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  • カテゴリ:一般
  • 販売開始日: 2021/01/22
  • 出版社: 講談社
  • レーベル: 講談社文庫
  • ISBN:978-4-06-276296-0

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妖人白山伯

著者 鹿島 茂

維新で暗躍した謎の怪人・大山師・モンブラン伯爵! ーーパリの日本公使館で、老残を湛えた謎の紳士が、原敬に流暢な日本語で声をかけてきた。彼こそは、幕末から明治にかけて、日本...

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妖人白山伯

税込 817 7pt

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商品説明

維新で暗躍した謎の怪人・大山師・モンブラン伯爵! ーーパリの日本公使館で、老残を湛えた謎の紳士が、原敬に流暢な日本語で声をかけてきた。彼こそは、幕末から明治にかけて、日本とフランスを手玉にとった、実在の大山師・モンブラン伯爵、漢名・白山伯。文学・芸術も巻き込んで、政治史の裏面で暗躍した怪人の姿を、フランス文学研究の第一人者が描く、異色の長編小説。

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紙の本

激動の維新時代の空気かぐわしく、政治、外交、産業、文化、風俗など広範囲に目配りが行き届き、多要素をすべて引き受けながら、ミステリ要素で盛り上がる痛快娯楽歴史ロマン。エロスもふんだんで……。

2009/05/08 12:59

5人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:中村びわ - この投稿者のレビュー一覧を見る

 さしずめ渋澤龍彦が石川淳『六道遊行』を「陽根女陰の力学に立った戯画化された政治史」と面白がり、陽根主義者として当代に屹立していると夷斎先生に敬意を払ったように、本書『妖人白山伯』も当代の陽根主義小説の傑作として同好の士に崇め奉られねばならない。
 ただ、そこで注意しなくてはならないのは、物語の主人公モンブラン伯爵こと漢名「白山伯」の場合、その陽根は女陰を貫くだけではなく、むしろ少年愛玩に溺れるものだということだ。まあ、そりゃ、どうでもいいか……。

 元は「小説現代」に連載された作品であるし、ここまでの説明で「なかなか官能に響きそうじゃないか」と当たりをつけてもらうのは全く構わないのだが、作者がいくらさばけた鹿島茂氏だとはいえ、読書狂・古書狂で知られる仏文学の泰斗が単なる娯楽的情痴小説を書いて済ませたのだと諒解されるのも困る。
 モンブラン伯なる、19世紀後半を生きた実在の大山師が、日本とフランスを手玉に取って政治家や外交官たちの陰で暗躍する様を描く。そこでは、原敬、西郷隆盛に従道、黒田清隆、五代友厚、寺嶋宗則、島津忠義、岩倉具視、後藤象二郎、大久保利通、ナポレオン三世、リュイス外務大臣といった人物たちが登場し、日本の政変に乗じてひと儲けをたくらむベルギー人モンブランにアプローチされたり、艶っぽい接待を受けたりする。さらに、利害の一致と知らずして、モンブランとのつながりを梃子に歴史の表舞台に躍り出てしまったりもする。
 また、三井物産の益田孝、シーボルトといった歴史上の人物ほか、ロートレック、ゴンクール兄弟、ゾラ『ナナ』のモデル、ヴェルレーヌ、ロートレアモン、アナトール・フランス、ボードレール、黒田清輝のような文学・芸術関係の人物も絡み、彼らの作品の創作秘話が愉快に解釈されたり想像されたりしている。
 知的興奮も存分に刺激するよう、巧妙な仕掛けもほどこされた教養的娯楽小説になっているのだ。

 月刊誌の連載らしく、短篇を思わせる章立てごとに、扱われる舞台と材料が変わって退屈しない。12章あるので、少しずつ読み進めるのにも便利。
 例えば、「一 帰ってきた大山師」は1885年のパリの日本公使館が舞台。書記官として赴任してきたばかりの原敬の元へ、在仏日本公使の前身である公務弁理職に初めて就いたと名乗るモンブランが登場し、ふたりでパリの盛り場にあるカフェ・アングレ内の高級待合に繰り出す。日本から訪仏する要人の接待の、そのようなやり方を伝授したのは自分なのだとモンブランがほくそ笑む。
 このモンブランと原敬の関係は最後まで物語の軸になっていて、日本政府高官をゆすって大儲けをしようというモンブランのたくらみを原敬が阻止できるかどうか、という筋に、意外な人物たちの意外な消息や作品が結びついてくる。
「四 種紙騒動」では産業や輸出の面から、モンブランの暗躍ぶりのユニークなエピソードが一つ紹介されている。時代は、モンブランと原敬の出会いから20年ほどさかのぼり、まだ一般の日本人の渡航が認められていなかったころ、モンブランが日本人の腹心を使って、フランスの養蚕界に日本の蚕の卵を売りつけようとした話だ。
 当時フランスでは蚕の病気で養蚕業が打撃を受けていたということで、汚染のない良質の蚕卵を密輸しての大商いが計画される。養蚕業や生糸産業がどうなっていたかということのほか、幕府の貿易政策、生糸貿易のやり方などについての背景が押さえられながら、モンブランのたくらみの巧妙さが小気味よく紹介されていく。

 全篇を通して、「エロならまかしとき!!!」という具合で、特異な設定や魅力ある女性たちが相当な気合いを入れて描かれているが、そういうものを差し挟みながら、激動の維新時代の空気かぐわしく、政治、外交、産業、文化、風俗など広範囲に目配りが行き届いていて、そういった多要素をすべて引き受ける感じで、ミステリ要素の入る後半がぐうっと盛り上がる痛快娯楽歴史ロマンにまとまっている。
「故山田風太郎氏に献ぐ」と献辞があり、その覚悟の下に、フランス文学研究と読書の第一人者が教養と精の相当量を注ぎ込んで完成させた作品の質で、そうそう頻繁に別のものが現れてくるとは思っちゃいない。だが、この分野、書き手不足のようにも見て取れるので、「文学研究や翻訳、書評の余技」と位置づけず、どうぞまた別作品の執筆をなさってくださいまし。

 あと、モンブラン伯の人物造型が、好色文学の紹介者にして額縁ショウや日劇ダンシングチームをプロデュースした、秦豊吉=丸木砂土をそこはかとなく思わせるところが、私的にはツボでございましたよ。

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