科学的思考入門

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本書『科学的思考入門』は、日常的思考と科学的思考が地続きにあるということを前提に、日常で使える科学的思考について、実践例交えつつ解説した入門書である。
大学で心理統計学を専攻した読者にとっては既知の内容が多いものの、復習を望む方や初学者にとっては価値ある一冊だと言える。
各章間に配置されたコラムもなかなか面白い。有斐閣アルマのように、斬新なチップスが散りばめられているので、読者の理解を深める助けとなっている。
併読をお勧めしたいのは、同じく講談社現代新書から刊行されている『思考の方法学』だ。こちらは個人的には星五つを付けるほど学びの多い一冊であったので、本書の内容が気に入った方にはこちらもオススメしたい。

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新書にしてはずいぶん本格的だなあ。
「制度に支えられていない、あるいは制度から外れた「ワイルドな」な知的活動から流れ出す情報に注意せよ。」「専門家」については「何を研究しているか」「どの分野の専門家なのか」に注意せよ。できれば「近年の研究活動や業績」もチェック。「専門家のコミュニティで合意はあるのか、あるいはどのくらい幅広い意見が存在するのか」も考えましょう。これ大事だねえ。

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特定の人物や難解な学術用語を極力排している印象で、その一方で紙幅を確保した新書として、広く科学的な思考・振る舞いについて述べられている。大学から学術的なスタイルが変わる中での指針として新入生にも向けられるだろうし、それ以前の受験戦争の中高生にとっても思考の足がかりとして触れておいても得るものは多いように思う。

