紙の本
知恵と信仰と人間
2018/09/23 17:10
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:イシカミハサミ - この投稿者のレビュー一覧を見る
時は十二世紀フランス。
名もなき現象を奇跡と名付けて、
それは人の欲望を呼び起こし、
大きなうねりとなって他者を巻き込み、
信仰を象る聖地を目指す。
生きる知恵の流布のため有効な宗教も、
金銭と権力ですぐ濁る。
知恵は科学と名を変えて、
今、人類の世を席巻したかのように見えるけれど、
人の世は流転。
同じことの繰り返しに過ぎないなー。
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史実に基づいた物語。
信頼と疑心、純粋と不純、真実と嘘などたくさんの人と思惑が交錯しながらエルサレムに向かい最終的に子供たちが出した結論に、1つの人生の歩みを見たような気分になった。
修道士や騎士、神や悪魔などが作中や文面に出てくるものの思っていたほど宗教色の強さもファンタジーも感じなかった。それだけリアリティーのある安定した文章で、とても読みやすかった。
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単行本で読んだので再読。
題材は決して明るいものではないが、作中の雰囲気は不思議と明るい。ラストも救いがある。初めて読んだときはあまり気にしていなかったが、どちらかというとジュブナイル寄りの内容だった。著者のジュブナイルには『倒立する塔の殺人』があるが、そちらよりも正統派だと思う。
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奇跡を起こす羊飼いの少年エティエンヌと、そこに集う少年少女と狡猾な大人達がエルサレムへ向かう物語!
弩使いの少年ルーは誰よりも頼りになります。
フルク修道士はムカつきます。
レイモンにもムカつきます。
ピップの『エティエンヌが居るから大丈夫』にも段々ムカついてきます。
キリスト教の失敗は教会という組織を作った事かと思います。
それと金を払えば罪が赦されるというのも教会と罪人が得をして被害者は救われないよね!とも思えます。
何れにしても信仰というのは他人に迷惑を掛けず自分の為に心の中だけで祈っていれば良いのにと思います。
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不条理な世界に翻弄される子供たち.面白かったのだけど,いまいち波に乗り切れなかった.
以下あらすじ(背表紙より)
13世紀フランス。“天啓”を受けた羊飼いの少年エティエンヌの下へ集った数多の少年少女。彼らの目的は聖地エルサレムの奪還。だが国家、宗教、大人たちの野心が行く手を次々と阻む―。直木賞作家・皆川博子が作家生活40年余りを経て、ついに辿りついた最高傑作。
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なんだか不思議な読み心地。
http://feelingbooks.blog56.fc2.com/blog-entry-1091.html
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何とも冷静であり、シニカルな小説だと思った。
そして最後まで、「神」と「奇跡」の正体についての謎が明かされていない。
結局、発端となる事件の真相については、それが人為的に仕組まれたことなのか、それとも本当に神による奇跡なのか、断定的には書かれていない(と私は読んだ)。
その正体が最後まで巧妙に隠されていて、まるでミステリー小説のようにスリリングですらある。
見ないで信じる者は幸いである。
それならば、見た上で、それでも信じ続ける者はどうだろう? 哀れだろうか? 不幸だろうか?
神はいるのか?
奇跡は誰が起こしたのか?
