紙の本
愛のカタチを読み尽くす
2017/07/16 12:13
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:szk - この投稿者のレビュー一覧を見る
女と男のカタチいろいろ。愛のカタチもいろいろ。騙し、騙されそして深みに嵌って行く。騙している時、幸せになれると信じているんだよね。その盲目的な感情が負であることに気づかずに。どんな冷静な人間でも一度「恋」に、しかも報われない可能性を秘めている「恋」に堕ちてしまうと藻掻こう藻掻こうとして、正しい判断ができなくなってしまう。そういう危うい感情を清廉でありながらも、恐ろしさや悲しさを含んだ筆に載せるのがとても上手い。いつのまにか視点が男になり女になり、あたかも当事者のような臨場感で読み終えている。愁嘆とともに。
紙の本
ミステリーの基本
2022/05/03 08:32
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:藍花 - この投稿者のレビュー一覧を見る
大正9年、カフェ「入船亭」で女給が殺される。「私」は、そこで出会った女が殺したのではないかと疑う。
表題作を含む5篇は、いずれも「女」の情念をミステリーの中に描いた作品。特に「花虐の賦」と「未完の盛装」は、ミステリーの基本を驚きの発想で描いた傑作。
連城さんは、米澤穂信さんもお薦めの作家です。この作品で、初めて連城さんに触れたのですが、今まで読んでいなかったことの後悔と、素晴らしい作家・作品に出会えたことのうれしさでいっぱいです。
ミステリーなので、内容を語るより、とにかく読むことをお勧めします。
投稿元:
レビューを見る
今回の短編集も全作品面白かったのだけれど、一番凄いと思ったのは「未完の盛装」 次第に見えてくる事件の全容 終わりに明かされた、重なり合う登場人物たちの思惑の最も下に隠されていた犯人の驚きの真意 意表を突かれる告白でありながら、その人物の心の動きがごく自然に腑に落ちるのが素晴らしい 「野辺の露」や「花虐の賦」の真相の逆転も見事
投稿元:
レビューを見る
久しぶりに読んだ連城作品。大変よかったです。
文章はクラシックな感じがしますが、わかりやすくてストーリーに深みもあって、さすがといったかんじです。
投稿元:
レビューを見る
女と男のカタチいろいろ。愛のカタチもいろいろ。騙し、騙されそして深みに嵌って行く。騙している時、幸せになれると信じているんだよね。その盲目的な感情が負であることに気づかずに。どんな冷静な人間でも一度「恋」に、しかも報われない可能性を秘めている「恋」に堕ちてしまうと藻掻こう藻掻こうとして、正しい判断ができなくなってしまう。そういう危うい感情を清廉でありながらも、恐ろしさや悲しさを含んだ筆に載せるのがとても上手い。いつのまにか視点が男になり女になり、あたかも当事者のような臨場感で読み終えている。愁嘆とともに。
投稿元:
レビューを見る
二人の人物の関係性に焦点を当てた作品集で、いずれも騙し絵のように、見た目とは裏腹の真相が判明する。
「能師の妻」
能楽師藤生信雅の死の直前に正妻となった篠と、前妻の子である貢との心理的・肉体的葛藤を描いた物語。技量は秀でているが心が伴わぬ貢がどのようにして「井筒」を見事に舞うことができたのか、貢の遺体の一部だけがなぜ離れた場所に埋められていたのか、といったミステリー要素を持っている。
「野辺の露」
妾を作った夫暁一郎に裏切られた妻杉乃と、杉乃に同情した義弟順吉との道ならぬ恋の顛末を描いた物語。
二人の間にできた不貞の子暁介が暁一郎にいじめられていることを知って順吉が悩み苦しむ、そういう話だと思っていると足をすくわれる。
杉乃の順吉に対する想いを、「あなたの懐に潜んだ一匹の鈴虫の遠い鳴き声」に例えた表現が印象的。