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科学的思考の必要性:
有害な情報（特にCOVID-19パンデミックにおける反ワクチン論や陰謀論の拡散を例に）から身を守るため。
「2019年末から始まった新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) によるパンデミック、いわゆる「コロナ禍」で目立ったのは、悪質な反ワクチン論の流布やそれと結びついた陰謀論の拡散である。ワクチンの有効性や安全性は医学的にはよく確かめられている。にもかかわらず、反ワクチン論者は、その効果を否定し、ときにはワクチン接種が特定の病気を引き起こす原因であるとまで主張する。」
情報発信の品質を保証するため。
科学とはどんな活動なのかを理解するため。
知的好奇心を満たすため。
「そして有害な情報も含まれている。（中略）知的好奇心を充足させるというのは、本文中ではややマイナーな点ではあるけれども、まぎれもなく科学の大事な役割である。」
科学的思考は日常思考と連続している: 日常的な問題解決や意思決定においても、観察に基づいた証拠を検討し、アイデアを評価するという点で、広義の科学と共通する部分がある。
「広い意味での科学観察にもとづく証拠を導きとして、アイデアを検討・評価したり、より厳密な検証の試みが含まれているといってよい。」
科学的思考を妨げる心理的要因:
認知バイアス: 利用可能性バイアス、基礎比率の無視、確証バイアスなど、人間の思考に内在する偏り。
「確証バイアスとは、自分の主張を支持するような事例には目を向ける一方で、その否定につながるものには目を向けようとしない傾向のことだ。」
素朴理論: 素朴物理学（重さ、密度、温度、力などに関する直感的な誤解）や素朴生物学（病気、遺伝、成長などに関する直感的な誤解）。
「われわれ人間は、身の回りの物体や物性に対して、目や耳や手を通して近づこうとする。しかし、人間にもともと備わっている視覚や聴覚や触覚は、物体や物性の正確な重さを直接的に捉えているとは限らない。」
説明深度の錯覚: 自分が何かを理解している程度を実際よりも高く評価してしまう心理。
「説明深度の錯覚とは、何かを説明しようとするとき、それについての自分の理解が実際よりも深いと感じてしまう傾向のことだ。」
科学的方法の基本:
相関と因果の区別: 相関関係があるからといって、必ずしも因果関係があるとは限らない。
「AとBは相関するが因果関係ではない」 (図2-3のキャプション)
反事実的思考: 「もし〜でなかったら、…だっただろうか？」という問いを通じて、因果関係を検討する。
「もし心霊術師が〈パワー〉を送りなかったら、ジョンは登頂できなかったのか？」
対照実験: 条件を統制し、変化させる要因を一つに絞って結果を比較することで、因果関係を検証する。プラシーボ効果やサンプルの偏りに注意が必要。
「適切に計画・管理された対照実験は、信頼性の高い強力な仮説検証の方法である。」 (第4章のまとめより)
ランダムサンプリング: 母集団を代表するサンプルを得るための手法。
「ランダムサンプリングで代表性の高いサンプルを得るには、サンプルのサイズも重要になる。」
科学的説明:
メカニズムによる説明: 現象がどのようなプロセスや要素の相互作用によって生じるのかを明らかにする。
「メカニズムの説明は、因果的説明をサポートする役割を担うという点でもとても重要なものだ。」
法則による説明: 現象がどのような科学法則や原理に基づいて起こるのかを示す。
「法則による説明とは、ある出来事やプロセスが何らかの法則に当てはまることを述べるタイプの説明だ。」
統合による説明: 異なる現象が実は同じ法則や原理の現れであることを示すことで、理解を深める。ニュートンの万有引力の法則が例として挙げられている。
「猛暑で鉄道のレールが曲がるのも、ステンレス製のシンクに熱湯を流すと音を立てるのも、どちらも「金属は加熱すると膨張する」ためだという見方に、同じ法則が当てはまるものとして説明できる。」
科学的推論:
演繹的推論: 前提が正しければ、結論も必ず正しくなる推論。ただし、前提から新しい情報を生み出すことはできない。
「演繹の特徴は、前提がすべて真であれば、結論も必ず真になるということだ。」
非演繹的推論: 帰納（個々の事例から一般的な法則を導き出す）、アブダクション（最良の説明への推論）。新しい仮説を生み出す力を持つが、結論が必ずしも正しいとは限らない。
「帰納は、観察された個々の事例にもとづいて、一般的あるいは普遍的な結論を引き出す推論である。」 「最良の説明への推論は、科学でも効果的に使われる。」
仮説演繹法: 仮説を立て、それから演繹的に予測を導き出し、実験や観察によって仮説を検証する。
科学と非科学の境界: 反証可能性（ポパーの提唱）が重要な基準となる。科学的な仮説は反証可能でなければならない。
「反証可能性の有無によって、科学とそれ以外の非科学・疑似科学との境界線を引く――それが反証主義を唱えたポパーの目指したことだった。」
優れた科学理論の評価基準: 整合性、単純性、予測力、進歩性（新しい問題解決、他の研究領域との結びつきなど）。
「このリストにある基準は、反証主義の考え方と重なるものに加え、本書のこれまでの内容と深く関連するものも少なくない。理論的な説明によるサポート、定量化の度合い、検証による支持……などの要素が絡む基準があることを確認してもらいたい。」
認知的分業と説明深度の錯覚: 現代科学は高度に専門化しており、個々の研究者がすべての知識を持つことは不可能。知の委託・依存の関係が科学の発展を支えている。しかし、これが説明深度の錯覚を生む可能性もある。
「この手の手続きを踏まないことで、人工地震説は、最有力なライバルである自然地震説と同じ土俵の上で優劣が比較されることがなくなってしまう。」
科学における再現性の危機と自己訂正: 近年、一部の研究で再現性の問題が指摘されているが、これは科学が自己訂正的な性質を持つことの現れでもある。制度の見直しや改善を通じて、科学は発展し続ける。
「こうして見ると、再現性の危機は、研究者が拠って立つ制度そのものを再考し、積極的に改良を試みるきっかけとなる事態だったと捉え直すこともできる。」

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平穏な言葉で書かれているが、正直自分には理解するのが難しいと感じた。
科学とは説明するものである。
説明や思考が科学的かどうかのポイントの1つは専門的に確立された用語や概念の使用に求められる。言い換えれば、用語や概念が明確に定義されているかが問われる。
理論的な説明の可能性。つまりその説明が成り立つのかも含めて説明できるのか。少なくともそうした説明を試みる用意があるのか

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今までぼんやりと行ってきた思考の数々を、分かりやすくまとめてくれていて非常に良かった。
1度読んだだけでは意識しきれない部分もあるので、しばらくしたらまた読みたい。