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投稿者:L療法 - この投稿者のレビュー一覧を見る
断片を散りばめたような奇妙な話による連作です。各話趣向を凝らしてあり、一巻だけ読んだ時点では物語的関連は特に見られないのですが、二つか三つの世界が、あるいはそれ以上の世界が、想像力によって描きこまれていきます。
原作作画分担というより、対話的に刺激し合って創作されたようです。
全四巻でも全てではなく、未収録作品多数あるようですが、徐々に入手が難しくなってるようです。興味のある方はお早めに。
2017年10月
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400ページの大型本。絵もストーリーも深く緻密で中々読み進めない…orz 装丁を含む本そのものが世界を持っていて、まるで映画を本の形で読んでいるような錯覚に陥る。そういう体験自体が面白い。
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シリーズの抜粋とのことだが、是非他も読んでみたい。ベルヌが出てきてこちらの世界とリンクするしかけも良い。
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例えば、指輪物語のことへ思いは漂ってゆく。その物語は完全な空想の物語である筈なのにどこかしら言い伝えられた話であるよう雰囲気がある。伝説的な物語(あるいは神話もその一つに含めてよいと自分は思うけれど)の不思議さと現実から切り離された浮遊感の混じり合った雰囲気は、逆説的ではあるけれど、物語が地続きの世界のことを描いていると思わせられれば思わせられる程に強くなる。もちろんその為には多くの実際の伝説や史実を象徴的に取り込まれている必要はあるだろう。
例えば指輪物語では「中つ国」という壮大な世界がまるごと一つ創出される。その歴史、文字、文化、それらがトールキンによって生み出されたこと自体、驚異的なことだと思うけれど、その存在が、どこか未だ痕跡すら発見されていないだけのものと思わせる雰囲気があるからこそ、指輪物語はこれ程に人を熱狂させるのだと思う。もちろん、その為にトールキンは多くの西欧圏の神話や伝説を織り込み忍ばせている筈だと思う。そして西欧の人々の記憶にはシュリーマンによるトロイの遺跡の発見の物語が色濃く残り、神話と思われていた伝説が史実であることの可能性を大きく見積もりがちにする。
一方で、この「闇の国々」はどうだろう。やはり多くの西欧文明の遺物や遺跡のイコンが織り込まれ、指輪物語と同じように西欧の人々に不思議な懐かしさを与え、切り離されていながらも完全に空想とは思われないような世界観を与えることに成功しているのだろうと思う。だからこそ「傾く少女」のように、次元も現実と想像の境界も軽々と越えてしまう物語も語られ得るのだと思う。そう理解した上で、これは自分には追従することが難しい物語であるようにも感じるけれど。
とても不思議なのであるけれど、かつて指輪物語(もちろん文字としての、と断っておく必要性を感じるけれど)に興奮した中学生であった自分ではあるけれど、その時ほどの湧き立つような感慨は、面白いとは思いつつも、「闇の国々」では味わえない。それが何故なんだろうと考えると、一つには視覚的イメージによる想像の固定ということが大きいのかも知れない、と思いつく。特に、日本の漫画(一般的な、と断っておくべきか)に馴れた読者としては、このフランソワ・スクイテンの緻密な描写はイメージが広がっていく余白を奪ってしまうように感じる。大友克洋のAKIRAとの類似性を認識しつつ、AKIRAでは現実が邪魔をしてくることが余りなかったのに対して、この物語は現実が飛翔を阻むところがあるように思う。
画の緻密さが悪いわけでは、決してない。例えば、自分は安野光雅の細かい絵が好きだし「旅の絵本」など想像がどんどん広がってゆくのを感じるけれど、物語に投げ込まれる実在のイコンの描写の緻密さと重なることで、何か強制されたイメージを押し付けられたような気がしてくるように感じるのだ。そこに少し残念な気持ちが残る。あるいは、ただ単に年を取って感覚が鈍くなっただけ、なのかも知れないけれど。
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・一個の小宇宙。そんな印象を受ける、マンガを越えているマンガ。ヒトコマヒトコマの描き込みが恐ろしいほど細密。
・ストーリーは、いかにもフランス気質っていうか、不条理で哲学的でSF的…いく通りにも読み解くことができそうな、象徴的な話。
・架空の町々と歴史、そこに住む人々。現実世界との実験的手法で描かれるクロスオーバー…たまらない人にはたまらない、そんな作品。
・とりあえず、値段だけの価値あり。
・日本語版は、冒頭に作者の解説(ほんの「さわり」だけど)が掲載されていて、予備知識として頭に入れておくと、スムーズに物語に入り込める親切設計。