「宵待草夜情」
元画家の古宮と、カフェの女給鈴子の束の間のふれあいを描いた物語。
カフェで鈴子と反目していた照代が殺され、現場の状況から古宮は鈴子が犯人ではと疑いを持つが、鈴子にぜひ見にいってほしいと言われた待宵草の群落を見て、鈴子の秘密、鈴子が何に苦しんでいたのかに気づく。
蛍の蛍光、喀血の血といったアイテムが真相にうまく活かされている、
古宮が友人の白川に対してしたことと、それを再現した鈴子のしたことが印象的。
「花虐の賦」
劇団の主催者で劇作家の絹川幹蔵と女優川路鴇子の二人の、人形師と人形のような関係を描いた物語。
絹川が、自作「貞女小菊」のヒロインとして思い描いていた女性とそっくりな鴇子に出逢う場面が印象的。
二人の関係をもとにした劇「傀儡有情」の祝賀会の夜に自害した絹川、その四十九日に後を追って自害した鴇子、そう思っていると足をすくわれる。
「傀儡有情」で絹川役を演じる片桐の視点でこの作品は語られるが、絹川が自害した理由が謎であり、鴇子が四十九日の日を間違えていたことなどから、見掛けとは裏腹の真相に片桐は気づく。
「未完の盛装」
クラブのママ葉子と、そのヒモのような存在の吉野を中心とした物語で、かなり複雑な構図を持った事件であり、最後まで読むと二段構えの反転構造を持っていることがわかる。
15年前の元夫毒殺をネタにした強請り、警察に届いた時効まであと3日あるとの元刑事からの密告、元夫の死亡日を巡る混乱、死亡日を知っている医師の殺人事件発生等、目まぐるしく話は展開する。
赤松はあることから勘違いに気づき、事件の背後にある真相を推理し、それを確認しようとある人物に接触すると、さらに意外な真相が告白される。犯人が隠そうとしたもの、医師を殺した理由等、すべてが反転する。
15年もの間、犯人が持ち続けていた心情が悲しい。
投稿元:
レビューを見る
ミステリ短編集。どれもが男女の歪んだ愛憎物語を描いたもので、じっとりとした情念と恐ろしいとまで思えるような驚愕の真相が待ち構えています。だけどそれと同時に、どの物語もひどく情緒にあふれていて美しく感じられました。じっくりと雰囲気に浸りながら読みたい一冊です。
お気に入りは「能師の妻」。恐るべきバラバラ殺人と、人間消失の謎。その真相は衝撃的でした。もうあまりにとんでもない物語で絶句するしかなかったのだけれど。どこかしら美しく哀しい「愛」が見えるところもまた印象的なんだよなあ。
「花虐の賦」も好きな一作。逆転の発想というか何というか……こんなの思いつきません。これもまたあまりに愚かしいと言ってしまえばそれまでなのだけれど。美しく哀しい物語、の印象が強いです。
投稿元:
レビューを見る
明治、大正、昭和初期を時代背景に男女の一筋縄ではいかない恋情を底辺に、そこで起こる事件を著した短編ミステリー集。
時代背景から、またその作品テーマから江戸川乱歩や横溝正史を連想させる。
男女関係をミステリーと絡ませていることで、二人の複雑な関係性や心模様がより際立つようだ。ただ謎のタネが少し強引すぎるところもあり、一度で理解できにくい謎解きもあった。単なる謎に迫る作品というだけではなく、耽美的な文章が魅力の作品である。
投稿元:
レビューを見る
連城ATB1位「花虐の賦」収録
「戻り川心中」と並ぶ最高傑作集。男女の色恋を繊細かつ緻密に描き、複雑に絡み合う美しき反転の数々で読者を魅了する。「花虐の賦」はまさに至極の一作。「戻り川心中」をも凌駕する驚愕の動機と、鴇子の生き様に強く心を突き動かされる。「未完の盛装」も氏らしい超絶技巧が光る。
投稿元:
レビューを見る
先日の読書会で紹介して貰った、はじめての直木賞作家連城三紀彦さん。ミステリー短編集。時代は明治、大正、昭和、舞台は能、新劇、カフェ、クラブ。ちょっとダークな男と女の情に引き込まれました。
