古本屋を怒らせる方法 みんなのレビュー
- 林哲夫 (著)
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紙の本古本屋を怒らせる方法
2007/10/11 10:28
書を求め、町へ出よう
6人中、6人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:仙人掌きのこ - この投稿者のレビュー一覧を見る
思わず手に取りたくなる、いい題である。
著者は「『古本屋を怒らせる方法』という本を書いたとしてもさっぱり売れそうにない」と謙遜するが、そんな事はない。タイトルに惹かれて購入した者がここにいる。
ただ、タイトル買いなので、たいへん失礼ながら著者の林哲夫氏が画家である事も、雑誌の編集人として歴史に埋もれた出版人の再評価に尽力されている事も知らなかった。
氏の興味の対象――古書店に求めるもの――は主に雑誌である。しかも「埋もれた出版人」の出したものであるからマイナーだ。私の浅学菲才を差し引いても、聞いた事のない名前の雑誌が並ぶ。
読み進むと、ちょっとした古書店散歩ガイドといった趣きの章がある。しかし、紹介されているのは京都で、私の行動範囲からは遥かに遠い。つまり本書の内容は、興味のある本のジャンルも地理も、私とは完全にズレていたのだ。
やはりタイトル買いなどするものではない……と私はガッカリして本を閉じた、のではない。むしろ逆で、最後まで非常に面白く読む事ができた。
ジャンルや地理が違っていても、古書店で味わう喜びや憤りは同じだからだ。均一棚から思わぬ掘り出し物を見つけた喜び、偏屈な古書店の主人に対する立腹、趣味を同じくする古書仲間との競争や友情。そんな古書を巡る出会いや別れ、喜怒哀楽が生き生きと描かれている。古書店巡りが好きな人にとって、それらは容易に自分の体験と置きかわり、旧知の友の語らいを聞くような楽しみを見出すはずだ。
作中、愛犬の死が語られる印象的なエピソードがある。火葬場で亡骸を焼く間、著者は古書店を巡り、そこで信じられない価格で貴重な資料を入手する。哀しみのなか小さくガッツポーズを取る姿に、私は本好きの業を見てほろり、ニヤリとさせられた。
それにしても古本屋というのは特殊な空間だと思う。ある種の緊張――怒られるのではないかという心配――を伴う商売なんて、古本屋と寿司屋、そして特別なラーメン屋くらいではないだろうか。店主が客を叱り飛ばす、そのあり得ない光景があり得るものとして感じられるからこそ、このタイトルが活きてくる。
寿司屋の場合は主従関係がハッキリしている。客は「生徒」であり、職人肌の「先生」に教えていただくという気分がある。(もちろんこれはイメージで、現実にはリラックスして食べるに越した事はないが)「おまかせ」「時価」という特殊なシステムに、それが現れている。
古本屋の緊張感は、それとは少し違う。主従が曖昧なのだ。客は店主の不得意なジャンルに「掘り出し物」がないかと常に目を皿にしているし、店主は客の好みを探って「とっておきの一冊」を売ろうとする。買い取りの時などは、まさに立場が逆転する。客はその本の稀少性をアピールし、店はひとつでも多くシミを発見しようとする。(少々誇張もあるが)
古書店の客と主人は表裏一体、ほのかな共犯関係とも同病相憐れむともいえる心理を抱いているのではないだろうか。その店内に流れる緊張感は、近親憎悪から生まれるものなのかもしれない。
最近は「新古書店」に押されて、個人店が次々に消えているという。もちろん、時代の要請で新しいシステムが出来ることは良い事だ。この本の著者だって、ネット注文やオークションを駆使している。
しかし、暗く雑然とした店内で静かに火花を散らす楽しみは、新古書店やネットでは味わえない。
インターネット書店の書評で書くのもどうかと思うが、たまにはパソコンの電源を切って自分の町の古書店を覗き、店主に「怒られる」のも悪くないのではないだろうか。
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