アリストテレス『デ・アニマ』注解 みんなのレビュー
- 水地宗明 (著)
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2002/04/12 21:22
こころの働きを包括的に捉える古典的名著を豊かに読み解く
3人中、3人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:小林浩 - この投稿者のレビュー一覧を見る
「万学の祖」アリストテレスの著書の中でも、『デ・アニマ』は中世のアラビア思想やスコラ哲学における重用以来、多くの注釈を生んできた。ここ日本では近年で実に三度も新訳されており、他の著作と比べても異例である。さらに言うなら、主題とされているギリシア語の「プシュケー」をどう訳すかがいまだに確定的でなく、したがって書名が新訳ごとに異なるというあたりも異例である。1999年の桑子敏雄訳(講談社学術文庫)では『心とは何か』、2001年の中畑正志訳(京都大学学術出版会)では『魂について』、そして今回の水地宗明による新訳と注解ではラテン語訳の表題としてよく知られている『デ・アニマ』が採用されている。岩波版の全集では『霊魂論』とされ、これがもっとも人口に膾炙しているが、いわゆる東洋的な「霊魂」とは意味が異なる。五感や意識や知性の働きを包括する、広義における「こころ」についての記述、というのが差し当たりの理解の前提になろうか。なお本書ではプシュケーの訳に「魂」が採用されている。
本書は1907年のヒックス校訂版を底本にし、訳者による丁寧な補足を付与した新訳と、その訳文の分量を上回る詳細な注解を一冊にまとめた労作である。注解において参照されるのは、四世紀のテミスティオス、六世紀のフィロポノスとシンプリキオスなどによる古い注釈をはじめ、トマス・アクィナス、トレンデレンブルク、ブレンターノ、カッシーラ、ホルンなど、中世から1990年代の最新成果までの数多くの文献であり、そのうちの代表的文献だけでも15点を下らない。まさに欠くべからざる模範的研究書である。注解のあとには二つの解説「アリストテレスの心理学説」「能動的知性のいろいろな解釈」が続く。前者は『デ・アニマ』の簡潔な鳥瞰図であり(いわゆる近代的な「心理学」のことではない)、後者は後世に様々な解釈を呼び起こした概念「能動知性」をめぐる議論の整理である。「思考させる知性」である「能動知性」は果たして人間のものなのか神のものなのか。アリストテレスを読むことがどれほど広大な視野を読者に与えるか、本書はその冒険の手引きとして最良の成果である。
※アリストテレス関連書→こちら
人文・社会・ノンフィクションレジ前コーナー4月1日分より
(小林浩/人文書コーディネーター・「本」のメルマガ編集同人)
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