紙の本
大江ならでは
2021/12/28 14:35
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投稿者:ichikawan - この投稿者のレビュー一覧を見る
タイトル通りエドガー・アラン・ポー、そしてナボコフの『ロリータ』などをふまえたものだが、大江自身の人生やルーツと戦後日本という要素を力業で統合するのは、大江ならではの作品であろう。
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この世界の美しさ!青年、壮年、老年と印象的なあるフィルムのヒロインを巡る話なのだがこの女性が主役、というよりは私(古義人)のみた世界の話。
それぞれのシーンのうつくしさに読んでいてはっとなる。
老いて行くロリータ
でてくるのは老人ばかりなのに妙に耽美
唐突に終わるのがまたリアルで不気味
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まず、表紙裏の解説には「老人たちの奮闘記」てなことが書いてあったけど、私は全くそうは感じなかった。
虐待にあった女性が傷へ向き合い、再生へ。
それが「ミヒャエル・コールハース計画」を通して語られている。
主人公は大江自身を思わせる作家であり(私は大江作品を初めて読んだのでいつもこうなのか定かではないが)どこまでが現実なのかどこからがフィクションなのかわからなくなる。その境界から、読み手はいつの間にかフィクションの世界に誘われていくのか。
でも私は全くフィクションのほうが入り込みやすいな。
こういう設定だと書き手は人物設定が簡単で済みそうな気がする。
きっと、木守は映画の完成を待たずに亡くなったのではないかな。
でも主人公の書いたシナリオですべてを見届けた心持ちで満足して逝ったのだろう。
色々と頓挫した計画だったが、最後はハッピーエンドだったに違いない、と私は思っている。
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大江氏の作品としては標準的。やや消化不良?やはり長編が読みたくなる。
これを読む前に、「人生の親戚」を読んでおくことで、この変奏を楽しめるはず。
にしても、単行本時の「臈たしアナベル•リイ 総毛立ちつ身まかりつ」という秀逸なタイトルが変更されてしまったのはなぜたろうか?
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この作品から新しい大江の文体が披露された。アナベル・リィの詩句を巡る着想、意識的な文体の改変に纏わる話、そして女性が中心となって物語世界をドライブさせていく。ここに来て新しい大江を見ることができるなんて!次作「水死」で見事な結実を生む脈動に溢れた作品。
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これまでおよそ時系列で大江健三郎の著作を読んできましたが、ピンチランナー調書辺りから主題と言うか、小説を書く目的みたいなものが少しずつ変わってきている気がします。
前期は人間の虚飾や欺瞞や、ありとあらゆる醜い部分を徹底的にほじくっていますが、後期は虚飾や欺瞞をバイパスに、その先にあるものを書こうとしている様です。
私は作家としての大江健三郎自身に強い思い入れはなく、単純に作品のみを好んでいます。従って好みの問題で言えば、前期の方が圧倒的に好きです。だいたい作者が30代以前の作品が特に。
ただし若いころの作品は、若かったから書けたんじゃないかとも思います。
大江氏の場合、負の部分をほじくるなんて自分をずたずたにするようなものでしょう。そんなことを続けていたら、とっくに人間壊れてしまいますよ。
そこをうまくシフトして、ずっと日本の文学に関わり続けてきたのは日本のノーベル文学賞作家として誇るべきことだと思います。
もともと脆かったサリンジャーはすぐにトンズラしたくらいですから。
現在76歳の大江氏ですが、あとどれだけ書けるんでしょう。長生きして欲しいな。
なんかつらつら書いてますけど、本作に関しては健三郎もサクラさんも木守もなんだかバラバラでした。
三者三様の、沈殿した薄暗い気持ちをちゃんと描いていないように思います。だから微妙な濁度の上澄み部分だけ見せられたような、中途半端な気持ちになってしまいました。
11.05.26
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物語は、現在、70代になった作者が、大学時代の級友、木守に再会する場面から始まります。
そこから、二人が30年前に、とある映画を撮影する企画を通して再会し、また疎遠になっていく過程が回想されます。
国際的に映画のプロデューサーをしていた木守は、計画中の映画のシナリオを書かないか、と、級友だった作者を訪ねて来ます。その時、木守が連れて来た、海外で活躍する日本人女優のサクラさんは、作者が高校生の頃に故郷で偶然観た、プライベートに作られた映画、『アナベル・リイ』に登場した少女でした。
今回作られようとしている映画は、原作が外国のものですが、それを日本の農民一揆に置き換えようという事になり、そこで、作者の故郷で実際に起こった一揆を下敷きにすべく、色々と取材を始めます。
そこから更に、その農民一揆で要となった女性、メイスケさんの母に関するサクラさんの解釈等も加わり、どんどんと進んで行く「M計画」。
しかし、『アナベル・リイ』に隠された謎や、今回の映画に関わったカメラマンへのある犯罪疑惑等、暗い影が次々と落ちてきます。
そして遂に、「M計画」は中止へと追い込まれます。
更に、そのタイミングで、未だ悪夢に悩まされ続けるサクラさんに、完全版『アナベル・リイ』を見せた木守は、作者に陋劣だと罵られ、二人の仲は決裂します。
そんな出来事を経ての、30年後の再会。
それぞれ皆、老いてしまったけれど、映画の撮影は、再び進み始めるのでした。
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読み終わりました。
また以下内容でコメント更新予定。
作者略歴&他作品:
大江健三郎
本作品履歴:
全体印象・キーワード:大人な雰囲気、勉強になる、これ本当に小説なの?