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作者はブノワ・ペータース 、フランソワ・スクイテンという二人組。ペーターズが物語を、スクイテンが画を担当している。日本では知名度はあまりないけれども、バンドデシネの世界ではあのメビウスやエンキ・ビラルと並び称される巨匠だという。最近、来日したのが話題になったし、ようやく翻訳が出版された『闇の国々』が、ガイマン賞(翻訳マンガの賞)の1位に輝き、さらに文化庁メディア芸術祭の漫画部門の大賞に選ばれるなど、「満を持して」という言葉がこれほど似合う作品も他にないだろう。僕たちが住む世界とは次元が違うものの、紙一重の世界「闇の国々」 での奇妙な出来事をオムニバスで綴ったもの。
画を見て分かるように、僕達が「バンドデシネ」と聴いて思い浮かべるような、違う文化の発想によるSFという趣が濃厚な作品。三つの物語で構成されていて、1つ目は計画都市に出現した謎の立方体に翻弄される人々を描いた『狂騒のユルビカンド』、2つ目は巨大な塔に住んでいた男が冒険の旅に出る『塔』、3つ目は謎の現象によって身体が傾いてしまった少女の天文学的な旅を描いた『傾いた少女』。そのどれもが、圧倒的なスケールの物語と細密な画によって、一読しただけでは全体を掴みきれないボリュームを持っている。「何だか分からないけれども凄い!」というのが僕のとりあえずの感想。
世界を創作するというのは、こういうレベルのことを言うのか、という頂点を垣間見たような気がする。3作品のどれにも通じることだけれど、物語の根底に哲学を感じるから。不可解な現象や出来事に右往左往する人々を、漫画という顕微鏡を通じて観ているような、そんな気持ちにさせられると思う。小説で言えばテッド・チャン的とでも言うのか、そう言えば、テッド・チャンの『バビロンの塔』とこの本の『塔』は似ている部分が結構あると思う。舞台こそ、古代と文明が衰退した未来の話だけれど。こういう漫画を作る労力というのは、どれくらいのものなのだろうと想像すると、気が遠くなるほどだ。
この本は、というよりも翻訳マンガの宿命として、目が飛び出るほど高価というのがあるし、そもそも売っている本屋も希少ではないかと思う。正直な話、これを4200円出して買うかと言われると、仕事じゃなければ手が出なかった。でも、ガイマン賞の1位を獲得し、文化庁メディア芸術祭の漫画部門の大賞にも選ばれたわけで、買って読むだけの価値は十二分にある。半端じゃないイマジネーションの本流に、良いように弄ばれるという感じを久々に味わうことができた。そして、読む方法が買う以外にないわけでもなくて、例えば北九州市漫画ミュージアムではガイマン賞の特集として、他の翻訳漫画と一緒に読むことができるらしい。地域の図書館などで、もしかしたら置いてあるところもあるかもしれない。
読むチャンスがあるなら、ぜひ読むべき本であると思う。損はしない。そしてどんなに身構えていても、圧倒されてしまうはずだ。
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バンド・デシネとはフランス語圏のまんがのこと。日本での知名度は高くないが、闇の国々を舞台とした連作である本書は、そのクオリティの高さが静かな評判の広がりを見せ、続編、続々編が発売された。
本書には、突然現れた立方体の枠のような物体が自己増殖を始め、その成長のさまをなすすべなく見守る人間たちと、その変化が引き起こすカフカ的混沌を描く『狂騒のユルビカンド』、巨大な塔の修復師が、その全体に到達するまでの黙示録的冒険譚『塔』、天変地異を確信する学者、あるときから斜めに存在するようになった少女、辺鄙な場所に家を建てる建築士の三者が織りなす物語を追う内に、見たことのない模様のタペストリーの中に引き込まれる『傾いた少女』の3作が収められている。
架空の空間で繰り広げられる、大人のための×(寓話+ファンタジー+SF)÷3+アートの世界を存分に味わえる、至福の一冊。
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フランス語圏の漫画、BD(バンド・デシネ)の大作。「闇の国々」と呼ばれる国を舞台とする連作である。本書出版の時点では、本編が12作、番外編が12作出ており、本書ではうち本編3作が収録されている。
日本語訳としては、本書に加えて『闇の国々II』と『闇の国々III』は刊行済であり、『闇の国々IV』は2013年秋頃に出ることになっているようだ。各作品の刊行順序は原作とは異なり、本書(I)に収録されているのも2作目(「狂騒のユルビカンド」)、3作目(「塔」)、6作目(「傾いた少女」)となっている。
原作シリーズの自体もまだ完結というわけではないようだが、「闇の国々」に起こる出来事を描く各作品がゆるやかにつながっているものなので、どこから読み始めても、またどこで終わりになってもよいようにも思われる。
原作はブノワ・ペータース、絵はフランソワ・スクインテン。2人のうちのどちらが欠けても生まれえなかったのであろう作品である。
「闇の世界」は「明るい世界」(いわば通常の世界)のパラレルワールドのようなものである。独立に存在するこの2つの世界の間にチャネルが生じ、交感することもある。
