外交とは何か　不戦不敗の要諦

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外交の失敗と戦争の悲劇:
1939年のスロバキア併合は、外交の失敗がもたらした悲劇の例として挙げられている。
第二次世界大戦前のヨーロッパ情勢を振り返り、ジョージ・ケナンの「賠償という重荷が広がり、わめき叫んでいる」という言葉が引用され、過酷な和平条件が次の大戦の火種となりうることを示唆している。
ハウス大佐がドイツ皇帝ヴィルヘルム二世に警告した言葉「ドイツが無謀な戦争に入るようなことがなければ、世界第一流の強国として存在し、繁栄をつづけ得るであろうが、もしそうでなくして、戦争を始めるようなことになれば、それはとどまらず独仏間の小さい争いに止まらず、世界戦争にまで発展するであろう。そうなれば...これまで築き上げたドイツの国力が根底から覆ることになりかねない」は、外交による平和的解決の重要性を強調している。
第一次世界大戦開戦時、ロシアに宣戦布告書を手渡すプルタレー大使が涙ながらに「これで私の任務は終わった」と述べたエピソードは、戦争が始まれば外交の役割が終わることを象徴している。
外交の目的と国家利益:
「なき『国益』とは国家・国民の平和と繁栄」であり、外交家はこれを平和的に追求する役割を担う。
日本の開国、日英同盟、第一次世界大戦後の対米関係の変遷を振り返り、「日本外交の根本基調を対米親善的に敷くべき大原則は、今後も変らぬであろうし、変えるべきでもない。それは...明治以来の日本外交の大道を守ることになる」と、吉田茂が述べているように、時代を超えて変わらない外交の軸があることを示唆している。
外交と武力の関係:
孫子の言葉「戦わずして人の兵を屈するは、至善の善なるものなり」を引用し、外交による国益の維持・増進もまた「善の善なるものなり」としている。
キューバ危機において、ロバート・ケネディが「この戦略こそまさに...戦争をしないでキューバからミサイルを撤去させることであった」と語っているように、武力を行使せずに外交によって危機を回避した事例を紹介している。
マキャベリの「抗しがたい力の原則」に触れつつ、平和憲法を持つ日本が国際政治の現実の中でいかに国を守るかという難題に対し、「一つの有力な答えは外交であった」と結論付けている。
「隙あらば武力によってでも目的を追求しようとする卑人もいる」としつつ、「外交だけで平和が保てると考えるのもユートピアに過ぎる」と、外交と武力のバランスの重要性を指摘している。
外交力とその要諦:
外交力とは何かを問いかけ、「情報力」「交渉力」「発信力」がその要素として挙げられている。
外交の実務の要諦として、「全体性」「両立性」「持続性」「均衡性」「正当性」が示唆されている。
アーネスト・サトウの「民主主義における『対外政策』は、白票代議者の承認を得て決定すべき小柄であるのに反し、同政策の遂行は『外交』と呼ぼうと或いは『交渉』と呼ぼうと、経験と思慮分別を有する玄人に委ねられるべきものなのである」という言葉は、民主主義と外交の専門性の関係について深い洞察を与えている。
情報の重要性:
外交における「情報」の役割を強調し、情報収集の重要性、機密情報の入手、分析の重要性、そして情報と政策の関係について触れている。
ペリー来航時の日米交渉において、「日本側の記録にとどまらず、日米双方の資料を丹念に読み、さらに英米説争の資料や中国情報、オランダ情報などを総合的に読むと、...歴史の実像と大きくかけ離れていることがわかる」と、客観的かつ多角的な情報分析の重要性を指摘している。
勢力均衡と国際秩序:
「勢力均衡は武力を用いる瀬戸際の均衡政策である」と説明し、フランスとオーストリアが共通の価値観と調和させながらドイツを強化した例を挙げ、戦略的な勢力均衡の重要性を示唆している。
ウィーン会議では勢力均衡と価値の共有からなる共通の秩序が戦争ではなく平和を可能にしたと指摘している。
