電子書籍
父のビスコ
著者 平松洋子
三世代の記憶を紡ぐ初の自伝的エッセイ集。『本の窓』人気連載を元に、昭和、平成、令和にまたがる三世代の記憶を紡いだ、著者初めての自伝的エッセイ集。-目次より-「父のどんぐり...
商品説明
三世代の記憶を紡ぐ初の自伝的エッセイ集。
『本の窓』人気連載を元に、昭和、平成、令和にまたがる三世代の記憶を紡いだ、著者初めての自伝的エッセイ集。
-目次より-
「父のどんぐり」「母の金平糖」「風呂とみかん」「ばらばらのすし」「やっぱり牡蠣めし」「悲しくてやりきれない」「饅頭の夢」
「おじいさんのコッペパン」「眠狂四郎とコロッケ」「インスタント時代」「ショーケン一九七一」「『旅館くらしき』のこと」「流れない川」「民芸ととんかつ」「祖父の水筒」「場所」「父のビスコ」ほか。
「金平糖が海を渡り、四人きょうだいが赤い金平糖の取り合いっこをする日が来ていなければ、いまの自分は存在していない。もし、祖父が帰還できなかったら。もし、岡山大空襲の朝、祖母ときょうだいたちがはぐれたままだったら。もし、父の目前に落ちた射撃弾の位置がずれていたら。『もし』の連打が、私という一個の人間の存在を激しく揺さぶってくる」(「母の金平糖」より)。
『旅館くらしき』創業者による名随筆を同時収録。
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紙の本
父とともに紡いだ最後の時間
2021/11/26 07:06
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
思い出は食べ物と相性がいい。
懐かしい日々は、あの時食べた料理から立ち上るまるで湯気のように、自身にまといついてくる。
エッセイストの平松洋子さんの作品は、これまでにも食べ物について多くを語ってきたが、小学館のPR誌「本の窓」に2018年の夏から4年にわたって連載してきたものをまとめたこの本は、少し肌合いが濃い。
というのも、平松さんが生まれ育った岡山・倉敷の日々が、平松さんの言葉を借りれば「遅まきながらようやく私なりに遠い時間のなかに分け入」る心持ちになったということ。
それは、すなわち自身の子供時代や両親とのことといった思い出に向き合うことである。
そして、平松さんの場合には、それは多くの食べ物とつながっている。
平松洋子さんは、1958年に倉敷市に生まれた。
倉敷というと大原美術館のある美観地区を思い出すが、平松さんの実家もかつてそこから歩いていけるところにあった。
だから、エッセイの中には岡山の郷土料理といわれる「祭りずし」の話や牡蠣めし、倉敷の銘菓むらすゞめ、などが自然と出てくる。
それだけではない。
給食に出たコッペパン、町の片隅で味わうコロッケ。そして亡くなる前に父が求めたビスコ、といった、誰もが生活の中に持っている食べ物との思い出が綴られている。
この連載が始まった時、平松さんの父親は晩年の日々の中にいた。そして、表題の「父のビスコ」にあるように、長い連載がおわった時間とともに逝去なされた。
この作品は、長女だった平松さんが父とともに生きた最後の時間から生まれたものだ。