紙の本
未知過ぎる地に女流作家が挑んだ。よく生還できたと称えたい。
2024/03/24 16:21
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投稿者:大阪の北国ファン - この投稿者のレビュー一覧を見る
昔、著者の有吉佐和子さんの「複合汚染」を読んだ時には、「なんと強く恐ろしい女性なんだろう」と驚いた。レイチェルカーソン女史の「沈黙の春」が訴えた如く環境破壊が進んでいた時代であり、今考えるとわれわれ自身の空気や水を自ら汚染させていたという信じられない自殺行為を営んでいた時代である。工場や自動車の噴煙に、排水に、毒を垂れ流していたのだが、おおよそ文明社会全体に向けた不平不服がこの作家の口を通して悪、悪、悪と叫ばれたものであったと記憶している。
しかし本書における有吉さんは気の毒なくらいか弱い女性である。「私がニューギニアに行くことを誰も止めてくれなかったのが、向こう見ずにも旅立った原因である」という記述が数回でてくるが、そこだけが「やはりなんでも他人の責任に押し付ける気の強い女性」と思った箇所である。それ以外は現地で人類学のフィールドワークを続ける畑中幸子さんの理不尽な指示に従う、そして殊勝にも畑中さんに尽くそうとする端正(!)な女性であり続ける。
道なき道を掻き分けて、怪我にも吸い付く蛭にも悩まされながらニューギニアの奥地に入っていくことが何と大変なことかということがこれでもかというくらいの重みでのしかかってくる。
集落ごとに言語が違うとも言われる未知の島ニューギニア島。本書を読んで、そこの人々の暮しを踏み込んで知りたいという思いから、今から約70年前に現地で食人族に食べられたとの噂のあるロックフェラー家の御曹司についての書を早速買い込んだ。
紙の本
「運ばれる」有吉佐和子さん
2024/02/25 08:33
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投稿者:earosmith - この投稿者のレビュー一覧を見る
「和宮様御留」、「華岡青洲の妻」などずっしりと読み応えのある本を読んでからこちらを読んだので、落差に驚きました。体力に自信がないのにニューギニアまで気軽に行ってしまう有吉佐和子さんと、招いた友人の文化人類学者・畑中幸子さんとのやりとりが面白く、とくに「運ばれる」有吉佐和子さんの様子が忘れられません。
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のほほんとしたお気楽な雰囲気の文章ですが、書かれている状況は壮絶。
女二人の、半世紀昔の、「文明社会」と出会って間もないニューギニアです。そこに住まう現地の皆さんを思い浮かべると、今なら使うのを躊躇っちゃうような言葉が自然と脳裏に浮かんでくるワンダーランドです。
そんなところでフィールドワークをやっているお友達(私はこの人を密林の王者と呼びたい。)の文化人類学者、畑中さんに誘われて、うかうかと出かけて行った有吉さんの、これは自発的遭難体験と、奇跡の生還の記録です。
笑い事じゃないけど、抱腹絶倒。
…ヘリコプターも道に迷うんだ。
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いや、面白かった。
今でいうアラサー?アラフォー?30台後半だからアラフォーなのかな?に3日かけて道なきジャングルを踏破して文化人類学者のフィールドワーク最前地に行くとか。無謀にもほどがあるだろう(笑)としょっぱなから笑ってしまいました。
「悠揚迫らざる」という表現も知らなかったので勉強になりました。
現地の人が昔から繰り返してきた暮らしを、今の自分の文化や人道的観点から批判したり差別することはたやすいけれども、ありのままの現状を調査して知る、という事が文化人類学という学問なんだろうなぁとしみじみ思いました。そして畑中先生の和歌山弁での命令や叱咤には実感がこもっていて笑ってしまいました。日本のペラマダムという言い方も面白い。それにしてもマラリアって怖い病気ですねぇ…
それにしても半世紀以上前にまさに未開の土地へ、今のような通信手段もネットワークもなく単身飛び込んだ畑中さんはすごいなって思いました。今度著書を読んでみよう。
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スピン創刊号で絶版本書店で取り上げられていた
壮絶で愉快
マラリア恐ろしーー
外国へ行くときはワクチン、虫、動物に注意
ニューギニア、すごいところ、人文学者の研究もすごい。言葉を知るためにすごい労力が必要。
「文明」が価値観を変えていきつつある土地と人々を冷静に観察している
現地に行かないとわからないことがたくさん書かれている
果たして文明開花はその土地に住む人にとって良いことなのか??と投げかけている
パンツとシャツを与えられて温厚なテアテアがどんどん偉そうになっていく描写、現地の人には上下関係をちゃんとしておかないと〜という描写、猫?犬?と似てる?と思った