投稿元:
レビューを見る
内容(「BOOK」データベースより)
大正九年の東京。祭りの夜に、カフェ「入船亭」の女給・照代が殺された。着物を血に染めて店を出てきたのは、同じ店で働く鈴子。鈴子の恋人・古宮は、彼女が殺したのかと考えるが。はかない男女の哀歓を描き、驚きの結末を迎える表題作ほか五篇。人の心の底知れぬ謎、深く秘められた情念から、予想をはるかに超える真実が立ち上がる。不朽の傑作ミステリー、待望の新装版。
投稿元:
レビューを見る
「戻り川心中」で美しい文章とミステリの両立に受けた衝撃再び
繊細な文章、そしてそれによって作られる世界観が美しくて、その美しさに浸りたくて読み返しちゃう
中でも「書きたい人のためのミステリ入門」で読書会として取り上げられていた「花虐の賦」の鮮やかさはさすが
投稿元:
レビューを見る
”書きたい人のミステリ”新潮新書から。同作幕間で、ネタバレになるから絶対に作品を読んでから、って書かれていたから、その部分だけ飛ばして読んでいたもの。今回、やっと本作にあたれた。5本の短編から成る本作だけど、とりあえず、同新書で取り上げられていた”花虐の賦”にトライ。初めての作家じゃないし、巷間で言われるほどの思い入れがないので、それを読んで高揚しなかったら、他のはまあいいかな、と。で、結果、同短編を読んだだけで、本作を置いたのであった。改めて上記新書も読み直したけど、そこで熱く語られているほどの感動を、自分は受けられなかった。残念。
投稿元:
レビューを見る
今回も連城作品である、連城三紀彦ファンとして常々利用しているサイトがあり、次に何を読むべきか?刊行年月日からの関連性、作品に共通するテーマ、などなど膨大な情報に溢れており、大い活用させていただいている。
https://w.atwiki.jp/renjodatabase/ 連城三紀彦データベース(仮)
紹介させていただきます、興味ある方訪問をお勧めします。
ここのサイトにより注目していた作品が今作「宵待草夜情」であり「戻り川心中」からの流れを汲む、明治期から昭和初期を時代背景に据えた男女の愛憎絡まりつつもミステリとしての定石、事象の反転、伏線の妙 など連城短編ミステリの中でも名著と評されているようである。またサイト内にて短編のオールタイムベスト10が公表されていて(ツイッター上でのアンケートを集計したベストのよう)その中でのベスト1が今回「宵待草夜情」収録の「花虐の賦 」である。2位は「戻り川心中」僅差ではあるようだが、戻り川を抑えての1位である!期待値は非常に高かった。
そして読了した訳であるが、総じて「戻り川心中」と並び立つ傑作であった。流麗なる言葉で綴られたひと昔前の日本、現代とは異なる生活環境、現代にも通じる男女の愛憎、ミスリード、伏線、ミステリテクニックを駆使し美しくも哀しい物語を創造し得ている。
個人ではブクログ上でブックリストに連城作品ベスト3を公開している、1位2位は揺るがないが、3位は再考が必要かもしれない。それだけの短編に巡り合えた。以下作品ごとに己の記憶保持のために…ネタバレあると思います!ご注意してお進みください。
「能師の妻」<第1話・ 篠>
この短編集においては主人公の「女」の名前がサブタイトル的に提示されている。各話には必ず女が濃密に絡んでくる、という読者へのメッセージなのか?作者の明確なる意図は読めないが、なんとなく雰囲気は伝わる。この第1話は花葬シリーズの先鋒を切る予定だったようである、花葬ならではの花のモチーフは桜である。冒頭から桜の樹の下から数十年前の遺骸が発見される、その遺骸の謎を追っていくのが本筋である。
