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評価内訳
2023/09/23 20:57
投稿元:
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’樹の人’ではなくて『人の樹』。そう、樹人と呼ぶと’樹木の性質を持った人’ということになるが、本作品集に登場するのは’人格・人間性を持った樹’であり、スタンスとしては自然側、神霊的な領域に属するある種のファンタジーな擬人的存在を描いた短編作品集。 18話収録。 村田喜代子先生の作品には『飛族』(9784163909899)と『姉の島』(9784022517623)の2作品に触れてきたが、どちらの物語も最老境に至った人の暮らしや気持ちと、人々が向き合い対峙する自然の果てぬ巨きさや底知れぬ厳しさ、やがて迎える命の地平を見つめたものだったように感じた。 そこへ行くとこの『人の樹』は趣が少々似て非なる。 樹と人が関わり合い、樹と自然が関わり合い、人と自然が関わり合う。その関係性のなかから’命’の有り様を浮かび上がらせようとしているのではないだろうか。 植物だけでなくて例えば鳥や魚との対話ではダメなのか?とも考えてみたが、やはり樹木や草花は自由な移動が難しいという制限がある事に加え、基本的に樹は一世代の寿命が動物に較べて長いので蓄積・表現出来る知見や含蓄が大きくなるし、一転して花であれば途端に薄命の趣を纏わせる事が出来る等と創作展開的にも何かと良いのだろう。 沢山の植物が登場するので、調べながら読み進めた方が理解が一層深まるだろう。 以下、印象深い話をいくつか。 〈燃える木〉…オリエンタルな雰囲気と吹き抜ける砂嵐を肌に感じる作品。ゴビ灘に立つ防風林の「ポプラ」の木の枝に引っかかる色々な生き物の魂とポプラの木との交流。そこへ若い坊主の魂も引っかかっていて、問答の末に…という話。終わり方が衝撃的。「ゴビは小石と乾いた泥でできた、不毛の荒れ地だ。(中略)こういう土地を中国では灘と呼ぶのだ。」(p73)。ほー。 〈とむらいの木〉…森林組合長だった猿田の爺さんが八十九歳で死んだ。爺さんに世話になった樹たちが連れ立って通夜に行く話。しんみりした中にもどこかのんびりとした空気が漂い、後半の〈タラヨウ〉の様子には思わず笑ってしまった。 〈ナミブの奇想天外〉…予想外のホラー風展開。登場する「ウェルウィッチア」は別名「砂漠の行き倒れ」(p185)と呼ばれているらしく、植物の画像を見てみたら大いに納得。詳しい人ならタイトルだけでピンと来るかも。ただ、匂いや質感についてはちょっとよく分からなかった。人の業を感じる作品。 仕方ないかも知れないが、どの話も短編では趣旨を掘り下げるにしても空気を創り上げるにしてもページが全然足りていない気がする。上記の〈とむらいの木〉など特に、猿田の爺さんと樹木との過去の関わりについてをむしろ読みたかった。せめて3話完結とかの構成で良かったのでは? 1刷 2023.9.23
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