さまざまな人物や文学・芸術へのオマージュがちりばめられ、作者のイマジネーションに促されて読者の想念も揺さぶられ、刺激されるようでもある。不思議な奥深い世界である。
「狂騒のユルビカンド」では、謎の立方体構造が網状に成長を続け、都市への脅威となる。核を得て、結晶が成長し始めるようなものである。作中で主人公が、「もし立方体を斜めに置いていなければ」と考える場面がある。平らであったなら、また元になる立体が六方晶の形や正四面体であったなら、どんなことになっていただろう。
「塔」では、バベルの塔を思わせる塔の「修復士」が止むことのない塔の修復に業を煮やし、責任者である「巡察士」に直訴しようと旅に出る。下降と上昇の旅の末に、彼が目にする世界とは。白黒と色彩の対比に息を呑む。
「傾いた少女」もまた奇妙な物語である。勝ち気で物怖じしない少女が突然傾き始めたのはなぜなのか。物語後半には、「明るい世界」との往き来が、巧妙な技巧で描き出される。
長じて改革者となった少女のかぶるベレー帽には、個人的に、著名な革命家を連想した。
谷口ジロー作品(『父の暦』あたりか)とピラネージの版画は見てみようと思った。
非常に精緻で細かく描き混まれた絵が、まったくアシスタントの力を借りずに作画されているということにも驚く。1ページを描くのに1週間を費やすという。いやはや、すごいことだ。そうでなければ作り出されない世界もあるということだろう。
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ああ~とてもとても面白かった。
一篇をぐいいいーと集中して読み、
一日以上間を取って次に進む、
だってすぐ次に移ってはもったいないから
物語に入り込んでた至福の時間の記憶を長引かせたいから
というように読みました。
深く大きく造り込まれた設定、
驚きと美しさを伴ったメタ的な手法、
建築物への
趣向、
センチメンタルなロマンスの味付け
(女性の裸体もきれいに描いてあるなあって。)
いやあ大好き。
"マンガ"に付随した虚構テキストに触れるのもこれまた贅沢な体験で嬉し。
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とても空想的でいて写実とディテールで地に足がついた、夢とは違う現実から数歩ずれた世界の楽しさ。銅版画的なタッチ、メディアを横断する手法も魅力的。結末はどれも謎めかせつつも捨て鉢でなく後味も良い。
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好きな人にはたまらないというのも分からなくはないけど。
絵は綺麗だけど淡白。質感と言えばいいのか艶と言うべきものかとにかくイラスト集なら納得だけどコミックとして読むには何か物足りない。
背景は綺麗だけど人物には魅力がない。絵に描いた餅のようで巧いけれど人らしさがない。
学者の机の上で何の仕掛けもなく巨大化する籠細工を目にしてもその不気味な現象を恐れもせずに、これは素晴らしい発見だと興奮したりそんなものを礼賛すべきではないと人対人で反発している。
フランス映画を見て感じる淡々とした空気がある。人々は驚いたり恐れたりするようなものに対面してもほんの少し動揺したあとあっさり受け入れてしまう。文化の違いなんだろうか。
作者からしたらこれが当然で、日本のコミックなんかはいちいち大げさに驚きすぎなのかも。大人が対象年齢の低いコミックを読むと何を大げさなと思うシーンが沢山あるけど、対象年齢の高いものを読んでも何を大げさなと感じるような人であればこの本が面白いと思えるかもしれない。
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絵の質感がとても良い(個人的好み)。
ただし日本の漫画の絵柄・コマ割りとは方向性が当然異なるので、読みづらさを感じるのは確かです。
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400ページの重厚なバンド・デシネ。闇の国々といわれる別世界で起こる色んな御話。
1巻は白黒漫画かと思っていたがカラーのページもあった。あとがきで知ったがこの日本版はフランス本国の1巻から順番に掲載しているわけではないようだ。
この巻には3つの話が載っていた。
最初の狂騒のユルビカンドでスクイテンの建築物の造形美凄いとなり、塔では白黒漫画の中に色付きの世界が表れて感動して、最後の傾いた少女で絵と写真を使い闇の国々と現実世界が上手い具合に混じり合い驚いた。
あとがきにある傾いた少女に纏わる手紙の話も素敵。
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見事な構築。
冒頭に地図があり、そこにある国々でおこる物語が掲載されている。
1巻の時点では、それぞれの話はまだつながっていない。
読者は壮大なイマジネーションの中をさまようことになる。
巨大な建造物、奇想天外なストーリー。
スクイテンは昔、リトル・ニモを描いていたと記憶しているが、当時から建物を見事に描く作家だった。
徐々に時代が変わっていくのも楽しい。巻が進むにつれて、現在や未来が描かれるのだろうか。