伝統芸能「能」の世界において女であるが故の、篠の業の深さやるせなさに胸がつまる。才能溢れる若き芽との師弟関係においても、その関係は余人には理解し難い関係であり、その関係の発展に苦悩しつつ選択せざるを得なかった手段が、さらに救えない。ミステリ的には人体消失であり、解決は仄めかされるに留まるものの、女の生きざまを近代日本の中でこのように描き、報われない人生を晒してくる。一編めで強く心を揺さぶられる。
「野辺の露」<第2話・杉乃>
こちらの構成は独白形式で進んでいく、義理の姉との不貞関係に端をなす、その夫、語り手の実兄の殺人事件、さらにその犯人が不義の子、という絶望的状況下である。義理の姉との不貞に至る描写が、このうえなく煽情的エロティックであり、まず情景描写からシーンを脳内再生することに我を忘れてしまう。しかしながら隠された真実は恐ろしすぎる女の奸計であり、その暗い復讐の焔を抱き続け、やり遂げた女の怨念に戦慄する。ひたすら怖い女の物語であった。
「宵待草夜情」 <第3話・鈴子>
時代は大正ロマンの只中、病に疲れ死に場所を求めさすらう男と、カフェの女給の一時の出会いを描く。刹那的であるようでいて深い親愛に溢れているような、そんな一時を、著者得意の抒情的筆で綴っていく。今作がこの短篇集の白眉である、と思った。個人的趣向であるが、読み進める毎に、ページをめくる度に豊かな色彩を持って情景が頭に流れ込んでくる。川沿いの半地下のカフェ、ステンドガラスの色合い、ランプの暖かな灯り、男の吐血による鮮血の鮮やかさ、一本の映画を視聴するに等しい情報を活字のみで得られた。この感覚は個人的ベスト1「桔梗の宿」以来といっていい。そして連城作品において読者に求められる読解力に気づく、色彩を正確に理解する能力である。これを伴うことによって連城作品を読む深みが格段に増す!間違いないと思う。浅葱色(あさぎいろ)これがどんな色彩かを例を持って理解できるだろうか?色彩の描写には古風な言葉を多用しがちなのが連城作品であり、その言葉には単に色を指定するだけでない深い意味が存在する。
今作では、この「色彩」が物語の本質に深く関わっている、この真相に辿り着くための伏線が巧妙に張られており、真実に気づく風景と色彩とが相まってミステリとしての完成度も男と女の小説としての完成度も両立し得ていた。
今作のトリックについては過去の既読作品で経験があるが、(横溝正史、麻耶雄嵩)その本質については今作の描写が正確無比であるようだ、自分自身も誤解をしていた。宵待草の小さな花弁の儚さが心に刻み込まれた。
「花虐の賦」 <第4話 鴇子>
今作も期待が高かった、そして期待通りの素晴らしい、正に連城作品らしい傑作だった。こちらも時代は大正である。演劇界に突如として現れた新星、女優川路鴇子、演出家絹川幹蔵の自死を巡る物語である。今作に関してはミスリードの巧妙さが群を抜いている。そこから炙り出される事象の反転は連城作品中でもド級の出来栄えであると思う。ベスト1を名乗るだけの出来ではあると思った。
鴇子の一見ぶっ飛んだ行動の裏に隠れていた真実は、辛く切ない。自らの思いを心からの誠意で受け入れてもらえず、破滅の道を選んだ絹川もまた哀しい。ミステリと男女の愛憎絡まる恋愛ドラマを見事に両立させた、作家連城三紀彦らしい作品だった。ただ個人的に残念に思うことがあり、その部分が今回短編集において、宵待草の後塵を拝することになった。鴇子には幼い実子がいたのに…ここを彼女はどう考えていたのだろ?一切筆は割かれていなかった。
「未完の盛装」 <第5話・葉子>
今作は時代が最も新しく、戦後から現代に続く。短編の中に目まぐるしいほどの場面変換があり、何がどうなっているのか?理解が追い付かない?と思っていたら、ドンデン返しがキレイに決まって、最もミステリらしいミステリであった。なんとなくであるが��連城誘拐モノに似たテイストだったかもしれない。
総じて素晴らしい作品が凝縮された最高の短編集だった。一番気に入ったのはタイトルになっている「宵待草夜情」であった。