さかしま みんなのレビュー
- J.K.ユイスマンス (著), 渋沢竜彦 (訳)
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紙の本さかしま
2002/09/07 12:28
逆説
12人中、11人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:矢野まひる - この投稿者のレビュー一覧を見る
白状するが、ユイスマンスを読むのは根性がいるのだ。退廃主義と言うから退廃してるのかと思ったら、とんでもない。いまどきのワイドショーなどで、なんとなくだらしがない、無気力、ごてごてしている、といった程度の意味で口にされる退廃という言葉とはわけが違うのだ。「さかしま」を読む限り、退廃ってのは、ものすごい生への執着のことを指しているとしか思えない。
主人公デ・ゼッサントは、宗教にも勉学にも女にもすっかり嫌気がさしている。聖体のパンが、小麦粉ではなくじゃがいもの澱粉で作られるのには納得できない。金銭ずくの価値観しか持っていないのにも関わらず、凋落した貴族や僧侶のつまらぬ虚栄心やうぬぼれには迎合するブルジョワにはうんざり。女にも飽きた。もうとにかく、浮世の事柄全てに嫌気が指している。
そこで、人里離れた邸宅で、自分を心地よくしてくれるいろんな試みをする(貴族の末裔なのでお金はある)。
居室をルートヴィヒニ世とマイケル・ジャクソンを足して百倍にしたくらいの執拗さでもって飾り立てる。ギュスターヴ・モローのサロメにはまったり、口中オルガンと称する1種の利き酒にのめりこんだり、ありとあらゆる病的な植物を集めて(お気に入りはカラーとウツボカズラ)植物は梅毒だ! と決め付けたりもする。ディケンズやユーゴーを低俗! と言い放ったかと思うと、気が変わって「この低俗さがいいのだ」などと倒錯的な感情にとらわれたり、貧しい青年を高級娼家に連れて行き、贅沢三昧させたあげくに急に援助を打ち切って犯罪に走らせようと試みたり、幻臭に悩まされて香水の調合にのめりこんだり、とあらゆることをやってみて、その結果、神経症はますます進行していくのである。
そして、本当はこういうところがこの小説の白眉らしいのだが、ラテン語の文学作品や中世の宗教文学の引用や批評がすごい。私は完璧にお手上げでした(他の箇所だって、きっちりついていくことができたというわけでは全くないのだが)。漠然と、19世紀の終わりに宗教文学を文学的見地から批判するのはとても衝撃的なことだったんだろうな、と思いをめぐらせるが、正直言って、私の生きている時代と私自身の教養のなさから、あまりぴんとはこない。
それよりも、デ・ゼッサントひいてはユイスマンスのものすごい知識欲に圧倒された。これが、なんとしてでも生延びてやる! という試みでなくてなんでしょう。気がつくと同じところを何べんも読んでしまい(教養がないので意味がわからないところだらけ)、やっと読み終わったらもう疲労困憊してしまいました。それにも関わらず、このあまりにも、屈折してはいるが過剰な、生に執着する魂に触れることで、私はかなり相当励まされ、元気をたくさんもらったのです。
「さかしま」を読んで、こんな感想を持つこと自体、それこそ退廃というものなんじゃないかしらん、なんて思ってしまったのでした。
紙の本さかしま
2020/05/16 09:55
19世紀末のフランス作家ユイスマンスのデカダンスの一冊です!
4人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:ちこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
本書は、19世紀末のフランスを代表する作家ジョリス・カルル・ユイスマンスの作品です。彼は代表的なデカダン派作家と見做されており、同書の表題となっている「さかしま」は「逆さま」や「道理にそむくこと」といった意味で使われています。同書の主人公デゼッサントは貴族の末裔で、学校を卒業後、文学者との交際や女性との放蕩などで遺産を食い潰していきます。やがてそうした生活に飽き、性欲も失い、隠遁生活を送る決意をすします。祖先の遺した城館を売り払い、使用人とともに郊外の一軒家にこもって趣味的な生活を送っていきます。 そのうち、修道院の隠棲生活に憧れを持ちはじめ、自身の部屋を「人工楽園」として築いていきます。しかし、次第に神経症が悪化し、不眠、食欲不振などに悩まされる日々が続きます。ある日、ディケンズの小説を読み、ロンドンで暮らそうと考えて家を出るのですが、結局汽車に乗らずに帰ってきてしまいます。医師から、現在のままでは神経症はよくならないので、パリで普通の人間に交わって生活するよう命じられ、パリへ向かうべく、デゼッサントは住居を引払います。さて、主人公 デゼッサントはどうなっていくのでしょうか?続きは、ぜひ、同書をお読みください。
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