分からないけれど、少なくとも歴史を作り出したのは人間だ。
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聖地奪還のため、“天啓”を受けた少年・エティエンヌの下へ集った数多の少年少女。彼らの行く手を阻むものは、果たして――。
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特別な少年と、粗野な少年の対比がよかった。
本書の、聖職者は、聖職者(笑)表記でいいと思う。暮らしが良くなればその分、怠けたり欲が出るんだなと実感した。それが人間なんだけどさ。もちろん、真面目な聖職者もいるんだろうけど。
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クライマックスの『試練』『選択』の残酷さよ……
が、この二つこそが人間が一生負い続けるものなのかとぞっとした。
なんといっても作者の筆力の素晴らしさ。手に汗握ってしまった……
物語としても、これだけの人数が出てくるにも関わらず、一人一人が生き生きと活写されている。
十三世紀という時代、どれだけ「神」という存在が人を救い、その何倍も人を苦悩させたのか。正直、何もかも「神」中心になる当時の人々の心情には寄り沿えないが、無垢な人々がいるのと同じくらい、狡猾に「神」を利用している人々の逞しさにも感心させられた。
キャラクターがすべて素晴らしい。
ラスト、「無」から生きる手ごたえを取り戻したいと思ったガブリエルの目に、実はルーこそが神のように見えたのかも、なんて思ったり……
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一点の染みもない潔癖な少年と無垢な子供たちが、乳と蜜の流れる聖地を目指す。罪に汚れた大人たちに利用されながらの旅の果て、新たな試練の始まりのラストに光明と切なさが入り交じる♪。
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13世紀に実際にあった少年十字軍をテーマに描かれたお話。
難解そうに見えて、意外にさらさらと読める。それは、登場人物は多いのに、それぞれが生き生きと魅力的に描かれているせいかも知れない。
エティエンヌに心酔する子どもたち、信じてはいないけれど追随する者、利用しようとする者、そして訳も分からずただ参加する者。様々な思惑が絡み合いながら旅は続く。
神の不在、死後の世界と無宗教の人間には正直理解できない部分はあるけれど、中世的なちょっと暗くて閉鎖的な雰囲気は伝わってくる。
身勝手な大人たちに腹が立つと同時に、エティエンヌがいれば大丈夫と無邪気に繰り返す子どもたちの残酷さにも慄然とする。すべてを背負い込もうとするエティエンヌが痛々しくて切ない。
でも、史実よりも少し希望の持てるラストに救われる。
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世界史上、有名なエピソードに基づくお話。
「少年十字軍」と言えばいい印象を持っておられる方は少なかろう。
当時のヨーロッパや聖地をめぐる云々、縁のない日本で育ったものにはなかなか理解しがたいものがあるし、安穏と状況に納得いかぬことが多々ある。
それはおそらく、当事者においても同じことであったろう。
哀れな少年と彼をめぐる仲間たち、愚かな大人、誰一人幸せを享受できぬまま終わるストーリー。
この先、彼らに平安が訪れるかどうか、かすかな希望すら打ち消される不安感。
ヨーロッパや中東、アフリカ北部は歴史的にもこの先安定することはないことを知っている現代のわたしたち。
悲哀のもとに終わってゆくであろう彼らに、つかの間の安息を願ってやまない。
著者は昭和5年生まれの方、ということだが、古さを感じさせないどころか、新人作家のようなみずみずしさを含んでいる。故に作品中の哀れな人々の描写を冷静に受け止めることができた。
前知識がなくとも楽しめる1冊なので、機会があれば是非読んでいただきたいお話である。
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少年十字軍の悲劇を知っていれば
この子達にどんな結末が待っているのか
それを作者がどれだけ耽美、爛れた
退廃的な世界に描くのかと思いながら
読んでいったのだけど。。。
神への信仰を表面にあらわしながら
俗な人間の欲にまみれ浸りきった大人たちに
(あぁ大人の世界を縮小版で濃縮している
レイモンにもか)利用され、試され、裏切られ、
翻弄される子供たちが、ただ一心に信じている
苦難からの解放、自由な世界、導いてくれるはずの
エティエンヌ。
染まって汚れたものも、純粋なものも、全て背負い
その身を削りながらたどり着く先は。
ぜひ読んで、余韻に浸ってみてください。
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青少年向けのため、いつもの皆川先生らしくないかもね(笑… 叙述トリックもない ドロドロな展開もない、芳醇な描写や余韻たっぷりのエンディングが相変わらずいつもの皆川先生です。昔十字軍東征の映画を観たが、今回小説のベースの少年十字軍のお話は知らなかった。今度古屋先生の漫画も読もうかな〜