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小説家の有吉さんが、人類学者の畑中幸子さんに誘われるまま、軽い気持ちでニューギニアへ。待ち受けていたのは地獄のようなジャングル登山…剥がれる爪、腕に喰らいつくヒル、身体中の痒み…読んでいるだけで顔が歪んでしまうほどの体験談だ。ところがこの畑中さんが強すぎる。ライフルを背負うネイティブに臆せず、当時発見されたばかりのシシミン族を研究すべく豪快に立ち向かう。文明に触れる前の彼らの生活に驚かされるよりも、畑中さんの度胸・大胆不敵っぷり、何物にも変えられない研究への熱意が塊のように残り、なんだか元気がでる。
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作家の方のエッセイって、もっときっちり記録をとっていて、時系列で書かれてるのでは?と思い込んで読みはじめたら・・・
1968年の3月頃から5月頃までの約3ヶ月のニューギニアでの生活を綴っている。有吉佐和子の友人である、文化人類学者畑中幸子さんのもとで暮らすのだが、何しろ、ニューギニアの人たちが白人と出会ってまだ9年とか、そのくらいなので、文明が到達していない! ニューギニアでも、小さな空港からセスナで飛んで、さらに3日間いくつもの山を越えていく、その先に、畑中邸がある。畑中さんが研究してるのは、シシミン族の暮らし。もう、何しろ1978年。仮に舞台が日本でも現在とはかなり違ううえに、文明の影響を受けていないニューギニアの僻地。私の想像ではおっつかない!
南の国は、虫がでかいし、夜になったらいっぱい家のなかに出てくるらしい。無理だー。
食べ物は備蓄できる缶詰め。でも今みたいにバリエーションがない。野菜を植えても、トマトばかりできる。シシミン族の人たちに、畑中さんや有吉さんの「常識」なんて通じないので、1度トマトをあげると、次の日も「くれー」と集まってくる。ただでもらえると思われると、それも厄介。
ただ、色んな出来事が、有吉さんがニューギニアに行って何日目で起こったことなのか、ざっくりとしか書いてないし、時系列になってないから、よく分からんというのは、ある。
でも、有吉さんと畑中さんのやり取りがおかしかったり、とにかく、畑中さんが未開拓の土地で、女1人で研究してるってことがすごいことやと思う! こういう地道な努力を重ねられた多くの研究者の方の存在のおかげで、色んな国の文化や言語や慣習とかが分かっていってるんやね。
文庫本だつたので、カバンに入れて2ヶ月ほどちびちび読んでたので、途中で「早く日本に戻りたい」と思ってしまった。笑。
早く読みきるのが良いでしょう。
ちなみに、有吉さんの帰国はあっという間だった。ただ、帰国後マラリアに感染してることが分かり、入院。当時はまだ、出国前にワクチンが必須とかいう時代じゃないもんねぇ。そう思うと、1968年って、やっぱり昔だなぁーと思いました。
(有吉さんが38歳の頃)
※最初の投稿時に、1978年と記載していましたが、正しくは1968年です。9月1日に修正しました。
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有吉佐和子は人としても「持っていた」のだなと唸ってしまう。特に日本に帰る顛末は映画のようだし、帰国後の後日談もすごくて、まさに事実は小説より奇なり(ここで改めて筆者の呑気さが分かってびっくりする)。
「専門家ではないからシシミン族のことより畑中さん(筆者を招いた人類学者)とのことを書いた」と書かれてる通り、女2人の友情ものとしても読める良い本。
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筆者も言及しているとおり、畑中女史のパワーが強烈で、そこが面白い。基本カリカリしている。私はすぐ怒鳴る人は怖いし嫌いだけど、こんなにも必要かつ後腐れない怒りってあるんだなと感心した。対して有吉さんはどこかお嬢さま然というか呑気というか、どちらにしても大物である女2人の対比が魅力的な本。
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海外で文化人類学の研究をしている友人の家に遊びに行く。ただしそこは1968年のニューギニア、研究対象はほんの数年前に「発見」された部族、家はセスナ到着地から3日歩く必要があり、その3日の行程の大半は富士山クラスの山を複数越えるものだった…
とぼけた有吉さんと女王然とした学究の徒、畑中女史の暮らしは辛そうだけど笑っちゃう。
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有吉佐和子さんは、
女の情念たっぷりの重々しい世界を描く作家さんと思いきや、冒険譚的な笑いたっぷり発見たっぷりの旅紀行まで描く。
ニューギニアで単身調査している友人の人類学者さん(畑中幸子先生)に誘われて軽い気持ちで遊びに行ったら大変な未開の地だった…。
2日かけて山を越えたり、布からパンツを作ってみたり、なけなしの野豚でカレーを作ったり、出産後の女性の家になんとか調査をねじこんだり、なんとか生活し調査していく様子が、とてもワクワクした!