第一次世界大戦後のヴェルサイユ会議にはそのような外交家がいなかったため、ドイツに対する過酷な要求が次の大戦の原因になったと分析している。
外交交渉の実際:
「外交の営みをゲームとして楽しむ感覚なしに、外交という複雑で微妙な技術はあり得ない」と、外交交渉の機微に触れている。
日露戦争後のポーツマス講和会議における小村寿太郎外相の交渉力を、国民の熱狂的な歓迎をもって示している。
国内政治と外交の関係:
日独伊三国同盟や対米開戦が国民の預かり知らぬところで決定され、国民に多大な犠牲を強いた過去を反省し、戦後の日本国憲法には外交の民主的統制の観点からの規定が盛り込まれたことを指摘している（条約の批准など）。
国民世論の硬化が外交を阻害する例として、日露戦争後のポーツマス講和条約に対する国民の激しい反発（日比谷焼き討ち事件など）を挙げている。
「外交は内政の鏡であり、政治の対外的表現である」と指摘している。
リーダーシップの重要性:
伊藤博文が日清戦争後の講和交渉において、軍部の独走を抑え政治の優位を確立しようとした事例を紹介している。
原敬首相、犬養毅首相、斎藤実首相といった政治指導者が、外交と軍事を統御することの難しさに直面し、非業の死を遂げた時代があったことに触れている。
「外交と軍事を迎動させ得る偉大な指導者を失ったことは、誠に痛惜に堪えない」と、外交を主導する強力なリーダーシップの必要性を強調している。
日米関係の重要性:
ワシントン軍縮会議における日本の決断（八八艦隊計画の縮小、四カ国条約による日英同盟の解消など）は、日米協調への外交の軸足の移動を示すものだったと評価している。
満州事変以降、日本の国際連盟脱退、日米交渉の決裂、そして太平洋戦争への突入といった経緯を振り返り、当時の日本外交の失敗の原因を分析している（松岡洋右外相の強硬姿勢、軍部の自己完結的な思考、指導力の欠如など）。
日米首脳会談の幻影や、ハル・ノートの受け取り遅延など、開戦に至るまでの外交の混乱した状況を描写している。
開戦前、昭和天皇が軍部の独断専行を批判していたにも関わらず、その後の歴史は大御心に沿わなかったことを指摘している。
戦前の教育と軍部の影響:
天皇が幼年学校の教育の偏頗が軍人の独断専行を生んだと批判した言葉を紹介し、軍部の組織文化の問題点を指摘している。
外務省の極秘調査文書「日本���交の過誤」を引用し、外交の衝に当たる者には常な果断と真の勇気が不可欠であると述べている。
敗戦はいくつかの重要な伏線の積み重ねによって起きた必然的な結果であり、満州事変や日華事変以降、軍部が外交を圧倒する中で事態が悪化したと分析している。
統帥権という明治日本の体制に内在する構造的な問題が、軍部の暴走を許した要因の一つであると指摘している。
「脱亜入欧」から「脱欧入日」へ:
明治維新以来の「脱亜入欧」と、満州事変以降の反米英・自存自足の「脱欧入日」という二つの思潮の対立が、日本の近現代史に深く根ざした問題であったと指摘している。
国際社会の特質と外交:
国際社会には国内社会とは本質的に異なる「法の支配」の脆弱性という特徴があると指摘している。
主権国家が並存する国際社会には、国家主権を超える世界的権力は存在しないとし、国際連合の限界についても言及している。
ホッブズの自然法に関する記述を引用し、現実主義的な視点から国際関係を捉えることの重要性を示唆している。
キッシンジャーの外交観を紹介し、アメリカ外交の本質は理念主義にあるとしつつ、現実主義とのバランスの重要性を指摘している。
国内政治の変動と外交:
ワシントン体制下での政党政治の発展と、その後の軍部の台頭、そして国民世論の硬化が外交に与えた影響を分析している。
寺崎太郎が外務省にも「革新派」と呼ばれる軍部に呼応する少壮官僚が存在したことを指摘しているように、国内政治の潮流が外交に大きな影響を与えることを示唆している。
国益とパワー:
アテナイとメロスの対話を引き合いに出し、「強い者がなしうる限りにおいて正義が決まる」という力の論理が現実に存在することを示唆している。