オススメ読者:
全体感想:
あくまで淡々とした展開と自然体な語り口である一方、頭の中を「これはゼロから作られたものなのか?」という疑問が拭い切れない。中々読んだことが無いぐらいの作り様に、寒気がしました。小説家としての力を目の当たりに出来る。
部分感想:
Amazonなどコメントへの感想:
他類似作品:まだ思い付かない。
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アナベル・リイの夏目訳が読みたくて気になる。”ろうたし”がきいてる。それから強烈な甘い思い出。追体験してみたくもなる。
誰しも心の中に”アナベル・リイ”なり”ロリータ”なるファム・ファタールがいるものだろう。彼女はわすれられない思い出をまとって、甘い甘い魅力をふりまきながらふてぶてしくどうどうとしている。クライマックスの鮮烈さに思春期の圧倒的な影響力と、目の前という今の力の恐ろしさを感じた。すごく面白かった!
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高高遊民が悩んだり動いたりしながら映画を上映すべきか右往左往する物語。背徳的な描写だけ楽しめた。飼育や万延元年と比べるとショッキングさがないなあ。個人的には「大江衰えたり」な印象。【D】
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クライストの小説「ミヒャエル・コールハースの運命」を映画化するという
国際的なプロジェクトの一端に
シナリオライターとして参加することになった語り手は
「万延元年のフットボール」に書ききれなかった民衆蜂起のエネルギーを
その映画で再現しようともくろむ
しかし、企画は思わぬところで頓挫した
集められた子役のフィルムと、それを撮影したカメラマンに
児童ポルノ制作の疑いがかけられたのである
主演女優のサクラ・オギ・マガーシャックなる人物は
幼い頃、戦争で焼け出されてひとりぼっちだったところを
アメリカ人将校に引き取られ
後にはその将校との結婚に至ったという過去を持っている
彼女自身は、そんな人生を幸福なものだったと考えているけれど
しかし映画の中では、女性の自立を叫ばずにいられない
そしてなぜか夜毎の悪夢にうなされている
高校時代の語り手は
かつて松山市の堀端にあったとされるアメリカ文化センターにおいて
後に映画監督となり、義兄となる年長の友人とともに
幼いサクラさんの出演するフィルムを見ていた
ポーの「アナベル・リイ」を題材とした美しい映像であったが
それにはおぞましい秘密が隠されていたのだった
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一見したところは私小説風に書かれている。しかし、物語の核をなすヒロインのサクラさんは、その存在自体がどうやらフィクションのようなのだ。しかも、大江にとってはきわめて重要な「メイスケさん」や長男の光までをもメタフィクションに巻き込んでいく。大江文学の新しい表現の方法がここにあると見るべきなのだろうか。今すぐには、どう評価していいのか悩むところ。
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【本の内容】
かつてチャイルド・ポルノ疑惑を招いて消えた映画企画があった。
それから30年、小説家の私は、その仲間と美しき国際派女優に再会。
そして、ポオの詩篇に息づく永遠の少女アナベル・リイへの憧れを、再度の映画制作に託そうと決意するのだが。
破天荒な目論見へ突き進む「おかしな老人」たちを描く、不敵なる大江版「ロリータ」。
[ 目次 ]
[ POP ]
長く小説を書いてきた作家である「私」、少女の頃「アナベル・リイ」という8ミリ映画に撮られ、今は国際派女優のサクラさん、新しい映画のプロデュースをする大学時代の同級生……幾重にも時間が重なり、四国の森で起きた一揆の記憶が読み返される。
単行本からは改題された。
[ おすすめ度 ]
☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
☆☆☆☆☆☆☆ 文章
☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
共感度(空振り三振・一部・参った!)
読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)
[ 関連図書 ]
[ 参考となる書評 ]
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ポーのアナベルリーを原文で読み終えた後で、再読。登場人物の鮮やかなキャラクター設定にため息は出たが、前半は時間の移動もあってやや退屈気味。中間部、サクラさんの体温が上がり始めてからはこちらも一気に読み終えた。人が年をとる、ということを考えさせられた。