紙の本
現代社会が抱える問題の末路。
2020/11/23 15:37
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ゲイリーゲイリー - この投稿者のレビュー一覧を見る
本作はSFというジャンルを用いた、現代社会に対する警鐘だ。
近未来を描くことで、ここまで現代社会に蔓延る問題を如実に浮き彫りさせたのは、著者の筆力及び着眼点の賜物であろう。
本作の舞台となるのは、今から約50年後の2068年の世界。
情報社会、消費社会、経済格差、環境問題等今日でも非常に耳する問題が未だ根付いている世界。
もちろんこれらの問題は、現在進行であるし、それらに対する議論も盛んに行われているであろう。
それでも本作を読むと、ここで描かれる未来は不可避なのではないかと思わずにいられなかった。
人々が自らに関する情報を全て発信することが日常となっており、そのデータをGoogleはじめとするデジタル企業が管理する。
そのことは監視社会を彷彿させるが、人々はそのことについて不満を抱かない。
民主主義を謳いながらも、人々は情報操作されたものを信じ込まされている。
そのことに異論を唱えるばかりか、消費行動によって口封じさせられ次第に思考放棄するようになっていく。
そして一向に解決の目途が立たない環境問題。
本作ではそのような今日の社会問題の延長上にある世界で、主人公の女性が抱く思想には納得できる部分が多く見受けられた。
不死になることで、現在の欲望や富、名声や権力を追求する人々の心情が改変され、様々な社会問題に終止符が打てるという考えは非常に興味深い。
本作では社会問題だけでなく、不死が与える様々な影響を宗教、倫理観等の様々な観点からも描いている。
本作で、描かれる権力者たちとの会話や見栄や虚勢等も非常に現実的で面白かった。
現状維持は何も解決せず、このままでは本作が描くような未来になるかもしれない。
それどころか、もっと悪い未来が待ち受けている可能性もある。
今この瞬間こそが未来を変えるターニングポイントなのだ。
電子書籍
こわい
2023/02/22 19:39
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ハム - この投稿者のレビュー一覧を見る
現実では怒らないとは思いますが、実際にこうなっていくのかもしれないという現実味もあって、こわかったです。
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フラン人作家マルク・デュガンの『透明性』を読みました。
一言でいうなれば大金持ちなったテック系ギークである女社長の哲学問答、という中身です。
ジャンルも設定もSFなのですが、必ずしもSFへの興味や知識は必要ありません。
2068年の地球を舞台に、強力なテクノロジーを背景に地球上のあらゆる産業、企業を手中に収め、トランスヒューマン(オルダード・カーボンで言うところのスリービング)・・・魂を腐らない鉱物材料で出来た人体そっくりな入れ物に移植して不死を実現させた地球上最高の権力者である女性が、神になる事を拒否し、独裁的権力を否定しつつ、自分の家族や世界の宗教家、政治家、情報機関と対話し、モノローグする過程でバックキャスティング的にいま我々の生きている世界の生命倫理、あるとすれば生命の目的、宗教観、政治、社会保障、エネルギー・環境問題、セックス、家族観、資本、経済、消費、知の体系についての通念に次々と疑問を投げかけてくる構成になっているからです。そう、作中で問われているのは殆どが「現代」なのです。
ここが上手い。「このままいくとえらいことになるよ」という警句ではなく、革命が起こりあらゆる秩序が変わり果てた世界の中心人物から「あの時はこんなおかしなことをやっていたけども」と語らせ、我々の現在の世界観、固定観念をグリグリと抉ってくるのです。
フラン人らしい皮肉たっぷりにキリスト教会教皇や米国やフランスの大統領をこき下ろし、やり込める。「半世紀前には・・・」と作品中2度ほどトランプの事をくさしているのもタイムリーで非常に面白い。
通底するテーマとしては、人間がデジタルに「常時接続」していることへの危機感とそのために起こる劣化について書かれていて、ドイツ人哲学者のマルクス・ガブリエルが「グーグルはユーザーからタダでデータを吸い上げ、労働搾取している」「インターネットこそが我々の民主主義を破壊している」と言っていることに共通している問題意識がありました。
プラットフォーマーに対する制裁金措置などを見ても、通商問題や産業競争とは別のフレームで、ヨーロッパの知性や哲学はインターネットとデジタルに対して主導権奪取の戦いを仕掛けているように見えます。それは19世紀的世界秩序への回帰であるとマルクス・ガブリエルは説明していますが、デジタルへの不快感や警戒感がヨーロッパから強く聞こえてくるのは興味深いですね。
ジャーナリズム、ノンフィクション出身の書き手のためか非常に読みやすくてスッと頭に入ってくる文章でした。
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環境問題,グローバル企業によるデータの掌握,宗教問題,トランスヒューマニズム,ベーシックインカムといったまさに現代の問題がテーマになっている.不死の存在,預言者の誕生によって,市場第一主義の経済界,権利主義の政治・宗教を完全に解体するのは今の社会へのアンチテーゼであると感じた.タイトルの「透明性」はデータを完全に開示することによって個人が透明になるという意味だが,このような世界でも本当は不死の技術は存在しないということを誰も見抜けなかったというのは皮肉だと感じた.
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デジタル革命で個人情報が共有された2060年台、地球温暖化でせまる破局を前に、ついに不老不死のモデルが発表される。
Googleやトランプ等、今から未来を考えるとこういう世界が予言されるのでしょうか?