中国の習近平国家主席がトゥキディデスの罠に言及している可能性に触れ、歴史の教訓を学ぶことの重要性を指摘している。
アリソンとゼリコウのキューバ危機分析モデル（合理的行為者モデル、組織行動モデル、政府内政治モデル）を紹介し、政策決定の複雑な側面を示している。
モルゲンソーの現実主義国際政治学を紹介し、国家はパワーを追求する主体であるという視点を提示している。
米中の関係を「管理された競争」と捉える枠組みを紹介し、競争と協力のバランスの重要性を指摘している。
戦略と地政学:
アメリカのモンロー主義、マニフェスト・デスティニー、マハンによる海洋戦略の提唱といった歴史的経緯を紹介し、地政学が国家戦略に与える影響について考察している。
中国の台頭と、それに対するアメリカの「接近阻止・領域拒否（A2/AD）」戦略を紹介し、現代の地政学的競争の様相を示している。
外交交渉の要諦（再考）:
優れた交渉家は「相手の立場を慈しみ深く、よく噛み砕いて理解しようと努める」と指摘している。
情報（インフォメーション）と知恵（インテリジェンス）の違いを解説し、専門的・戦略的な評価や分析に基づいたインテリジェンスの重要性を強調している。
外交特権の意義と限界について説明している。
交渉においては、自国の利益のために嘘をつくことも辞さないという現実主義的な側面があることを示唆している。
プーチンや金正恩のような独裁者との交渉の難しさと、合意が守られるかという懸念について言及している。
ミャンマーに対する日本の政府開発援助（ODA）を巡る対米関係の事例を紹介し、「同意しないことに同意する」という妥協のあり方を示している。
「悪しき妥協」と集団安全保障:
一方的な軍縮は「悪しき平和」を生む可能性を指摘し、現状変更を試みる国家に対しては協調して対処することなしに集団安全保障は機能し得ないと警鐘を鳴らしている。
ミュンヘン会談の教訓を示し、安易な妥協がより大きな危機を招く危険性を示唆している。
満州事変後の幣原外交に対する国内の厳しい批判を紹介し、国内世論と外交の乖離の問題を指摘している。
「日本が正しい、世界が悪い」という独善的な思考に陥ることの危険性を指摘し、客観的な情勢分析の重要性を強調している。
山本七平の「空気の研究」を紹介し、合理的思考が欠如したまま「時代の気分」に支配され、戦争へと突き進んでしまった日本の過去を分析している。
吉田茂の回顧録を引用し、日本人の国民性として、言うべき時に言わず、後になって言い訳をする傾向があることを指摘している。
外交官の役割:
外交官の重要な役割として、「情報収集・分析・報告者」「意思疎通のパイプ役・伝達者」「交渉担当者」「政策立案への貢献者」「自国と国民の保護者」「広報担当者」を挙げている。
「心ある報告書」を作成する能力の重要性を強調している。
本国政府の申し入れ（デマルシュ）を外国政府に伝え、外国政府からの申し入れを本国政府に報告する迅速性と正確性の重要性を指摘している。
首脳会談や外交交渉の記録と報告の重要性を強調している。
外交における倫理とリアリズム:
マキャベリズムを紹介し、国家の利益のためには不道徳と見なされる行為も躊躇うべきではないという考え方について議論を呼んだことを紹介している。
「大使とは、自国の利益のため、外国にて嘘をつくために派遣される、立派な人間をいう」という古い言葉を紹介し、外交の現実的な側面を示唆している。
小村寿太郎外相がポーツマス講和会議において、国民の激しい対戦要求を背景に、ロシアとの交渉を妥結に導いた事例を紹介し、外交官の胆力と決断力の重要性を強調している。
明治天皇が日露戦争終結の詔勅において、「忍び難きを忍び、堪え難きを堪え」と述べているように、国家の命運を左右する決断においては、苦渋の選択も必要となることを示唆している。

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