もしもし下北沢 みんなのレビュー
- よしもとばなな (著)
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紙の本もしもし下北沢
2010/11/18 08:13
すばらしい魔法
4人中、4人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:夏の雨 - この投稿者のレビュー一覧を見る
物語の冒頭に、著者のよしもとばななさんの決意みたいな宣言が書かれているのは、初出が新聞小説という形態だったからかもしれません。
それは市川準監督の「ざわざわ下北沢」という映画の、この物語の主人公よしえの感想としてこう書かれています。「人々の心をゆさぶり、励まし、地に足をつかせることができる」ことを「自分以外の人に向かってこんなすばらしい魔法をかけたいと」。
その宣言とおり、この物語は「心をゆさぶり、励まし」てくれる、「すばらしい魔法」のような作品です。
下北沢という街によしえと彼女の母親が住み始めたのは父親が女性と無理心中して死んでしまって一年後くらい経ってからです。その間二人は突然の父親のとんでもない死に方に呆然自失となっていました。
そんな二人を下北沢の街が癒してくれます。よしえの働く料理店も日本茶喫茶店も古本屋さんもどこにでもあるようなコンビニも、生活というやさしい匂いをだして二人を包みこんでくれます。新しい生活の場がいつしか二人を悲しみにきちんと向かい合わせるところまで再生させます。
それに死んだ父親とつながりのある人たちがまるで下北沢を磁場のようにしてよしえたちの前に集まります。特にバンドマンの父親がしばしば活動していたライブハウスの若い店長新谷くんの登場はよしえに新しい恋の予感だけでなく、閉じかけていた父親との関係を見直すきっかけとなります。そして、父親のバンド仲間だった山崎さんとの出会いへとつながっていきます。
そういう人のつながりは街の風景にもすこし似ています。街は店と店とつながって、そこに生活の場を持ち、生きる力を与えてくれます。人もおなじです。生きるということはそういうつながりです。
「ひとりではなかった。私の知らない様々な人たちが同じように出たり入ったりして街は創られていく」と、物語の最後で主人公のよしえを感じます。街が創られていくように、よしえ自身もまた創られているのです。
この物語は再生の物語だし、生きている人たちの物語です。そして、きちんと生きている人たちは死んでいったものたちへ「もしもし聞こえますか」と交信できるということを教えてくれる物語でもあるのです。
◆この書評のこぼれ話は「本のブログ ほん☆たす」でお読みいただけます。
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