に入れてしまう。さっそく猫に憑依してお偉方の秘密を盗み出し、ゆすり屋稼業に乗り出すが、パパ・フラノの手下に脅され仕事を手伝わされる羽目になり、ついには殺人までも...
とまあ、あらすじの紹介はこれくらいにして、あとは実際に読んでもらったほうがいいだろう。山場の作り方、伏線の張り方など、つぼを押さえたストーリーテリングに、ぐいぐいと引き込まれること請け合いだ。超セクシーなフリーの女用心棒や、人捜し専門のニヒルな探偵、双子の女占い師など脇役も魅力的で、選考委員がこぞって絶賛したのもうなずける。
また作者がフランス文学を専攻をする現役大学院生だというだけあって、フレンチ感覚が効いているのも楽しい。題名からしてペローで猫とくれば、すぐに思い浮かぶのは『長靴をはいた猫』。ペローの童話では、貧しい農夫の三男坊が、父親の形見にもらった猫の力を借りて城に住む巨人を倒すが、自らがサイボーグ猫となって活躍する本書の主人公が、パレ・フラノを睥睨するフラノ・ビルの最上階に住む巨人と張り合う物語の結末は、はたして「めでたし、めでたし」で終わってくれるやら。
あるいは、アルベール・カミュ『異邦人』の有名な冒頭部(「きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かもしれないが、私にはわからない。」というやつ)をそっくりそのままいただいた一節には、思わずニヤリとさせられる。なるほどこのペロー、醒めたアンチ・ヒーローたるムルソーが、21世紀に生まれ変わったかのような人物である。またパレ・フラノの地下に広がるいかがわしい街「アリスの庭」には、フレンチ・コミックスの人気作家エンキ・ビラルの描く世界、とりわけ第三次大戦によって廃墟となったパリを舞台とするニコポル三部作(河出書房新社刊)のイメージが投影されているのではないか。ともあれ優れたSF、ミステリ、映画等々の成果を巧みに取り入れながら、独創的な物語を作りあげた新しい才能の出現を喜びたい。 (bk1ブックナビゲーター:平岡敦/大学講師・翻訳家 2001.07.13)