(材料が少ないところでモノづくりや生活を組み立てていくストーリー大好き)
紀行本をもっと読みたくなった。
あと畑中先生の本も読んでみたい。
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1968年未開の地ニューギニア。
文化人類学者の畑中さんが逗留している、発見されたばかりの部族の村に呼ばれ、
都会の小説家の有吉さんが何の覚悟もなく軽い気持ちで遊びに行ったら、とんでもない目に遭ったお話です。
とにかく畑中さんがすごすぎる・・・
キャラが濃すぎてフィクションの人物なのかと思うほど
強烈な個性をお持ちの方です。
でも、このくらい自分の感情を素直に表に出せるからこそ
屈強な男性ですら尻込みする環境の中で
生活することができるんだなぁと思いました。
傑物と言わざるを得ません。
対する有吉さん(著者)はお嬢様然とした都会のおしゃれな作家さん
言葉の端々にお上品さが拭えません。
単身海外に行くだけあって、人一倍強い行動力や好奇心をお持ちです。
有吉さんも只のお嬢様ではないのですが
空港に着いた時から来たことを後悔しています。
というか、畑中さんよくここに人を呼んだな・・・
そして著者の有吉さん、よく行ったな・・・
有吉さんすごく頑張ったと思います!
そしてまたすごいのが、
この本が出版されたのが1985年ということ
今から約半世紀前なのに全く時代を感じさせないことです。
当時は職業婦人なんて言葉がある時代に、このようなタイプの女性はかなり珍しかったのではないかと思います。
半世紀後の現在、
お話に出てくる土地をGoogle Earthで調べてみました。
オクサプミンは見つけることができたのですが
ヨリアピは見つけられませんでした。
この辺は2023年現在でもGoogle Earthで見ると緑しかありません。
シシミンという部族も検索で引っかからないので
その後、どうなったんだろうと気になってます。
今でも当時のような生活をしているのでしょうか?
この本は一度絶版になり、最近復刊されました。
とても面白かったです。
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雑誌「スピン」で中島京子さんが絶版本として紹介されていた本。図書館でもなかったのだか、今回、河出書房新社で復刊した!
期待通りの面白さ!
海外に行くこともまだ珍しかった60年遡った話なんだから、ますます凄いと唸るしかない。
著者や文化人類学者の畑中幸子氏、現代では考えられないパワー、女性の逞しさを知らしめる。
最後のオチ(といってはいけませんけど(笑))、予想外の展開でとにかく最後まで期待を裏切らない。
復刊すべき良本、長く残って欲しい本です。
装丁、挿絵も最高!
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ニューギニアで体験する衝撃的なエピソード。
当の本人は必死さとは裏腹に、読者としては想像を超える話ばかりで、思わず笑ってしまいます。
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有吉佐和子もこれまで未読の作家であった。人に勧められて読み始めたこの旅行記で、有吉は1960年代の活力にあふれた時代を体現する人物だったんだと認識した。文化人類学者の畑中幸子の「ニューギニアまでおいで」の一声でまだ未開の地であったニューギニアまで行ってしまう有吉のパワーは底知れない。帰ってきてから何で止めてくれなかったのだと友人知人に訴えたそうだが、きっと行く前なら引き留めても「大丈夫」と受け入れなかっただろう。また事前に現地の様子を調べておかなかったことを帰ってから悔やんでいたようだが、きっとこの人はインターネットで簡単に調べられる現在でも、どんな土地か下調べしないで突入していたように思わせる。「華岡青洲の妻」のドラマをテレビで見て有吉佐和子に関心を持てなくなっていたが、いやいやどうして自身と畑中さんを物語として描き出したこの1冊で、傑出した筆力をもつ作家であったんだと思い知った。