まあ私は魂のない、永遠の命なんてものはいらないけれども。
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SFなんですかね?翻訳物のSF読むのは多分中学生以来な気がする。アイデアと世界観はとても現代的で良いのだが、ストーリーテリングがイマイチ。オチもまぁよく分からない。
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Amazonレビュー送信済み、以下の通り…
先日、とあるテレビ番組で、Google検索エンジンの便利さと、その裏にある企業側による個人データの(今のところ決して悪意の無い)収集、に関する報道を観て、自分の中で多少の畏怖を覚えた…。
…この小説はもちろん創作物語、フィクションであり、あえてジャンル分けを強制するとすればある種SFの範疇に入るのではないかと思う。
ただその背景は極めて「近未来」であり「いま起きている」或いは「数年後には起きている」かもしれない事象であるとも思わせてくれるだけの現実的な描写が物語の中に散見される。
そのように私が感じた理由は、既に私たちがほぼ無意識に毎日のように使っている“検索エンジン”による「個人情報の集積(と活用)」という『手法』が既に確立されつつあると実感でき(まだまだ自分の閲覧履歴に基づく広告が配信されてくる程度であるが、それは時としてなんとも言えない気持ち悪さを感じる事がある)、またその『手法』を限りなく拡大していく事により、小説の中に描かれた「個人情報の集積」による〜ひとりの人間のコピー〜という膨大な作業が、演算と記憶という、そこで必要となる半導体技術の進歩をムーアの法則に則て考えれば、全く非現実的なものではない、と改めて気付かされ、驚愕をも覚えたからである。
その様な自分の中での気づき、が、この小説を中盤以降読み進めていく事を堪らなく楽しくさせてくれた。また繰り返しになるかもしれないが作品の背景、情景、地球環境を含む世界情勢、というものが極めて現実的であり、全く飽きさせない。
著者はこれまで主にドキュメンタリー等を手がけ、長編小説が本邦に公開されるのは今作が初めてだと言う。過去にエンジニアを経験したこともあるとの事で、その文体は文学的と言うよりも理論的、悪く言えば散文的ですらある。登場人物の感情の抑揚といったものもそこまでエモーショナルに伝わっては来ない。ただ、先に書いた様にその題材は極めて現実的、魅力的、興味を惹かれるものであり、読み進めていく事に何ら苦痛を感じなかった。
大きな見方で、長い目で見て、これからの世界情勢、宗教も含めた人間観、世界観、という事を考えるにあたり参考としたい書籍でもあると思う。
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設定は壮大だけど、詳細は粗い。鉱物でできた体に個人データを移すとかって具体的にはどうやるのかはスルーなのね…と思ったら、この方、SF畑の方ではないのね。オチにはちょっと肩透かしを喰らった。まあでも、お金持ちとか頭がいいとかじゃなくて、「地球に優しい生き方をしてきたか?」が再生の判断基準ってのが良いなあ。これを読んで、エコな生活をする人が増えると良いなあと純粋に思った。まだ間に合うと思いたい、宇宙船地球号。
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フランスの知識層が書いた「なろう小説」的な感じを受けました。近未来SFの形を取りつつ、環境問題や行き過ぎたデジタル化、拝金主義への危惧と批判など。
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ありそうな40年後。グーグルが個人情報を管理し自由意志を操作、環境破壊が進んで北欧にしか住めなくなった人類。今このまま手をこまねいていれば、そこにたどり着く。そういう意味では警鐘ではあるよね。
個人的には”エンドレス・プログラム”は希望しないと思う、永遠の生命がほしいわけではないので。やはり、限りがあるからいいじゃないかな、限りは時には救いになることもあるんじゃないかな、と思う。
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・気候変動が悪化して、人々が北欧地域で生活する一方で、ITは発達。
Googleに行動履歴や閲覧履歴、生体情報という自分に関する
個人情報を渡すことに承諾すれば、毎月暮らせるだけの収入をもらえて、
一部の人を覗いて、googleのベーシックインカムに加入している世界
Googleが国家と肩を並べている状態。
主人公は、Googleの支配と環境問題への対策として、
個人情報を人工的な体に写すことによって、
不死を実現する計画を実行する。
・不死にする人は、精神的な価値や地球環境にやさしい生き方をしているか
とかとか
お金もってるかとか関係ない
宗教も国も関係ない。まさに神
・ちょっと怖さを感じさせる。
書かれている世界は、便利になればなるほど
より人間らしさがなくなる
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SF。ファンタジー色はほぼなく、現代と現実に沿った設定で、現在でも知られていないだけで、起こっていると言われればそんな気もする。グーグルみたいな会社がグーグルを乗っ取って「選ばれた人」のみしか生きられない社会を作る→大批判→宇宙行き。二十歳くらいから新興宗教の勧誘でしょっちゅう「選ばれた人のみが天国にいける。他は全部地獄」とか堂々とファミレスとか一方的に喚かれた経験が多々あって、もう、全員、●朝●のミサイルに乗っちゃえ♪とか感じた。天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず。義務教育で習うだろ?
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2060年の近未来を舞台にしたSF小説
人類から死という概念を解放することを実現した際に起こる未来を描いた作品
主人公自体が完璧であるような描き方ではなく、家族関係においては不完全さを持っている部分に現実味を感じた。
最後の種明かしのような部分は結局欺瞞がどこまで蔓延るのか、AIが人間を半分支配しているような印象を受けた(根拠のないような現実を信じすぎているのではないか?人間の判断自体は所詮その程度なのかもしれない。)。