商品説明
時は元禄――旗本の息・徳山五兵衛(幼名・権十郎)は、妾腹の子ゆえに父から疎まれていた。剣の修行に明け暮れる十四歳の初夏、侍女への無謀な振舞いがもとで、父子の不和は決定的となった。四年後、道場主の他界を機に、一介の剣士として生きようと同門の浪人剣客・佐和口忠蔵を慕って江戸を出た。父はこの出奔を利用して、執拗なまでにわが子廃嫡の策謀をつづけていた。
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紙の本
実在の人物、徳山五兵衛秀栄(とくのやまごへいひでいえ)の生涯を描いた人物伝。
2009/11/28 20:24
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:toku - この投稿者のレビュー一覧を見る
大悪党とも義賊とも言われる日本佐衛門を捕縛し、火付盗賊改方として活躍した旗本・徳山五兵衛秀栄(とくのやまごへいひでいえ)を、池波風の骨太で人間味に溢れた人物として描き、その生涯を綴った小説。
かなりの部分はフィクションだと思うが、池波氏の創作によって徳山五兵衛秀栄という人物が強く印象づけられた。
物語は、父・重俊、義理の母、義理の兄からの疎外されながら、用人・柴田宋兵衛とその娘・千の愛情を受けて育った五歳頃の権十郎(秀栄)から、生涯が閉じるまでを描いている。
徳山五兵衛秀栄の生涯が描かれると同時に、京で出逢ったお梶から送られた男女の愛欲を描いた秘戯図の模写への没頭、お梶とその娘・お百合との情景や愛欲を描いた賀茂川櫛絵巻の創作に没頭する『おとこ』としての五兵衛を描いている。
五兵衛の生涯は、
・中山(堀部)安兵衛が助太刀する高田馬場の決闘の目撃
・安兵衛の剣術の師・堀内源左衛門の道場への入門と剣術の道への傾倒
・父による権十郎(秀栄)の廃嫡騒ぎ
・出奔
・京へ行くまでに出会った不思議な縁
・権十郎の愛欲
・親戚たちの援助
・用人や若党・小沼と交わす情
・将軍吉宗との出会い
・道場の兄弟子として慕った佐和口忠蔵と京への道中に知り合った不思議な人々との接点
・火付盗賊改方としての活躍
・秘戯図への没頭
など、とにかくさまざまな出来事と関連性で描かれており、読み進めて行くに従って、五兵衛の世界に引き込まれていく。
このように魅力のある作品であるけれども、中巻の中頃までは、のちの五兵衛による述懐が挿入されることがしばしばあり、物語の世界に入り込んだ主観的視点から、述懐によって客観的視点に置かれるような、視点の不安定さによって読みづらさを感じた。
ところで作中には、実在する徳ノ山稲荷の話が語られている。
作中で五兵衛が奥庭の一隅につくった日本左衛門を祀った祠は、のちに五兵衛の御霊と合祀され徳ノ山稲荷となり、日本左衛門首洗い井戸の碑が建てられる。
池波氏はこの徳ノ山稲荷と日本左衛門首洗い井戸の碑を、上手い具合に物語に組み込み、本作品に登場する道場の兄弟子だった佐和口忠蔵と関わらせて稲荷の祠を作った理由としているのが興味深く、物語にアクセントを加えているように思う。
本作品で特に印象に残ったのは、五兵衛の最後のシーン。
下巻、五兵衛の死に際して、妻の勢以が耳元でささやいた『いま一度……いま一度、四十余年前にもどって、初めより、やり直しとうございました』という言葉が、とても印象に残った。
五兵衛の下書きを見つけ、そして秘戯図の模写と賀茂川櫛絵巻を見たかもしれない勢以が、五兵衛の『おとこ』に応えられなかった自分を悔い、五兵衛ともう一度、夫婦の情を酌み交わしたいという思いが伝わってきた。