旗師・冬狐堂 みんなのレビュー
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紙の本緋友禅
2006/01/11 06:30
冬の狐ネメシスに化ける
2人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:星落秋風五丈原 - この投稿者のレビュー一覧を見る
同氏のもう一人のヒロイン考古学者・蓮丈那智に比べると、本シリーズのヒロイン・宇佐見陶子は、美貌においては拮抗しそうだ。だが、クールさにおいては、那智の方が断然優っているように思われる。とはいっても、陶子が情に流されない冷静な判断が全く出来ないわけではない。
むしろ店を持たない流れ旗師だから、瞬時の判断力は日々鍛えられ、
普通の人よりは鋭敏な感覚を持っている。その点は、時折出てくる競りや価格交渉の場面で提示される。だが一方で、自らを「物事に積極的に関わっていこうとするタイプではない」といいながらも、彼女は厄介な事件に出くわす度に、首を突っ込み、どっぷりはまってしまう。
陶子は、小さな画廊で見かけたタペストリーに惚れ、全作品を
即金で買い上げた。ところが、期日になっても品物は届かず、作者の家を訪れると、そこには作者の死体が…という表題作もその一つだ。
この作品や他の短篇「陶炎」「『永久笑み』の少女」「奇縁円空」において、
陶子はネメシス(復讐の女神)を演じる。騙されたり、喧嘩したり、
必ずしも良好な関係を築いていたとは言い難い人達に対して、彼女がそこまで義理立てするいわれはない。けれども彼女の矜持、作品への愛、倫理観が、絶対悪を許さない。その毅然とした態度に、惚れ惚れする。
惚れた挙げ句に本人に「あなたは実はとっても優しい心の持ち主で、冷たい肌の下には、人一倍熱き血が流れているんじゃない?」 などと聞こうもんなら、やっぱり答えては貰えないだろう。あくまでクールな彼女の側で練馬署の犬猿コンビ・根岸と四阿刑事やカメラマンの硝子ら冬狐ワールドの面々が、意味ありげな笑いを浮かべている様子が、目に見えるようだ。
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